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60秒間だけの共有。写真アプリ「Minutiae」の不思議な世界

7/2(日) 19:31配信

WIRED.jp

フィルターで「いい感じ」にした写真を投稿するのが当たり前のいま、ありのままの平凡な日常生活を撮るためのアプリが登場した。しかも「いいね!」もプロフィールもなく、匿名のまま知らないユーザーどうしで、1回に60秒間だけ写真を共有できるという。そんな不思議な世界が生まれた理由とは。

「自撮りしている人」は、こう見えている

自分のカメラロールを表示し、勢いよくスワイプすると、たくさんの写真が目にも止まらぬ勢いでスクロールしはじめる。そのスクロールを止めたらどんな写真が表示されるだろうか。犬の写真やセルフィーだろうか、それとも美しい夕暮れを完璧なタイミングでとらえた写真かもしれない。きっといろいろな写真があるだろう。だが、そこには退屈な日常の瞬間が写っている写真もあるはずだ。

カメラロールは、Instagramに投稿できなかったボツ写真ばかりになりがちだ。それはあたかも、素晴らしい瞬間をとらえはしたものの、ソーシャルメディアに投稿できるほどの出来栄えではなかった写真のたまり場のようだ。

ダニエル・ウィルソンとマーティン・アドルフソンは、このような状況を変えたいと考えていた。この神経科学者と写真家のペアは2017年初頭、「Minutiae」というアプリをリリースした。日常のさして魅力的ではない瞬間を簡単に記録できるようにしたのだ。

ランダムな瞬間をユーザーに撮らせる型破りなアイデア

使い方はこうだ。まず、ユーザーは1日に1回、ランダムな時間に、写真を撮るよう「Minutiae」から指示される。1分以内に応えなければ、その通知はその日には二度と表示されない。アプリを開き、カメラを構え、5秒以内にその瞬間を撮影しなければならない。構図を考えているヒマはない。かっこいい被写体を探すチャンスもない。その結果、よりリアルなユーザーの生活の写真が撮れるとウィルソンは説明する。「通常なら記録に残さないようなものを撮影するのです」

ソーシャルメディア全盛のいま、これは型破りなアイデアだ。テクノロジーのおかげで、日常生活を記録するのはますます簡単になった。しかし同時に、Instagramのようなアプリのおかげで、私たちは写真を撮る前に、「撮影する価値はあるのか」をまず考えるようになっている。「いいね!」の評価を互いにつけ合うソーシャルメディアが、ほかの人たちを喜ばせるような写真だけを撮影してシェアすべきだと私たちに学習させているのだ。

「われわれはこれを『セルフプレゼンテーションの憂うつ』と呼んでいます」と、ニューヨーク大学で行動マーケティングを研究するアレクサンドラ・バラシュは言う。「シェアする目的で写真を撮るとき、私たちはまず、ほかの人たちがその写真をどう評価するのか考えるようになります」

次の問いに正直に答えてほしい。

写真を撮るときに、あとでフィルターで加工することを考えながらカメラを取り出したことが、いままでに何度あるだろうか。シェアできるほどかっこよくなかったとか、面白くなかったといった理由で写真を消したことが、いままでに何度あっただろうか。

コロンビア大学の研究者ティン・チャンによれば、人々は平凡な瞬間を記録するのを控え、かわりに結婚式や卒業式、大騒ぎした夜など、人生の大きな出来事をカメラにおさめるようになっている。「おかげで私たちは、たいして重要ではない瞬間を見逃すようになっています。しかしそうした瞬間が、実は私たちの日常を特別なものにしていることが多いのです」

結局は、平凡な日々を記録するほうが、特別な出来事を記録するよりも幸せな気持ちになれるという調査結果もある。たとえば、誕生日パーティーなどの写真は、もちろん大切な思い出となるだろう。だが、ナイトテーブルの上に積み重ねられた本など、何気ない光景を思い返すことの喜びを過小評価していないだろうか。

「私たちは、いまの自分にとって日常的なことは、これからもずっとありきたりなことだと考えがちです」とチャンは言う。「でも実際は、状況の変化によって、それまで当たり前だと思っていたことが突然そうではなくなるのです」

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最終更新:7/2(日) 19:31
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