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【保護犬と暮らす】神様が贈ってくれた黒い天使

6/30(金) 8:11配信

@DIME

保護犬と暮らす
神様が贈ってくれた黒い天使

人にしても犬にしても、何か惹きつける魅力をもっている個性というのはあるものだ。地味な人生を送っている筆者からすれば、ほんの少し分けて欲しいと思うくらいだが、フラット・コーテッド・レトリーバーのヴィヴィ(メス、5歳)も、そんな個性の持ち主である。

ペットの市場に置き去りにされたある柴犬の話

飼い主のN田さんは、里親を必要とする保護犬の写真が並んだサイトを見ている時に、まん丸で、キラッと輝く瞳、どこかニコッと笑ったような表情をした黒い犬に一瞬でビビッときた。

「この犬はうちのコになる」

実は、N田さんはすでに2頭のフラッティと暮らしていた。家を新築したのを機に、ご主人のたっての希望で迎えたのがライザ。元々は猫が好きで、「新築の家に犬はどうかな…それも大型犬だし…」と思っていたN田さんだが、一緒に暮らしてみればたちまちライザの虜となり、一回だけ繁殖もした。

9頭子犬が産まれたうちの1頭を残してエルモと名づけ、他の8頭はそれぞれ新しい飼い主となる人に託したのである。初めての愛犬のお産。短い間とは言え、手塩にかけて育てた子犬たちはやはり可愛い。「万が一にも飼育放棄というようなことになったら…」と想像するだけでも辛いと感じるのは当然のことだろう。

そんな気持ちから、N田さんは子犬を送り出した後、「あのコたちと年齢が近いフラッティがいたら保護をしよう」と考えていた。そして、引き取るべき犬とインターネットを通して出会ったというわけだ。

その犬の譲渡条件には「多頭飼いの家庭」とあり、環境的にもぴったり。ご主人に相談すると問題なくOKという返事で、早速に保護団体に連絡をとった。

2012年、ロンドンオリンピックの開会式があった日、ライザとエルモも連れて保護団体を訪れると、写真で見た犬がシッポを振りながら待っていた。元はペットショップで売られていた犬らしい。一旦は買ったものの、「飼いきれない」と購入者がペットショップに戻したのだという。フラッティという犬種の特性もあって、活発さに手を焼いたということなのだろうか。

保護団体に引き取られてからはきちんと世話を受けてはいたが、それでも生後7ヶ月の成長期にありながら、体はガリガリに痩せている。それがいつも楽しいことを待ち望んでいるかのような爛々と輝く瞳を、より際立たせていたのかもしれない。

通常なら、その家庭にマッチするかどうか、お試し期間というのが設けられるが、初対面であるにもかかわらず、その犬はライザやエルモともすっと打ち解け、何も問題になるようなものは見られない。その様子を見た保護団体スタッフからも、「これなら大丈夫そうですね、すぐにでも連れて帰ってもらっていいですよ」という言葉があり、その日のうちに家族の仲間入りをした。

付けられた名前は、「一目でビビッときた」というN田さんの言葉そのままに、“ヴィヴィ”。初めての環境に臆することもなく、食欲もモリモリ。寂しがって夜間に鳴くこともせず、元から家族であるかのように拍子抜けするほどスッとN田さんのお宅に馴染んだそうだ。

「とにかくヴィヴィはいいコ過ぎるくらい、いいコなんですよ。散歩中など近所の子供たちがワッと寄ってきて、ヴィヴィを撫でまわすことがよくあります。もちろん、子供たちに犬はこうして触るんだよということを教えますが、ヴィヴィはちょこんと座って子供たちの好きなようにさせているんです。近所のお母さんには、これまで犬が苦手だったけれど、ヴィヴィを知ってから怖くなくなったと言ってもらえたこともあります」

「こう言ってはなんですけど、ライザのほうが犬としてはずっと美人です。ヴィヴィはフラッティとしては耳も短いし、当時はガリガリだったし。それでも、なぜか皆さんヴィヴィに寄って来るんですよね。主人がアウトドア好きなので、よくキャンプにも行くんですが、ヴィヴィが来てからというもの、そんな調子でいろいろな人に声を掛けていただけるようになり、お友達がたくさん増えました。何かもっているものが違うというか、ヴィヴィがいると周囲が華やかな雰囲気になりますし、まさに縁を運んでくれるコ、世界を広げてくれるコといった感じです」

こうして3頭の愛犬との楽しい日々が2年ほど続いた。しかし、N田さんにとっては青天の霹靂であったことだろう。ライザとエルモが母子そろって組織球性肉腫と診断されたのである。フラッティやゴールデン・レトリーバー、バーニーズ・マウンテンドッグなどに発症例が多いとされる悪性度の高いガン。偶然にもその診断を受けた日にご主人が遠方へ単身赴任することが決まり、N田さんは不安に駆られた。

