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沖縄・読谷村のコワい浜辺(立川笑二)

7/3(月) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 師匠と兄弟子の吉笑とともにリレー形式で連載させていただいている、まくら投げ企画。24周目。今回の師匠からのお題は「海」。


 私の父には、顔がそっくりの3歳年下の弟がいる。私の叔父にあたるその人は、高校を卒業してすぐに東京に働きに出たそうで、私が叔父と会えるのは年に数回程度、叔父が沖縄に帰ってきたときだけだった。

 私の実家は沖縄県の読谷村にある。そこは父や叔父が生まれ育った土地でもあり、叔父は沖縄に帰ってくると、私の実家に父を訪ねて泊まりに来ていた。

 叔父は甥っ子である、私たち(男3人兄弟。私は次男)を可愛がってくれていて、泊まりに来たときはいつもくだらない話を、私たちが寝るまで延々としてくれた。

 ムカデにおしっこをかけて以来「あそこ」がムカデみたいな形になったという話や、米軍基地に入って缶詰を盗もうとしたらアメリカ兵に見つかってしまい、鉄砲で撃たれたが、持っていた缶詰でガードしたという話など。くだらない話をしては私たちを笑わせておいて「おじさん、その話、うそでしょう」と指摘すると、「なーんてね」と言いながらおどけて、すべて作り話だというネタばらしをしてくれる叔父さんの話が大好きだった。

 今回は私が小学生だったころに、叔父から聞いた「海」にまつわる少し不思議なお話。24投目!えいっ!

 叔父が若かったころの話。

 ある年の夏、叔父が近所を散歩していると、ひと気のない浜辺をみつけた。叔父はナマコが嫌いだという理由で普段から海に入って泳ぐことをしていなかったが、その海にはナマコがいなかったため、気持ちよく泳ぐことができた。

 その日以来、叔父はこの海が大変に気に入って連日のように行っては泳いでいたらしい。

 そして、しばらくその浜辺に通っているうちに、そこは地元の人間もめったに来ない場所だというのが分かった。叔父は、その場所を仲の良い友だちに教え、お酒を飲んだり、たばこを吸ったりするようになったそうだ。

 その年の夏も終わりを迎えようかというころ。いつものように、6人ほどの友だちとお酒を飲みながら遊んでいた夜。1人の友達が、酔っ払った状態で海に入って泳ぎ出した。

 「危ないから戻ってこい」と、みなで声をかけても「気持ちいいぞ」と返事をされるだけで、まるで請け合わない。それどころか、ゆっくりと沖へ向かって泳ぎ続ける友だちに、不安を覚えた叔父は声をかけ続けたそうだ。

 「危ないぞー、戻ってこーい」

 「気持ちいいぞー」

 「遠くへ行くなー」

 「お前たちも来いよー」

 「大丈夫かー」

 「早く来いよー」
 こんなやりとりを何度か繰り返しているうちに、叔父はある違和感を覚えた。

 友だちはゆっくりではあるが、沖へ向かって泳ぎ、浜辺から遠ざかっていっているはずなのに、聞こえてくるその友だちの声の距離感が全く変わらないのだ。

 すぐそこの浅瀬にいるかのように、はっきりとした大きな声で、「早く来いよー」と聞こえてくる。

 ハッとして目を凝らしてみるも、月明かりだけが頼りで、黒い海に浮かぶ小さな姿の友だちの様子までは分からない。

 「おーい、本当に大丈夫かー」
 「大丈夫だから、来いって」

 相変わらず、はっきりと聞こえ過ぎる返事。

 ただその返事の直後、波音にかき消されそうなほど小さい声だったが、叔父には聞こえたらしい。

 「たすけてー」

 焦った叔父は、海に飛び込んでがむしゃらに泳いだ。

 しばらくして、友だちが泳いでいたあたりに着いたのだが、姿がない。

 浜辺に残っていた他の友だちが、何か叫んでいる。全く聞き取れない。

 叔父は大きく息を吸い込んで水中に潜り、友だちを探そうと試みたが、夜中の海はどこまでも暗闇でしかなかったそうだ。それでも手探りで探し続けた。

 しばらくして、息苦しくなり、叔父は海面に顔を出した。

 すると、目の前には真っ青な海が広がっていた。

 浜辺を見ても、残っていたはずの他の友だちはいない。

 ついさっきまで頼りない明かりを発していた月は、激しく照らす太陽になっていた。

 混乱しながらも、泳いで浜辺へ戻り、家に帰った叔父が確かめてみると、今はまだ夏の真っ只中。どういう訳か叔父が初めて浜辺を見つけた日に戻っていたのだ。

 その後、叔父はその浜辺の存在を誰にも教えることはなく、自身も二度と行くことはなかったという。

 溺れたはずの友だちは、30年近くたった今でも健在なので、話を教えなくてよかったと思っているそうだ。

 この話を聞かされていた、当時の私のビビり方は尋常じゃなかったと思う。

 どう考えても、「ちんちんがムカデになった話」と並列にはできない。
 この話をきいた後で、私が「おじさん、この話もウソなんでしょう」ときくと、叔父が言ったセリフが

 「うーん。もしかすると、溺れた友だちを助けに行った夜に俺は死んでいて、今は死後の世界なのかなって思うことがあるんだよ」

 マジのやつかい! 怖すぎるよ! ばかばか!

 この後、兄がしつこくその浜辺の場所をきいていたが、結局、叔父は教えてくれなかった。

 私の地元、沖縄県の読谷村には、確かにその浜辺が存在するらしい。

 なーんてね。

(次回7月9日は立川吉笑さんの予定です)
立川笑二 1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。

最終更新:7/3(月) 7:47
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