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兄弟姉妹犬の運命を分ける人との出会い

7/2(日) 7:12配信

@DIME

仕事を終えて帰宅し、食事を済ませた後、ついうとうとする。なにせFさんご夫婦はそろって学校の教師をなさっており、子供相手に気苦労もあれば、毎日長時間労働とあって疲れもたまることだろう。

「そんな時にはふっと目が覚めて夜中に散歩へ行くこともあります。ライトを点けると余計不信に思われそうで、真っ暗な中、歩いていますけど、なんか怪しいですよね」と笑うFさん。

Fさんのお宅には、現在、3頭の犬と2匹の猫がいる。兄弟である“たろ”と“じろ”(紀州犬系ミックス、オス、推定3歳半)、“ちび”(紀州犬のハーフ、メス、5歳)、そして猫の“みぃ”と“とら”。すべて飼育放棄されたり、捨てられていたり、野良猫だったというコたちだ。

物語は先住犬の話から始まる。5年前のこと、ご主人がある人に箱に入った3頭の子犬を見せられ、「いらんか?」と言われたそうだ。元々犬が好きで、いつか飼いたいと思っていたFさんはご主人と相談をし、そのうちの1頭を引き取り、あとの2頭は知人に託すことにした。

紀州犬のハーフで、“うめ”と名付けられた子犬はすくすくと成長し、結婚後、初めてとなる犬との暮らしがとても嬉しくて、Fさんは毎晩うめと一緒に寝るほどだった。これからきっと楽しいことがたくさんある、あれもしよう、これもしようと夢と期待に満ちた日々を送っていたのだが、残念なことに、それは長くは続かなかった。

うめが2歳になろうかという頃、見る見る体調を崩し、急性白血病と診断されたのである。2歳と言えば元気盛り。それなのに、日に日に弱っていくうめを目の前に、できる限りの手は尽くした。しかし、最終的にFさんは辛い選択を迫られることになる。苦しみから解放してあげる、それがうめにしてあげられる精一杯のことだった…。

「これからだったのに…これからだったのに…」

Fさんはうめのことを思い出しながら、そう何度も繰り返す。

悲しみと悔しさに包まれた日々を送る中、1本の電話が鳴った。

「うめちゃんに似た犬たちが保護されているんだけど…」

それはFさんの犬友達からだった。聞けば、同じアパートで暮らす若者たちが共同で2頭の犬を飼っていたものの、飼いきれなくなり、動物病院に持ち込んだらしい。Fさんがその動物病院に足を運んでみると、そこにはやんちゃで元気な兄弟犬がいた。

その犬たちを見るなり、Fさんの心は動いた。とは言ってみても、うめが逝ってからまだ間がなく、一度に2頭というのも無理がある。

「とりあえず、週末だけ預かるという形でもいいですか?」

それからというもの、犬たちは週末をFさんのお宅で過ごし、平日は動物病院に戻るという生活を繰り返すことになった。ちょうど換毛期で被毛が浮ききっており、ブラシをかけるにも悪戦苦闘状態だったが、それでも兄弟犬たろとじろを通して、Fさんの脳裏にはうめと過ごした日々が蘇ってくる。

2ヶ月後には、Fさんの心は「うちのコにしよう」と決まっていた。しかし、どちらか1頭を選べない。

「仮に選んだとして、残りの1頭はその先どうなってしまうのか。大きい犬はなかなか引き取り手が見つからないと聞いたし…」

そう考えると心配で、「2頭はたいへんだろう」と言っていたご主人を説得し、結局、兄弟そろって引き取ることにしたのである。その時、生後8ヶ月、すでに体重は15kg~18kgとなっており、その体で突進してくるほど人が好きで、2頭共に明るい性格をしている。しかし、引っ張り癖もひどく、しつけはまったくされていないため、動物病院で紹介されたドッグトレーナーに来てもらい、まずはスワレのトレーニングから新しい生活がスタートすることとなった。

家族を得たたろとじろは日中を庭で自由に過ごし、Fさんご夫婦が仕事から戻ると室内犬となる。Fさんたちが帰宅した時には、その喜びを吠えたり飛びついたりするのではなく、互いに軽く噛み合って表現するというのはちょっとユニークだ。

「留守番させることが多い分、休みの日はなるべく一緒にいてやりたいと思って」というFさんの気持ちに応えるかのように、徐々に新しい生活に馴染んでいくたろとじろ。たとえ捨てられていた犬であったとしても、兄弟姉妹が一緒で社会化適期を共に過ごした場合は、そうでない場合と比べてより環境に馴染みやすいと言われるが、たろとじろはずっと一緒だった分、犬としてのつきあい方も身につけることができ、素直に育つことができたのかもしれない。

先代犬のうめとの散歩中、後をついてきてそのまま家族となった元野良猫のみぃはうめと大の仲良しだったそうだが、たろとじろもすっかり仲良くなり、トリオのようになった。こうして問題もなく、平穏な日々が続いていく。