「どうしよう…と思いました。けれど、ヴィヴィがいてくれたから、ライザとエルモをちゃんと見送ってあげることができたのだと思います…」

そう当時を振り返りながら、2頭の愛犬を思い出し、N田さんの声は涙に震える。

愛犬の世話はどうしてもライザとエルモが先になるのは仕方ない。それまで散歩や食事の時には、「アタシも! アタシも!」というようにはしゃいでいたヴィヴィが、2頭の病気が発覚以来、不思議なほどにそれがぴたっとなくなり、おとなしく順番を待つようになったそうだ。近いうちに逝くのかもしれない…と思う愛犬の世話をすることは、時に心が張り裂けそうに苦しくなるものだが、そんな時、ヴィヴィはそっとN田さんに寄り添う。

「多分、ヴィヴィが元気で、ただ明るいだけのコだったら、バランスが取れなかったかもしれません。私にとっては、いなくてはならないコだったのだと思います」

ライザが亡くなる前は、彼女のシッポに自分の顎を乗せて、一晩ずっと一緒に過ごしたヴィヴィ。何かを察知していたのだろうか…。

病気の診断を受けてから1年後、7月には娘のエルモが、9月には母犬のライザが後を追うように息を引き取った。

「ヴィヴィがいなかったら、きっと深いペットロスに陥っていたと思いますし、ライザたちと毎日散歩で歩いた場所は歩けなくなっていたと思います。でも、ヴィヴィがいるから、またその同じ道を歩ける。ボロボロ泣きながらでも、歩けるんです…」

そんなヴィヴィのことを、N田さんは“神様から授かったコ”だとおっしゃる。それぞれの命が何かの目的をもってこの世に生まれるとするなら、ヴィヴィはN田さんのお宅にやって来るべくしてやって来たコということなのだろう。

「犬や猫を飼ったなら、最後まで面倒を見るというのは望まれることですが、実際にはいろいろな事情で飼えなくなるケースというのはあると思うんです。飼いきれなくて捨てられたり、ケージに閉じ込めっぱなしにされたりすることを考えれば、よくぞヴィヴィをショップに戻してくれたと今では思いますよ。おかげで私はヴィヴィと出会えたのですから。こんなに幸せな生活が送れたのに、元の飼い主さんは勿体ないことをしたなと思うくらいです」

続けて、こうも。

「どうしても飼えなくなった時には、そのコの命をつなぐためにも、無理して飼い続けるより、新たに飼ってくれそうな人を探すということのほうが現実的ではないのだろうかと考えています」

「ヴィヴィとの暮らしの中で悲しいなと思うことがあるとすれば、特に純血種で同犬種の場合、保護犬と聞くとどこか引いてしまう人たちもいるということですね。健全ないい犬を残すという意味ではブリーディングにも意味があると思いますが、血統書は言ってみれば一枚の紙切れです。犬は生きている1つの命であって、ブランド品ではありません。血統書があろうとなかろうと、その犬種のスタンダードから外れていようと、また、純血種であってもミックスであっても、犬は犬であるということに変わりはないはずです」

「犬と暮らすということは、そうしたものとはもっと違うところにあるのではないでしょうか。何気ない日々を、地味に楽しく共に生きていけること、それが一番だと私は思っています」

そして、N田さんは保護犬に対してどこか暗いイメージがあること、保護犬を引き取る人は奇特な人であるというようなイメージがあることについても憂える。

「保護犬は何も特別なコたちではないと思います。手を差し伸べれば、私たちはそれ以上に幸せにもなれる。そうしたチャンスを運んでくれるコたちはたくさんいます。ですから、もっと多くの人が保護犬に目を向けてくれて、犬と暮らしたいと思うなら、保護犬も普通の選択肢になるような世の中になるといいなと願っています」

ヴィヴィはというと、そんなN田さんご夫婦の愛情をたっぷり受けて、今やカヌー犬としてアウトドアを楽しむようになった。以前は泳げなかったヴィヴィが、今では泳ぎも覚え、カヤックにちょこんと座って湖面の風景を楽しんでいる。時々水に飛び込んでしまうのは玉に瑕。「引き上げるのがたいへんだ」と言いつつ、アウトドア好きのご主人はいい相棒ができてご満悦のようだ。N田さんの心をビビッとさせたヴィヴィのスマイルは、こうして益々磨きがかかっている。

取材・文/犬塚 凛

@DIME編集部

最終更新:6/30(金) 8:11
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