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痴漢冤罪事件で弁護士の選び方には気をつけたほうがいい理由

7/3(月) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 今年に入って首都圏では痴漢の疑いを掛けられて逃亡を図り、ホームから線路に飛び降りる暴挙に出るケースが続出している。痴漢冤罪事件に巻き込まれるのは、まさに“ある日突然”だ。

 冤罪を主張するのを諦めて、警察が介入する前に、被害者との話し合いで決着がつけば、交通事故を起こした時の示談程度の出費をしなければならないかもしれないが、事は大事にならずに済ませるかもしれない。ただ、冤罪なのに面倒を避けたいという理由だけで「やった」ことにしてしまっても、話し合いですまないケースになる場合もある。

 また、有無を言わさず警察に逮捕され、本格的な刑事事件に発展してしまった場合だってある。

 そうしたときに、必要不可欠な存在になるのが弁護士である。今回はそうした被疑者(起訴後は被告人)の不利を防ぐために、被疑者の味方となって法律的なアドバイスをしてくれたり、時には警察・検察相手に戦ってくれる存在、“弁護士”について筆者の経験や取材に基づいて記したい

◆1回だけの無料相談をしてくれる“当番弁護士”

 痴漢事件に巻き込まれた場合、弁護士をどんな方法で呼ぶか?ということだが、刑事事件で関わる弁護士には

1.当番弁護士

2.国選弁護人

3.私選弁護人

 の3種類がある。

 まず刑事事件の被疑者として逮捕されてしまった場合、最初に出会うのは“当番弁護士”だ。当番弁護士というのは、“1回だけ無料で留置場まで接見(面会)に来てくれて、相談に乗ってくれる”というシステムだ。

 刑事手続きのルールも知らない素人である被疑者の不利益を少しでも解消するため、全国の弁護士会が事前に被疑者と接見して、最低限の刑訴法ルールを説明し、法的なアドバイスをしてくれるのである。しかも1回だけではあるが、“無料”で、弁護士費用は発生しない。派遣される弁護士には、所属する弁護士会から日当が支払われるが、金額的にはほとんどボランティアレベルだ。

 ただ、この当番弁護士制度を利用して、逮捕された被疑者と接見して、そこから私選弁護人契約を結ぶケースも結構あるので、当番弁護士を引き受ける弁護士は、刑事事件に熱心なだけでなく、営業も兼ねている。したがってボランティア同然とはいえ、真剣に相談に乗ってくれることもある。

◆当番弁護士の呼び方はとっても簡単!

 当番弁護士を呼ぶ方法は、至って簡単だ。警察署の取調室に連れ込まれた時、あるいは本格的に留置場に入れられた時など、明らかに自分の身柄が拘束されている状態で、そばにいる警察官に

「当番弁護士を呼んでください」

 と言うだけだ。それだけで早ければその日の夜、遅くても翌日の夜には、弁護士会から派遣された当番弁護士が接見に来てくれる。

 また痴漢冤罪対策として、取調室に連れ込まれた時点で、

「弁護士と会うまで何も話しません」

 と“黙秘宣言”する場合もある。警察はすぐに当番弁護士を呼んでくれるだろう。

 ちなみに当番弁護士を呼べるのは、あくまで逮捕などで“身柄が拘束されている状態”だけだ。痴漢の容疑をかけられたものの、逮捕を免れて最初から在宅捜査になった場合は、当番弁護士は呼べないので注意しよう。

◆弁護費用は国家が負担! 国選弁護人とは?

