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新生マリノス、“勝利の方程式”。J1連続フル出場新記録の鉄人、中澤佑二が語る「最適解」

7/3(月) 12:32配信

フットボールチャンネル

 横浜F・マリノスが不気味な存在感を放ち始めた。4シーズンぶりの5連勝をマークし、暫定5位でターンしたJ1戦線で、前半を耐え忍びながらスコアレスで折り返し、相手のプレッシャーが弱まる後半にゴールネットを揺らす、2017シーズン版の「勝利の方程式」を確立した。1日の大宮アルディージャ戦で、フィールドプレーヤーでは歴代最長となる140試合連続の先発フル出場を達成した39歳の大ベテラン、元日本代表のDF中澤佑二に進化しつつある新生・マリノスの現在地を聞いた。(取材・文:藤江直人)

●先制した試合では10勝2分けと不敗

 長丁場のJ1戦線を暫定5位で折り返した横浜F・マリノスに、2017シーズン版の「勝利の方程式」が生まれつつある。前半戦の17試合を終えて勝ち点32を積み重ねているが、先制した試合では10勝2分けと、浦和レッズを下した2月25日の開幕戦から「不敗」を継続している。

 連続フル出場試合記録を「140」に伸ばし、フィールドプレーヤーでは歴代トップに立った元日本代表の中澤佑二、オーストラリア代表のミロシュ・デゲネクが組むリーグ屈指の高さと強さを誇るセンターバックは、新チームが始動したときからチームの生命線でもあった。

 先制すれば優位に立つことはいわば青写真通りだが、6月以降になると試合展開にも“ある傾向”が鮮明になってくる。現在は4シーズンぶりとなる5連勝を継続中だが、前半をスコアレスで折り返し、後半に得点を奪って逃げ切るパターンを直近の4試合で続けている。

 たとえば敵地・NACK5スタジアム大宮に乗り込んだ、1日の大宮アルディージャとの第17節。前半は相手のプレッシャーの速さに苦しめられ、放ったシュート数はわずか2本に終わった。それでも動じず、アルディージャのシュートもエース・江坂任の1本だけに封じる。

 迎えた後半14分。自陣のゴール前から中澤が放った縦パスともクリアともいえるボールを、FWウーゴ・ヴィエイラが相手と競り合いながら巧みに体を反転させて支配下に置く。すかさず左前方のスペースへ走り込んでいたMFマルティノスへパスを通して、電光石火のカウンターを発動させる。

 北中米カリブ海連盟(CONCACAF)の大陸選手権、ゴールドカップに初めて臨むキュラソー代表に選出されたため、アルディージャ戦を最後に一時離脱する26歳のドリブラーはそのまま相手ゴール前へ突き進み、利き足とは逆の右足で先制ゴールを突き刺した。

●「みんなが割り切って守備に回れる点が強み」

 同23分にはアルディージャが仕掛けたカウンターを食い止め、そのまま攻め上がった左サイドバックの山中亮輔が、ペナルティーエリアのやや外側から鮮やかなミドルシュートを一閃。相手の反撃を1点に抑えて手にした白星に、中澤は大きな手応えをつかんでいた。

「大宮のパスサッカーに対して、非常に難しい立ち上がりとなってしまった。前からプレッシャーをかけられたし、なかなかマリノスの時間帯が訪れなかったけど、そのなかでも我慢して0‐0の展開から後半に勝負を仕掛けるという、いまのマリノスの強みが出た試合だと思います」

 前半をスコアレスで折り返した試合は、それまでにも4度あった。しかし、後半に3ゴールを奪った北海道コンサドーレ札幌との第2節を除いて、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、そしてガンバ大阪にはいずれも耐え切れずに先制点を許し、そのまま零封負けしている。

 ターニングポイントとなったのは6月4日の川崎フロンターレ戦だ。相手が得意とするポゼッションスタイルの前に圧倒的にボールを支配されながらも必死に耐え忍び、後半に入ってカウンターからウーゴ・ヴィエイラが、ロングボールからFW富樫敬真がゴールを奪ってうっちゃってみせた。

 体を張って自分たちのゴールを死守し続ければ、相手のプレッシャーが弱まってくる後半になれば必ず得点を奪える――。守備陣と攻撃陣の間に芽生えた信頼感、あるいは一種の“あうんの呼吸”が、右肩上がりに転じてきたマリノスの土台を支えていると中澤は力を込める。

「前半は攻めることができなくてもしょうがないと、ある意味で割り切って我慢する。そういうところも大事なのかなという部分で、いまは(齋藤)学もマルちゃん(マルティノス)も本当に一生懸命守備をしてくれる。まあ、ウーゴ(・ヴィエイラ)は別ですけどね(笑)。

 いまのマリノスはまず守備から入っていくし、そこの部分がなくなれば多分ダメになっちゃうので。守備の意識を高くもちながら、そのなかでチャンスが訪れれば一撃で仕留める。0‐0の状態が続いても、みんなが割り切って守備に回れる点が非常に強みなのかなと」

●「結果も内容も」と言っているようなチームではない

 レッズ、コンサドーレからともに3ゴールを奪い、連勝スタートを切った開幕直後に放った爆発力は衝撃的だった。2列目の左に陣取った齋藤学が仕掛ける攻撃はまさに無双で、対面のマーカーが寄せてくれば高速ドリブルで抜け出し、間合いを取ってくれば味方とのコンビネーションを駆使する。

