ここから本文です

無印良品の商品開発手法「オブザベーション」

7/1(土) 12:00配信

日経トレンディネット

7月26~28日に六本木アカデミーヒルズで開催する「D3 WEEK 2017」。その初日(7月26日)の注目コンテンツが『デザイン思考を活用した無印良品の商品開発』(17:00~17:40)。講演では、日本だけでなく海外でも人気が高い無印良品の商品開発プロセスを語ってもらう。それに先立ち、顧客自身も意識していないニーズを探る手法のひとつ、無印良品流の「オブザベーション」について取材した。

【関連画像】壁にすっきりと取り付けることができる収納家具として、新しい棚や箱を開発。ちょっとした物をきれいに整理できる。(画像提供:良品計画)

 無印良品の商品開発を支えるのが「オブザベーション」と呼ばれる手法だ。オブザベーションとは文字通り「観察」の意味。開発プロジェクトのメンバーが一般家庭を実際に訪問し、生活者がどのように暮らしているか、物がどのように使われているかといったライフスタイルの状況を「観察」することで課題や気付きを得て、商品化につなげる手法である。単なるオブザベーションなら、すでに多くの企業でも実行しているが、無印良品の場合は徹底度合いが他社とは大きく異なるほか、独自のノウハウがある。

 例えば相手先に訪問するときは、デザイナーとマーチャンダイザーが必ず1つのチームを組み、数チームが約1カ月かけて実施する。1チーム当たり4、5カ所を担当するため、全体で25カ所~30カ所も訪問することもある。事前に「シニア」「雑貨」といったテーマを設定し、観察の視点を設ける。2015年12月に実行した際のテーマは「オフィス」だった。これは“オフィスも生活の一部”といった考え方があるからだ。

 各チームは訪問すると、できるだけ多くの写真を撮影する。壁に何が飾ってあるのか、棚にはどんなものが置いてあるか、引き出しも開けて何が入っているのかなども観察する。玄関から居間、キッチンや洗面台、風呂場など家庭内のさまざまな場面をありのままに写真に収め、1カ所当たりの写真数は300枚~400枚にも達するという。

●引き出しの中まで観察する

 訪問すれば、片付いている部屋もあれば、散らかっている場合もある。整理された部屋のように見えても、引き出しを開けると中が乱雑だったりする。

 「家庭内でごちゃごちゃしているところにこそ、商品開発のヒントがある。なぜ乱雑になるのか理由を探り、日常の自然な行動によって物が片付き、整理されるようになることを支援するのが新商品のキーワードといえるからだ。きれいな部分を見ても意味がない。生活者の所作が乱れる背景や理由を生活者の課題と捉え、開発の提案につなげる」(生活雑貨部の矢野直子・企画デザイン室長)。

 生活者が自分で意識せずに整理整頓できるようにするにはどうすべきか、そのためにどんな商品がいいのか。生活者に無理強いしない、負担をかけないような新しい商品の姿を多くの家庭の状況からまとめ、見い出していく。テーマに合わせてマーケティング担当者が出した調査データも事前に認識しておくが、重視するのはオブザベーションの方だ。訪問した結果はすぐに整理し、1日かけてチームごとにプレゼンテーション。そこから新商品のキーワードを探り出す。

 こうしたオブザベーションから、例えば壁に付ける収納家具として、箱やハンガーといった商品を開発した。いずれも石膏ボードの壁を傷付けることなく、簡単に取り付ることができる。壁のフックなどに物を無造作に掛けている家庭の状況を観察した結果、これを解消するにはどうすべきかといった発想から生まれた商品だ。

 シャンプーやリンスの詰め替え用として新しいボトルも生まれた。形状を四角形にしてサイズもそろえ、風呂場でも収まりやすくしたのが大きな特徴だ。シャンプーやリンスのボトルは丸形や楕円形など各メーカーで異なる。そうした形状が風呂場の収納には課題となることが分かり、詰め替え用のボトルとして商品化に結び付けた。

 オブザベーションの舞台は日本国内だけにとどまらない。既に香港で実行するなど海外にも広がっている。無印良品のグローバル展開に加え、海外家庭の状況が日本でも参考になるからだ。

 香港では「収納」をテーマに4日間で約20カ所を訪問した。日本より狭い部屋が多いといわれる香港の一般家庭は、どのようにものを片付けているのかを探るためだ。訪問して気付いた点をすぐにまとめた結果、「Compact Life」と呼ぶ新たなキーワードの発見につながった。

(文/大山 繁樹=日経デザイン)