 法廷系のドラマや小説が好きな人なら、名前くらいは知っているのが“国選弁護人”だ。日本の裁判システムは、刑事事件で法知識のない被告人を守るため、裁判で必ず弁護人が必要な“必要的弁護事件”というモノがある。しかし、実際に全ての被告人が弁護士を雇える金を持っているわけではない。

 そうした経済的な理由で弁護士を雇えない被告人に対して、国が弁護費用を出すことによって、被告人の弁護人となった弁護士が国選弁護人だ。したがって国選弁護人を雇った場合、被告人自身が支払う弁護士費用は、基本的にゼロである。

 ただし、国選弁護人を雇うには、経済的に困窮していることが第一条件である。具体的には、預貯金や可処分財産(車などすぐ売却可能な資産)の合計が、50万円未満でなければ国選弁護人の選任を依頼しても却下される。もっとも自分の資産は、あくまで自己申告である上、国選弁護人を選任する役目を持っている裁判所は、いちいち資産を調査することはない。

 だから本当はカネを持っていても、国選弁護人を使うことは不可能ではないのだが、身も蓋もない話をすれば、大嘘をついてまで国選弁護人を雇う価値はない。なぜなら国選弁護人に“当たりハズレ”が大きいというデメリットがあるのだ。これは国が支払う国選弁護人の弁護費用が、非常に安いことが原因である。

 運よく腕もやる気もある弁護士が当たればいいが、腕もやる気もないハズレ弁護士に当たってしまうと最悪だ。国選弁護人を頼むタイミングは、逮捕後事件が警察から検察に移り、検察の検事が引き続き身柄拘束捜査が必要だとして、裁判所に勾留請求をすると行われる裁判所の勾留質問の時である。

 つまり勾留質問の段階まで刑事手続きが進んでいるというわけで、痴漢事件でココまで行ってしまうのは、被疑者が容疑を否認している時が多いのだ。否認事件で頼りになるのは弁護士だけなのである。そんな弁護士頼みの状態で当たりかハズレかわからない国選弁護人を頼むという“賭け”はなかなかリスキーである。

◆痴漢で国選弁護人は雇えない?

 ただ、現在は多くの痴漢事件にいて被疑者段階では国選弁護人が雇えない可能性が高い。もともと国選弁護人というのは、実際に行われる裁判でカネのない被告人に弁護人をつける制度である。ところが起訴前は被告人ではなく“被疑者”なので、法的には国選弁護人を雇うことができなかったのだ。

 しかし、法律に詳しい弁護士のアドバイスというのは、起訴前こそ必要だ。被疑者段階で、すでに警察・検察に供述調書を取られてしまった場合、起訴されてから弁護人がついても、もうどうしようもない状態だったという判例が山ほどある。

 そうした被告人(被疑者)の不利を改善するために“被疑者国選弁護人制度”が生まれたのは、2004年と比較的最近の話になる。この被疑者国選弁護人制度は、被疑者の段階で国選弁護人を雇えるというモノだが、条件がある。それは、

『裁判で下される刑罰が死刑か無期懲役、あるいは懲役3年以上であること』

 というモノだ。

 痴漢の容疑には「強制わいせつ罪」と、各自治体の定める「迷惑防止条例違反」の2種類がある。もしかけられた容疑が強制わいせつ罪なら、予想される量刑は6月以上10年以下の懲役なので、被疑者国選弁護人を雇う資格があるわけだ。ところが、痴漢で強制わいせつ罪を問われるような事件というのは、相当悪質な痴漢だった場合である。

 多くの痴漢事件は、服の上からいろいろと触る程度のモノであり(それでも大きな問題なのだが)、問われる罪状は迷惑防止条例違反になる。この場合、予想される最高の刑罰は、懲役であったとしても6か月(初犯の場合)なので、国選弁護人制度が使えないのだ。

 ただ、この状況も来年から変わることになる。2016年に刑訴法が改正され、2018年6月までに「全ての身柄拘束事件で、被疑者国選弁護人制度が使えるようになる」ことになっているのだ。

 これはすでに国会で可決され、現場での施行待ちの状態なので、2018年の6月以降は迷惑防止条例違反でも、国選弁護人を使えるようになるはずだ。もっとも“当たりハズレ”のリスクは変わらないので、そこのところはよく考えたほうがよい。次回は、自腹を切って雇う弁護士が“私選弁護人”について述べたい。

<文/ごとうさとき>

【ごとうさとき】

フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『逮捕されたらこうなります!』、『痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中

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