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待望の後編!『サーキットの狼』池沢早人師による書き下ろし注目作

6/30(金) 21:31配信

GQ JAPAN

漫画『サーキットの狼』の池沢早人師先生による書き下ろし注目作!! 『スーパーカー値千金──フェラーリF40 空前絶後の金字塔』を公開。今回はその後編。

【この記事に関する、その他のイラストはこちら】

■登場人物と物語の背景について

誰よりも深く“クルマと対話”できることが唯一の取り柄であるモータージャーナリスト冴気芯也(さえきしんや)32歳。彼はその真摯さゆえ、スーパーカーコレクター故・南沢元司(みなみさわもとじ)からコレクションの管理を任され、南沢の孫娘である陽菜乃(ひなの)19歳のドライビングの先生役をつとめる日々を送っていた。女心にウブな芯也を、先生として尊敬しながら、時にからかい、困らせる陽菜乃。それは、彼女の胸の内にひそかに芽生えた恋心の裏返しでもあった……。

■chapter 6

「ホントに同じ部屋だったなんて……陽菜乃ちゃ~ん」

客室に案内された芯也は情けない声を出していた。

涼しい顔でお茶を入れる陽菜乃。「ハイどうぞ」と差し出した。

しかたがないといった様子で湯呑を受け取った芯也は口にしたとたん、「アッチッチ!」と吹き出す。

「あっ、ごめんなさい。熱過ぎたかしら」お茶で濡れたテーブルを陽菜乃はあわてて拭く。

「陽菜乃ちゃん~。コレって、背伸びした火遊びをするなってお告げみたいなモンだよ」

「何その言い方。古くさぁ~、オヤジみたい」

陽菜乃にそう言い返され、大きなタメ息をつく芯也がいた。

ふたりは予約してあった河津七滝の老舗温泉旅館にチェックインしていた。

「ねえねえ、さっき、旅館の正面玄関にフェラーリF40で乗りつけた時、凄かったわね」

旅館のエントランスにF40が登場したとき、そこに居合わせた誰もが度肝を抜かれたのだった。

「こんなクルマ見たことないッ」「スーパーカーだ、スーパーカーだ!」それはそれは凄い騒ぎとなってしまったのだ。その時、旅館の何代目かのオーナーであろう40代の男が、嬉しそうな顔で近づいてきた。

「凄いクルマですね。ウチのお客さんでは初めてです、フェラーリF40は。明日、よかったら私のクルマとちょっと一緒に走りませんか? いい勝負できると思いますよ」

ニヤニヤして喋るオーナーの声が、芯也と陽菜乃の耳にはっきりと残っていた。

「あの人……どんなクルマ持っているのかしらね」そう言いながら陽菜乃は立ち上がる。

「オレ……あんまりレースみたいなことやりたくない……」

畳の目を見ながら、芯也はボソッともらす。

「きゃあっ、来てきて、芯也さぁ~ん」

呼ばれた芯也は、渓流を見おろす部屋の窓辺に近づいた。

「ほらほら。あたしが想像してた通りの個室露天風呂があるわ。ステキだにゃあ」なんだか声のトーンまでおかしな陽菜乃だった。

「自分で予約したんだから知ってたんだろう?」と文句を言いながらも、芯也の胸の鼓動はひそかに高鳴っていた。

「ねえェ芯也さん……あたし今、何考えていると思う?」陽菜乃の甘い声が響く。

「まっ、またぁ。オレついていけないよぉ」

芯也の困った顔にもおかまいなしに、陽菜乃は言葉をつづける。

「たぶん芯也さんは陽菜乃が側で寝ていても、何もしてこないと思う……だから、あたしから芯也さんのおふとんに入っていっちゃうのぉ」挑発するような目で芯也ににじり寄る陽菜乃。

「あたしの浴衣がはだけて生の肌身が芯也さんに触れたとき、19歳のはち切れんばかりの肉体に、芯也さんもついに男としてレスポンスしちゃうんだ。きっと『陽菜乃ちゃん、いいんだね、いいんだね?』とか何とか言っちゃって。そしてその手が陽菜乃の身体を愛撫しちゃって、あたしはピクピクと身体中に電流が走って『陽菜乃、初めてだからやさしくしてね』なんて声を漏らすんだわ……きっと」

唖然と口を開けている芯也は、すっかり固まっていた。

「キャッハハハ。冗談よ。冗談に決まってるでしょ。やだぁーっ」

笑いをこらえながら陽菜乃は芯也の胸をポンポンと叩く。けれど、その笑みを顔からすぐに消し、芯也の身体にすがりつくようにして離れなくなった。

「芯也さんったら……意気地なし」と、かすかに聞こえるような声で呟く。

しばらくの間、とまどい、迷っていた芯也だったが、やがて自分の手を彼女の髪と肩にやっていた。

「芯也さん……キスして」

その瞳に涙を潤ませ、陽菜乃は顔を上げた。

陽菜乃の意地らしい行動は、女心に鈍感な芯也にも、彼女に相当な覚悟があることを悟らせた。

今ここに、初めてふたりのくちびるが触れあった。冴気芯也は、陽菜乃のくちびるがこんなにも柔らかなものだということを知った。

軽く触れあっただけだったが、2度目には強く求めあっていた。

渓流の音が遠く小さく川下へ消えていくような瞬間だった。

キスはできたものの、ふたりにはそれ以上の勇気がなかった。陽菜乃にしても恥ずかしがって一緒に露天風呂に入ることなどできず、結局ふたりは別々のふとんの中で悶々とするばかりだった。

「F40がクルマの宝石なら、陽菜乃ちゃんは女性の宝石だ。オレなんかが手を出していいんだろうか……オレにできるのは、彼女のドライビングスキルをアップさせてあげることくらいだ」ふとんの中で芯也は歯噛みした。

一方の陽菜乃は、火照る身体をかすかに震わせていた。

「ああ~っ、ドライビングもうまくて、SEXも上手そうな肉食系の男性に走っちゃおうかしら……もう」

そしてその頭の中には、あのトヨタのワークスドライバー、一等翔の顔が浮かんでいた。

そのまま夜を明かしてしまいそうなふたりの翌日には、フェラーリF40も手を焼くほどのスポーツカーの挑戦が待っているのであった。

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最終更新:6/30(金) 21:35
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