ここから本文です

村上春樹は“ディズニー”を避けている?【連載】〈第2部 奇妙に符合する妙なキャラ編〉

7/2(日) 15:00配信

ダ・ヴィンチニュース

 「オールド村上主義者」が『騎士団長殺し』を読むきっかけになれば、というスタンスでお送りしている「村上春樹作品に共通することに関するあてどもない考察」。過去の作品との類似点についてあれこれとご紹介する第2部は〈奇妙に符合する妙なキャラ編〉と題し、村上作品に出てくる“人間ではないキャラ”についてあれこれ考察してみたい。

■村上春樹は“ディズニー”を避けている?

 『騎士団長殺し』には様々なキャラクターが出てくる。中でも一番強烈なのは「騎士団長」だ。身長は約60センチ、白い奇妙な衣装を着て、白い髭を生やし、剣を持っていて、「~あらない」という妙な話し方と、人に対して「諸君」と呼びかける。そして自らを「イデア」だと言い、100年、1000年単位で世界中あちこちを行き来していると言っている。さらに「騎士団長の形体を便宜上拝借した」と言い、その理由について「ミッキーマウスやらポカホンタスの格好をしたりしたら、ウォルト・ディズニー社からさぞかしねんごろに高額訴訟されそうだが、騎士団長ならそれもあるまい」と楽しげに笑っている。

 これにはほぼ同じエピソードがある。『海辺のカフカ』に出てきた身長150センチくらい、ポンビキをしていた「カーネル・サンダーズ」だ。

 「入り口の石」を見つけるためヒッチハイクをしていた中野在住の老人ナカタを乗せたトラック運転手の星野は、高松市の裏通りをぶらぶらしているときにサンダーズから石のことを教えるともちかけられる。この小さいおっさんは「とりあえず、カーネル・サンダーズという、資本主義社会のイコンとでも言うべき、わかりやすいかたちをとっているだけだ。ミッキーマウスだってよかったんだが、ディズニーは肖像権についてはうるさい。訴訟されるのはごめんだ」と騎士団長とほぼ同じことを言っている。

 しかももともと名前も、かたちも、感情もないとサンダーズは言い、上田秋成の『雨月物語』の一節を披露しているが、『騎士団長殺し』には同じ上田秋成の『春雨物語』が登場している。さらに自身は「純粋な意味でメタフィジカルな、観念的客体」であり、抽象概念に過ぎないから自分では何もできないと言っている。また村上主義者には有名なロシアの作家アントン・チェーホフの「もし物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない」というセリフを言ったのはこのサンダーズだ(後に『1Q84』で殺し屋のタマルも同じ内容を口にし、『騎士団長殺し』では「私」が「引き金を引けば弾丸は出る」と言っている)。ちなみに星野はサンダーズに「女の子がほしいんじゃないのかね?」と言われ、手持ちが25000円しかないと伝えると「それだけあれば上等だ。相手はぴちぴちの美女で19歳、ホシノちゃんとくべつ昇天大サービス、なめなめ・すりすり・入れ入れ、なんでもありだ」と独特の口調を駆使していることも付記しておく。

1/3ページ