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カーライフ、恥の原点「サーファーは夢のまた夢」──清水草一の愛車コラム Vol.5

7/2(日) 22:01配信

GQ JAPAN

乗り継いできたクルマの数は優に40台を超えるモータージャーナリスト、清水草一が、愛車史を振り返る新連載の自動車エッセイ。第5回はメルセデス・ベンツW123型。

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■サーファーに対するコンプレックス

思えば妬みの多い人生であった。

私は様々なコンプレックスを抱いて育ったが、その最大の対象はサーファーだった。

内陸の練馬区で育ち、子供の頃から泳ぎが苦手。家族で行った伊豆・今井浜海岸での海水浴では、いつも波から逃げ回っていた。

そんな私がサーファーになる可能性は、どう考えても限りなくゼロに近かったが、だからこそ、サーファーに対するコンプレックスおよび憎しみは強かった。

ロンゲにアロハにグラサンで、海で真っ黒に日焼けした肌。ルーフキャリアにサーフボードでナンパし放題(推測)。そんな輩は私にとって異星人であり、とにかくムカつく存在だったのである。

46歳の頃、そんな私にすばらしい話が舞い込んだ。有名自動車専門誌より、「なんでもいいから、やってみたかったことをやってみる企画に参加しませんか」と誘われたのである。私は間髪を入れずに答えた。「サーフィンをやってみたい! サーファーになりたいです!」と。

私はサーフィンに関する知識はゼロなので、すべて編集者任せであったが、優秀なる編集者は、江の島にサーフィン教室なるものが存在することを突き止めた。

江の島でサーフィンをやる! それはズバリ、コンプレックスの対象そのもの! 男の夢、いや、夢のまた夢だ。それが実現する! 手ぶらで! 夢の夢のまた夢のようだ!

江の島のサーフィン教室は、本当に夢のような教室だった。

ボードに立つのは、なかなか難しいものらしいという噂は聞いていた。まあ立てなくてもいい、サーフィンをやった、いやトライしたという事実さえあればいいと思っていた私だったが、その教室は手取り足取り教えてくれて、兎にも角にもボードに立たせてくれるのである。わずか1時間半くらいの時間内で!

私も立てた。まさか! と思ったが本当だった。サーファーから最も遠いところにいた、練馬区育ちで泳ぎの苦手な私がサーフボードの上に立って、波に乗っている! 風を切っている!

涙が出た。人生最大級の達成感だった。

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最終更新:7/2(日) 22:01
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