 しかし、当然ながら相手にも研究される。右から仕掛けるマルティノスを含めてカウンター対策を徹底されると攻撃が手詰まりとなり、第10節を終えた段階では黒星が先行してしまう。開幕から2戦連続でゴールを決めた、新加入のMFダビド・バブンスキーも次第に精彩を欠くようになった。

 6月に入ってからはボランチとしてフル出場していた4年目の天野純を、順天堂大学時代から主戦場としてきたトップ下に配置転換。齋藤とマルティノスの位置を入れ替えるなど、指揮を執って3シーズン目を迎えているエリク・モンバエルツ監督も苦境の打開に腐心してきた。

 もっとも、特に攻撃面で荒波に直面することは、今シーズンの航海に出たときから覚悟のうえだった。象徴的な存在だったレジェンド、司令塔の中村俊輔(現ジュビロ磐田)をはじめ、MF兵藤慎剛(現コンサドーレ)、右サイドバックの小林祐三(現サガン鳥栖)らのベテランがオフに新天地を求めた。

 一方で「堅守」というマリノスの伝統を支えてきた中澤や、元日本代表の栗原勇蔵のディフェンダー陣は残留した。中澤がリーグMVPを獲得した2004シーズンを最後に、J1の頂点から遠ざかっているマリノスの戦い方がより鮮明になったと、中澤本人が神妙な口調で語ったことがある。

「いまは内容うんぬんよりも、結果を求めることが大事なので。これが何回も優勝しているようなクラブだったら、内容も突き詰めていく必要があるだろうけど。マリノスはしばらく優勝していないし、結果も内容も求める、なんて言っているようなチームではないので。

 とにかくいまは泥臭くてもいいから、勝ち点3という結果をしっかり取り続けていくこと。上位のチームに離されないことが、要は大事になってくる。9月や10月に入るくらいまで、このまましっかりと上位に食らいついていたい、という思いがやっぱりありますよね」

●見つめるのは豊穣の秋。不気味な存在感放ちはじめたマリノス

 現在進行形のなかで定まってきた戦い方が、どんなに無骨に映っても気にすることなく、まずは前半をスコアレスで折り返すこと。堅守の中心として体を張り続けているからこそ、中澤は偉大な鉄人記録を達成しても「欲しいのはマリノスのタイトルなので」と素っ気ない。

 開幕から187センチ、82キロのサイズを誇るデゲネクと新・鉄壁コンビを結成。コンフェデレーションズカップ出場のためにデゲネクが不在となると栗原と再タッグを組み、栗原が左太ももの肉離れで離脱すると入団2年目の23歳、パク・ジョンスをリードしながら最終ラインを支えた。

「外から見ているとわからないところがあるかもしれませんが、一歩先を読んだポジショニングなど、隣でプレーしていて本当に勉強になることが多い。特にすごいのはヘディング。自分たちのゴールを守るときももちろんですが、コーナーキックなどで攻め上がったときのヘディングも本当に素晴らしい」

 生きた教材を目の前にしてパク・ジョンスが声を弾ませれば、6月18日のFC東京戦の後半終了間際に、値千金の決勝弾となる記念すべきJ1初ゴールを叩き込んだ天野はこんな秘話を明かしてくれた。

「佑二さんからは『躍動しろ』とずっと言われています。『お前が中盤で躍動すればマリノスが勝てる』と。冗談半分だったかもしれないけど、僕にとっては本当に大きなひと言でした」

 先発フル出場するための身心のコンディションを常に整え、いざピッチに立てば技術と積み重ねてきた経験を駆使して守備陣を統率。俊輔が去った後の攻撃陣を差配する天野のモチベーションも巧みにくすぐりながら、現時点におけるベストの戦い方に何とかたどり着いた。

 総失点14は、消化試合数がひとつ少ないフロンターレと並んで最も少ない。当然ながら、3失点以上は一度も喫していない。総得点22は、もちろんトップのレッズの40に比べて見劣りはする。それでも数少ないチャンスを確実にモノにして、後半を中心に7試合連続で得点中だ。

「今日を見ると2‐0からのゲーム運びに、まだ慣れていない。チームとして攻めるのか、守るのか、ボールをキープするのかという判断をチーム全体で統一させていけば、もっといいチームになる。そうじゃないと今日みたいに1点取り返されて、あわや同点にされそうな事態になりかねないので。

 でも、後半になれば必ず点を取れる自信のようなものもこの数試合あるし、いまはいい形で歯車がかみ合っている状態なので、このまま進めていければ。二回り目に入れば相手もさらにマリノスを分析してくるので、そのなかでも相手よりいいパフォーマンスを発揮することが大事になってきますよね」

 こう語る中澤が見つめるのは豊穣の秋。8日のサンフレッチェ広島戦から幕を開ける後半戦は、サマーブレイクをはさんで清水エスパルス、アルビレックス新潟、コンサドーレと下位チームとの対戦が続く。泥臭く、いい意味でなりふり構わず白星をもぎ取り続けるマリノスが、不気味な存在感を放ち始めた。

(取材・文:藤江直人)

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