ここから本文です

実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅:2日目《熊本駅~宮島口駅》

7/1(土) 17:10配信

サライ.jp

1日あたり2,370円で日本全国のJR線の普通・快速列車の自由席が乗り放題になる「青春18きっぷ」。青春と銘打たれてはいるが、利用年齢に制限はない。むしろ鈍行を乗り継いで行く自由きままな鉄道旅は、時間にしばられないサライ世代の特権だ。

※1日目《枕崎駅~熊本駅》の様子はこちらから!

さて今回、この「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てたのは、58歳の鉄道カメラマン川井聡さんである。ルールは5枚つづりの「青春18きっぷ」2枚分(2万3700円)、つまり5日間×2=10日間だけで達成できることと、車窓を楽しめるようになるべく日中の移動を基本にすること。

九州の南のほぼ端・枕崎駅から、北海道の北の端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅。2日目は早朝の熊本駅から出発です。

《2日目》熊本駅 7:29 → 荒尾駅 8:16



2日目の朝、熊本市内は雲一つない晴天だった。今日の旅行はここから出発し、九州を出て、広島は宮島口駅まで行く予定だ。観光列車を満喫した昨日と異なり、今日は普通列車の乗り継ぎで九州を北上し、日本三景の一つ宮島を目指す。

熊本駅は高架工事中。昭和30年代に造られたこの3階建て駅舎も、2018年頃には取り壊される予定らしい。

高架工事が完成した4,5,6番線ホームへ。屋根を支える巨大な柱や梁は木で覆われ、どこか城を連想させる豪壮な気配をかもし出している。そして今日の一番列車、鳥栖行きの普通電車が入線してきた。



ロングシートの二両編成。熊本駅を出るときには座席はほぼ埋まったが、2つめの崇城大学前駅で学生が下車して、空席が目立ちはじめる。

しばらくすると西南戦争の激戦地・田原坂を走り抜ける。いまでもこの周辺からは銃弾が出土するという。ここに鉄道が開通したのは明治24年。戦からわずか14年後だから、建設当時は戦争の痕跡もそうとう濃かっただろう。現代的な車内で、美しい山の姿を眺めながら、そんな歴史に思いを馳せる。

車窓に緑が多くなると、やはり旅行をしている気分が高まる。日曜とあって、小旅行風の人たちも多い。ときおり横を駆け抜ける九州新幹線を見ながら一駅ずつ北上する。

運転室にやたら人が集まっている、と思ったら、新人運転士の訓練だったらしい。「お師匠さん」の指導のもと、気持ちの良い緊張感に包まれていた。



電車は鳥栖行きだが、手前の荒尾駅で下車。次に乗る小倉行きの始発駅である。荷物を持って移動する身には、乗降客が多い駅で乗り換えは極力避ける方針だ。

荒尾駅の下車した電車の向かい側ホームに停まった白い快速電車に乗り換える。古レールを使ったクラシックな跨線橋が、真新しい車両の窓に映っている。

線路で組まれた建造物は無骨で美しい。旅先で出会うたびに、「またあうまで元気でな」と心の中で挨拶するのだけど、再訪したときには姿を消していることも少なくない。



《2日目》荒尾駅 8:33 → 小倉駅 10:57

小倉行きの快速電車は、ロングシート車とボックスシート車の併結だった。ボックスシートに荷物を置いて、車内が空いてるうちに車内散歩。

ロングシートにちょっとだけ取り付けられたヘッドレストの席が、そこだけお得な感じ。



小倉行き快速の乗客は全車両で10人ほど。自分の乗った車両には、親子がひと組いるだけ。久留米から小倉まで新幹線ならほぼ30分、こちらは約2時間半。今どきの旅じゃないよなあと、ほのかになさけなくなってしまう。

ここで昨日の「SL人吉」以来ひさしぶりの車内改札となった。ちょっと嬉しくなって、記念に隣の駅までのきっぷを一枚購入。



今回、日本縦断コースを考えた際に、とくに考えたのが乗り継ぎ駅のことだ。大阪や博多などの大きな駅で乗り継ぐと、列車の本数は多いが乗客も多いから、それだけ座席の確保が難しくなる。だから都市区間ではできるだけ始発駅から乗車することにした。熊本駅で乗った鳥栖行きの列車を途中の荒尾駅で降りて、小倉行きに乗り換えたのもそんな理由からだ。

そして列車は小倉駅めざしてひた走る。途中の博多駅では車内の乗客が大半が入れ替わったが、斜め向かいのボックス席にいる親子は降りる気配もなくそのまま。いったいどこまで行くんだろう。



熊本県の荒尾駅から、佐賀県を縦断して福岡県の小倉駅まで、一気に駆け抜けてくれるのはありがたいが、途中で駅弁を買えないのはちょっとさみしい。昔なら停車時間にお弁当を売りに来てくれたものだが、いまは駅のコンビニか売店まで行かないと購入できない。途中の鳥栖駅や博多駅で降りるわけにも行かず涙を呑んだ。

その諦めを打ち破ってくれたのが、北九州市内にある折尾駅だ。

近年まで1916(大正5)年生まれの駅舎が現役で残っていた折尾駅だが、再開発がおこなわれ、駅舎もホームも建て替え中である。新しいホームから以前のホームが見えないかと出入り口のドアから見ていると、目の前に真っ赤なジャケットを着たお弁当屋さんの姿があらわれた。



大正10年に登場の超ロングセラー、折尾名物「かしわめし」を売る東筑軒の販売員さんだ。お弁当とともに名物になっていた先代が、体調を壊し引退したらしいという噂は耳にしていたが、その後を継いでおられるようだ。

詳しい話を聞きたかったがとてもそんな時間は無い。1000円札を出すと見事なタイミングでおつりと一緒にお弁当をくれた。

ホームで目立つ赤いジャケット。客のところに向かうスピード。個数や紙幣を想定したおつり。そして列車の発車を滞らせない受け渡し。そして笑顔の列車見送り。駅弁売りの職人技を見たような気になった。

*  *  *

折尾駅を出て30分。電車は終点小倉駅に到着した。ここから下関行きに乗ってしまうこともできるが、時間の余裕があるので門司港駅に足を伸ばすことにした。

……と、その前にせっかく小倉に来たのだから、ホーム毎に味が違うという伝説の立ち食いうどんも食べてみる。カウンターで注文してから30秒。あつあつのかしわうどん(390円)が出来上がる。

甘みとダシがほどよく調和してツユまで全部飲み干してしまう。さすがに隣のホームまで味を比べに行く余裕はない。でもこれで満足。


「1,2番線が旨いとか、7、8番線がいいとかいろんな話があるけど、材料は同じだし、作る人は順繰りに回るから同じですよ。」とお店のおばさんは言う。でも、こういうのは、いま自分が食べてるホームのがいちばん美味しいに決まっているのだ。味の「伝説」はきっとこうやって生まれるのだ。

おそばを食べて一息ついたら門司港行きがやってきた。<完全版へ続く>

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

※ 7月10日発売の『サライ』8月号では「青春18きっぷの旅」を特集します!

最終更新:7/2(日) 14:04
サライ.jp