ここから本文です

「脱サラしてパン屋」になった人たちの事情

6/30(金) 6:00配信

東洋経済オンライン

 2015年9月、福島県会津若松市に開業したベーグル専門店「會(あい)ベーグル」。生地の材料は国産小麦、砂糖、塩、パン酵母と水、と実にシンプルだ。「10年ほど前、東京に出張したときに初めて食べたベーグルが、普通のパンと違ってモチモチしていて、すごくおいしかった」と振り返る店主の佐藤裕一氏(55)は、もともと外資系の半導体企業に勤めていたサラリーマンである。

この記事の写真を見る

 東京出張後、ベーグル店めぐりをするほどハマッていた佐藤さんが、ベーグル屋を始めるきっかけとなったのは、リストラ。以前から「今後会社がどうなるかわからない。残りの人生は自分で何かやりたい」と考え、妻に相談したこともあったが、子どもが中高生だったため、断念した過去もある。

 佐藤さんが店を開く前、会津若松にはベーグル専門店はなかった。「50代以上の人は『ベーグルってなに?』という状態。会津の人たちに、ベーグルを知ってほしい」という強い思いが佐藤氏にはある。開業から2年弱。当初はめずらしさから人が集まり、午前中に売り切れる日もあったが、その後売り上げは、増えたり減ったりのくり返し。今年5月の時点で「ギリギリだけど食べていける」程度で推移している。

■100日コースは約64万円

 近年、佐藤氏のように脱サラし、パン屋を開業する人が増えている。パン及びパン関連業界が出資・運営する日本パン技術研究所(パン技研)の原田昌博氏によると、東京・西葛西にあるパン技研が開くパン学校の受講生の多くは製パン会社などに勤める人だが、1割ほどは個人だという。

 パン屋開業に必要な技術を学べる100日コースは、通学で64万円あまり、寮に入ると84万円あまりと結構な金額がかかる。しかし、2002年に窓口を一般の人にも広げて以来、個人の申し込みは安定的に推移しているという。パン屋で修業するより早く一人前になれる、と思えば安いのかもしれない。

 なにしろ、パンの製造には専門技術が必要だ。今は、インターネットでも、レシピ本でも作り方に関する情報はあり、ちまたにパン教室もあるが、パンは、季節やその日の湿度などにより仕上がりがブレやすいデリケートな発酵食品。毎日、大量に完成度が高いパンを作り続けるには、技術と知識の裏付けが必要だ。技術を身に付け、人脈づくりをするため学校へ通うのも一案だろう。


 しかし、その後がある。なにしろ、パン屋はハードワークである。立ち仕事で腕力、体力共に必要で、労働時間も長い。夏場など売れにくい時期もある。目新しい商品がないと飽きられるおそれもある。なぜ、そのようにハードでリスクが高いビジネスに、あえて挑戦する人が多いのだろうか。

1/4ページ