ここから本文です

教育に投資すると、「私」だけではなく「みんな」が豊かに 中室牧子(教育経済学者)×出口治明(ライフネット生命保険会長) (前編)

6/30(金) 12:31配信

Wedge

ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。

「教育は投資」への反感はどこから?

出口:アメリカの研究などでは、できるだけ幼児期に教育投資したほうが、効果が高いという研究結果が発表されています。教育のどの段階で何にどう投資すれば意味があるのでしょう。

中室:わぁ、いきなり奥の深い質問ですね。まず、経済学では、教育を「投資」と考えますが、一般の方にとってはあまりそうした考え方が馴染みがないようです。私がテレビなどで「経済学は教育を投資と考えています」と言うと、「自分の大事な子どもに対してお金をかけるのは、投資ではない。別に見返りを求めているわけではない」という批判のご意見が寄せられます。

出口:でも、お金をかけることって、すべて投資ですよね。

中室:消費に過ぎないお金の使い方というのもあると思います。しかし、消費とは区別して、教育は投資なのです。もちろん、子どもにお金を使うことで必ずしも何か見返りを求めているわけではないからといって、学校を卒業した後、全くお金を稼げない大人になったとしたら・・・。やはり、親としては頭を抱えてしまう。そのことを頭では理解しながらも、教育にお金をかけることを「投資」と呼ぶのに、抵抗がある方も少なくないというところでしょう。

出口:それは、なぜでしょう?

中室:おそらく、教育の成果をお金で測ることに抵抗があるのではないかと思います。ただ、経済学は、教育の成果を将来の収入や賃金だけで測っているわけではありません。将来の健康や幸福などもまた教育の成果と捉えています。自分の子どもに健康で、幸福であってほしいと思わない親はいませんから、健康や幸福までも含めて、教育の投資リターンを考えているのですと言えば、納得していただけるのではないかと思っています。

 ただ、教育に対する投資が、株や債券などの金融資産に対する投資と違うのは、教育への投資には「外部性」が存在するということです。たとえば金融資産への投資の場合、その投資からリターンを得るのは自分だけです(これをやや専門的に言うと「教育の私的収益率」といいます)。一方、教育にはそうした私的な投資リターンだけでなく、社会全体が得る投資リターンもある(これを「教育の社会的収益率」といいます)。

出口:地域の住民同士のつながりが強くなったり?

中室:はい。それ以外にも、公衆衛生の改善や、犯罪率の低下、投票率の上昇や貧困や格差の解消などです。

出口:なるほど、その通りですね。

中室:こうした教育による正の外部性の存在が、教育に公的資金を投入することを正当化する理由です。教育を受けることによって、「私」も豊かになるけれど、「社会」の人々も豊かになれる可能性がある。これが、教育が金融資産などへの投資と最も大きく異なる点だと考えられています。

1/6ページ

最終更新:6/30(金) 12:31
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2017年9月号
8月19日発売

定価500円(税込)

■特集  捨てられる土地
・所有者不明だらけの日本国土
・所有者不明土地が招く空き家問題
・登記義務化と利用権制限 次世代のための制度改革を