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北朝鮮のミサイルには反撃できず、EEZに落下するミサイル破壊も違法――手足を縛られた日本の防衛政策の現実

6/30(金) 14:50配信

週刊SPA!

<文・自由民主党政務調査会審議役・田村重信>

◆北朝鮮は「東京、大阪、横浜、名古屋、京都」の5都市を攻撃対象に名指し

 北朝鮮が立て続けに実施してきたミサイル発射実験は、最近少し落ち着いていますが、油断は禁物です。

 北朝鮮は、2016年の2度の核実験と23発の弾道ミサイル発射に加え、2017年5月には3週連続で弾道ミサイル発射に成功しました。また、日本の排他的経済水域(EEZ)内にも今年だけで4発着弾させ、その挑発行為は我が国が到底看過できないレベルに達しています。度重なる核実験とミサイル発射は日本国民にとって深刻な脅威です。

 北朝鮮は、数年前から日本を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返しています。北朝鮮の労働党機関紙である労働新聞(2013年4月10日付)では、「わが国(北朝鮮)への敵視政策が日本にもたらすのは破滅だけだ」というタイトルの論説で、東京、大阪、横浜、名古屋、京都の5都市の名前を具体的に挙げています。これらの地域には、人口の3分の1が住み、特定地域への産業が集中しているため攻撃に弱いと指摘し、戦争になれば「日本列島全体が戦場に変わる」と主張しました。

 また、2016年3月には、日本にある米軍施設・区域も打撃手段の射程圏内にあり、その気になれば一瞬で日本を壊滅させると言っています。北朝鮮が新たな段階の脅威であることは明白です。

◆日本は独自の敵基地反撃能力を持っていない

 自民党では党安全保障調査会の下に「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛大臣)を急遽発足させました。そして、これまでとは異なる北朝鮮の新たな段階の脅威に対して有効に対処すべく、あらゆる実効性の高い方策を直ちに検討し、「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」を取りまとめ、「我が国独自の敵基地反撃能力の保有」「排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処」などについて、政府において実現に向けた検討を迅速に開始し、予算措置を含め、その実現を求めています。

 特に「我が国独自の敵基地反撃能力の保有」は、マスコミに、「敵基地反撃能力の検討を提言」と大きく報道されましたが、従来からの「敵基地攻撃」や「策源地攻撃」などの用語は、先制攻撃ではないかという誤解の生じる恐れがあることから、今回「敵基地“反撃”能力」として、先制攻撃ではないことを明確にしました。

 先制攻撃は、武力攻撃が発生する前に武力行使をするものであり、憲法上はもとより、国際法上も許されるものではありません。「我が国独自の敵基地反撃能力」については、こうした先制攻撃を考えるものではなく、このことを明示する趣旨で敵基地「反撃」能力との用語を用いた上で、これまでの法理上の解釈に基づき、かつ日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図る観点から検討すべきとしたものです。

◆日本の防衛政策は「専守防衛」

 日本は「専守防衛」を防衛政策の基本としています。「専守防衛」とは、「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」とされ、「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保有する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限ること」を意味しています。

 だから、現在の日本の保持し得る自衛力は、自衛のための必要最小限度のもので、性能上もっぱら他国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる兵器(ICBM、長距離戦略爆撃機等)は保持し得ないことになっています。

◆敵基地攻撃は憲法上、可能

 しかし、北朝鮮による度重なるミサイル発射について、もし、日本の領土・領海に弾道ミサイルが飛んできた場合には、北朝鮮を攻撃できるのか、敵基地を叩けるかということに国民の関心が高まっています。

 これについては、「我が国領土に対し弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、他の手段がないと認められる限り、敵のミサイル基地等をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能」という昭和31年の鳩山一郎首相の答弁があり、理論的には海外の敵基地を叩くことは可能とされてきました。

「いや、日本は専守防衛だから、実際にミサイル攻撃を受け、被害が発生しなければ武力攻撃があったと見なすことはできない」という見解もありますが、政府はそうした考え方を採っていません。武力攻撃の発生時点は、弾道ミサイルが我が国領域に着弾した時点に限られるものではなく、状況によっては、それ以前の時点、例えば、我が国に向けて弾道ミサイルが発射された時点であれば、武力攻撃が発生したと認められるのです。

 さらに、石破茂防衛庁長官(当時)による「東京を火の海にしてやるなどの表明があり、まさしくミサイルの燃料を注入しはじめ、ミサイルを屹立させたという場合には武力攻撃の着手があったと見ることができる」旨の答弁もあります。

 したがって、「我が国独自の敵基地反撃能力の保有」は憲法上からも専守防衛の観点からも可能ということになります。

◆敵の基地を反撃できる装備がない!?

 ただし、実際、日本の自衛隊が海外の敵基地を攻撃できるかというと、自衛隊は、敵基地を攻撃することを目的とした装備体系にはなっていません。「敵基地の位置情報の把握、それを守るレーダーサイトの無力化、精密誘導ミサイル等による攻撃といった必要な装備体系については、『現在は保有せず、計画もない』との立場をとっている。」というのが日本の現状なのです。

 ですので、敵基地の攻撃については、日米安保条約によって米軍が攻撃し、対処してもらうことになります。日本の防衛政策は、自衛隊と米軍が、いわゆる「楯」と「矛」の関係性の中で日本の防衛を行っています。つまり、自分の国を守るという「楯」としての役割は自衛隊が担っていますが、相手から攻撃された場合、では相手の国を攻撃するにはどうすればいいのかというと、全面的に「矛」としての米軍に依存するということになっているのです。

 しかし、米国のトランプ政権が同盟国に対して自助努力を促していることからも、提言では「北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した今、日米同盟全体の装備体系を駆使した総合力で対処する方針は維持するとともに、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図るため、巡航ミサイルをはじめ、我が国としての『敵基地反撃能力』を保有すべく、政府において直ちに検討を開始すること」としました。

◆EEZに落下するミサイルの破壊が違法!?

 また、平成28年8月以降、北朝鮮は4度にわたり日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルを着弾させており、航行中の船舶への被害は生じなかったものの、操業漁船が多い海域でもあり、我が国船舶等の安全確保は喫緊の課題です。

 このため、弾道ミサイル等の脅威から我が国のEEZを航行している我が国船舶等の安全を確保するため、以下の課題が考えられます。

○ 政府は、当該船舶に対して、航行警報等を迅速に発出できるよう、直ちに検討すること。

○ また、これらの船舶の位置情報の把握に関する技術的課題や当該船舶を守るための迎撃を可能とする法的課題について検討すること。

 これは、EEZ内には我が国の船舶が多く所在し、これらの安全を確保することは極めて重要と考えているからです。一方、これらの船舶がどこに所在するかを精緻に把握することは難しいことから、この船舶の位置情報を把握する技術的課題や迎撃のための法的課題について、そして船舶への航行警報を迅速に発出することを検討しなければなりません。

 法的課題の検討とは、具体的に現在の自衛隊法第82条の3の規定による弾道ミサイル等に対する破壊措置は、「我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止する」ことを目的とし、「我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等」を破壊するためのものであるため、EEZに落下する弾道ミサイルについては、同条の規定による措置をとることはできないからです。

 現憲法下で許容される範囲で、専守防衛を逸脱せず、弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に着手しなければなりません。

 あわせて今後は、国民の生命と財産をしっかりと守るためにも憲法改正を急ぎ、国際標準の防衛法制及び政策の策定が喫緊の課題となっています。

【田村重信(たむら・しげのぶ)】

自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)

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最終更新:6/30(金) 14:50
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