ところが、そこへまた新たな犬が登場する。たろとじろがやって来て3~4ヶ月経った秋のこと、ある日実家に戻ったFさんは、亡きうめにそっくりな犬がいることに驚いた。肋骨とお尻の骨が浮き上がるほどに痩せ細り、どこか荒々しい雰囲気を漂わせるその犬は、知人に託したはずのうめの姉妹犬だった。

ずっとつながれっぱなしで、おそらくろくに散歩にも行ったことがないのだろうと思われ、犬としての経験やルールなど身につける余裕もなかったせいか、人や他の犬にすぐ吠えかかり、興奮すると抑えがきかず、咬む犬になっていた。そんな犬が、「もう飼いきれない」と実家に戻されてきたのである。つけられた名前はちび。うめと同じ血を分け合いながら、育った環境が違うとこうも変わってしまうものなのか。

「預ける場所を間違ったかなぁ…と思いました」というFさんは、うめの姉妹犬のことがずっと気がかりでもあり、うめが逝った後には、決して代わりという意味ではなく、姉妹犬たちに万が一何かあった場合には引き取ろうとも考えていたそうだ。しかし、すでにたろとじろがいる。当面の間、戻されてきたちびの世話は実家のお父さんがすることになり、Fさんは週末だけちびを預かるという生活になった。

時々やって来てはまた帰って行くちびに対して、たろとじろは戦々恐々の体である。それまでは2頭でよく一緒に遊んでいたのが、ちびの前だとそれもあまりしなくなった。というのも、他の犬とのつき合い方を知らないちびは遊び方もしつこく、時に口の力で相手を抑え込む。体の大きいじろはなんとか対抗するものの、たろはというとそんな2頭を尻目に隅っこで我関せずを決め込むのみ。そんな姿が不憫で、たろだけ2階の部屋に上げて一緒に寝ることも。

やがて2年が経とうという頃、実家のお父さんが体調を崩し、これ以上犬の散歩は無理だという状況になったのを機に、Fさんはちびを引き取ることにした。以前に比べて少しは慣れたが、それでもやはりたろとじろにとってちびは怖い姉御という感じなのだろう。ドッグランに連れて行ってもちびがいると遠慮してあまり走りもしない。そんな2頭を気づかって、たろとじろだけをドッグランに連れていくことも多いそうだ。

同居している猫たちにもちょっとした変化があった。ちびがどうしても猫がダメで、仕方なく猫たちには2階で生活してもらっている。

「それが不満なのでしょうね。みぃは名前を呼ぶと“ニャァ”って返事をして、こっちにやって来るコだったんですが、今では呼んでも返事をしてくれなくなってしまって。申し訳ないと思います。でも、もう少し我慢すれば、ちびも少しは落ち着いてくれるんじゃないかと思うんですよね。じろが犬としてのルールを教えようとしてくれていますし」

そうおっしゃるFさんの心の中には、常にある想いがあった。それは、子供の頃の消えない記憶。小学生の時に子犬を連れ帰り、「飼いたい」とご両親にお願いをした。一旦は反対されたものの、自分で世話をするならと許してもらえたのであるが、子供のこと、散歩やワクチンの必要性については知らず、まだ野良犬が多かった時代でもあり、時々放すこともあれば、ごはんを与えているだけで十分だと思っていた。やがてその犬は赤いオシッコをするようになり、フィラリアに罹って亡くなってしまう。

「子供だと犬の飼い方などよくわかりません。どうして周囲の大人はそれを教えてくれなかったんだと思ったりもしました。今でも“ごめんね”という気持ちが残っていて、時々その犬の夢を見ることがあるんですよ。以来、犬は好きだけど、簡単に飼ったらいけないと考えるようになりました」

時代や地域性、環境、年齢などもあって、最初から犬を上手に飼える人のほうがずっと少ないだろう。大なり小なり失敗をすることは多々あるものだ。しかし、そこから学び取って次の命に活かせるかどうかはその人次第。

実はみぃの相棒猫とらは、Fさんが教師を務める学校に捨てられていた4匹の子猫のうちの1匹である。うめから始まり、飼い主を必要とする犬猫たちをFさんが迎え入れているのは、もしかしたら幼い頃に飼っていた犬へ送るレクイエムにも似ているのかもしれない。

「犬は物でも商品でもありません。流行れば業者は犬を増やし、それが終われば飼育放棄。避妊手術をせずに無責任な飼い方をしたなら、かわいそうな子犬がたくさん生まれることになる。そうした裏にはどれだけの犠牲があるのかということを知って欲しいです」

多くの犬たちが、出会った人間によって運命が決まると言っても過言ではないだろう。たろやじろたちはきっと幸せな犬生を送れるはずだ。Fさんご夫婦と出会えたのだから。

「最初はがさつだったたろとじろも、“おじさん”の域に入ってやっと落ち着いてきました。これまで犬と一緒に旅行に行ったことはないので、今年はたろとじろを連れてどこかに行ってみるというのが目標でもあります。まぁ、まだちびはお預けですけどね」

近いうちに、見知らぬ土地に吹く風の匂いを楽しむたろとじろの姿が見られるに違いない。そのうち一緒に連れて行ってもらえるように、ちびも、頑張れ!

取材・文/犬塚 凛

@DIME編集部

最終更新:7/2(日) 7:12
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