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「おおっ!手に汗握る展開だ!」室屋選手が千葉戦をレビュー【レッドブル・エアレース2017】

7/3(月) 18:33配信

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レッドブル・エアレース2017千葉大会を連勝・連覇で通算3勝目を挙げた室屋義秀選手とミカ・ブラジョヨー選手 に、東京・銀座のスタジオブライトリングでお話を伺いました。

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ブライトリングのメンバーイベントの前だったのでフライトスーツはブライトリング仕様です。



Q:千葉戦の感想は?

室屋選手:今回は苦しい展開でした。そんな中で勝ち抜けたというのは、ミラクルな展開が一杯あって見えない力に支えられたかなという勝利でした。その力は観客の方々の声援だったリ正に見えないものですが、ラウンド・ オブ・14での千分の7秒差の勝利は70cm。ラウンド・オブ・8でも先に飛んだ自分がペナルティをもらってしま いましたが、相手(ホール選手)もペナルティをもらいました。ファイナル4でも結構ペナルティが絡んだので、 自分の実力だけではない何かで勝たせてもらったと感じますね。

Q:千葉の海岸線に作られるコースは過去2年は直線的なコースでした。今年はテクニカルな「回り込むターン」が設けられましたが?

室屋選手:機体の特性はサンディエゴに合っていて、ほぼ狙ったタイムで飛べました。結果として結構引き離して勝ちましたが、千葉でそれは出来なかった。

……サンディエゴでは感覚的に”ゾーン”と呼ばれる領域まで集中できたそうですが、千葉ではその領域まで研ぎ澄す事はできなかったそうです。世界を闘うアスリートにとって母国イベントのプレッシャーは大きいといわれますが、エアレースも例外ではないようです。過去に母国戦を連覇したのは、現在解説者で19勝を挙げている「ミスターエアレース」こと、ポール・ボノムさんだけ。室屋選手が2人目という偉業です。

Q:勝利の実感はいつ湧きましたか?

室屋選手:終わった直後は飛行機から降り、1位という結果が出た途端に表彰式・プレスカンファレンスと一気に続くので優勝の実感はあまり湧きません。



月曜の朝に思い返しつつTVを見ると「おぉ!すごいなぁ」「手に汗握るなぁ!」と(笑)。もちろん、当日も僅差で凄いのは判っていましたが、これほどとは思いませんでした。

勝とうと思ってやってきて、2連勝と千葉2連覇かと注目を浴び・声援を受ける中で、本当にそこに届いたので嬉しいです。今、若干気が緩んで、力が抜けちゃっています。ちょっとリラックスさせてもらっています。

Q:予選前に「今年は練習と同じように飛ぶ」といわれ、プラクティスでトップタイムを出したサンディエゴの時と異なる慎重な飛び方をされていたようですが?

室屋選手:今年のレースのプランはどのレースでも変わりません。もちろん「タイム縮めるにはここでもう少し…」というようなポイントは沢山あるので、見直しは行います。しかし、大きく変化させないことと、リスクの高い「ここ一発のチャレンジはやらないと」ことを心掛けました。

Q:先攻・後攻はどちらが有利でしょう?

室屋選手:理論的には後攻の方が有利だと思いますが、精神的には(先攻で)クリーン(力み・考え過ぎず)に飛べるかなぁ、と思います。特にこの2戦(サンディエゴ・千葉)で実感しました。

今回のファイナル4のように先に驚くほどではないけれど、好タイムを出されると後から飛ぶ選手は皆相当プレッシャーがかかります。今回もパイロンヒットなどペナルティを犯しています。しかし、あと1秒遅いタイムだと、ミスはしてくれません。

ラウンド・オブ・14でも本当はタイム的にもう少しゆとりを持って勝てるつもりでしたが、トラックのタイムが (風の影響で)落ちていたのと、コプシュテイン選手がファイステストルーザーとして勝ち残る程速かったので、ドキドキしました(笑)

……会場のTVスクリーンも差が”0.00″と表示され、同着に映り会場がザワつきました。



Q:ラウンド・オブ・8の後に「元の戦略に戻す」とコメントした室屋選手。ラウンド・オブ・8では「戦略通りで はない」何を行ったのでしょう?

室屋選手:ラウンド・オブ・14での自分のタイムを対戦相手のマット・ホール選手のプラクティスタイムと比較して、このまま戦うのは難しいと思い、ほんの少しペースを上げました。

具体的にはゲート7への進入角度を大きくとると次の大きなターンが速くなります。角度は許容範囲内に納めたつもりでしたが、その際の風が予想以上に強く、しかもゲートに押される様に吹いたので、切り替えした瞬間(パイロンに)予想より数メーター近く、パイロンヒットを避ける為に戻したのですが、姿勢の回復が間に合いませんでした。パイロンヒット(3秒加算)かインコレクトレベル(2秒加算)かどちらかでした。

風の影響ですが、機体の旋回性能にゆとりがあれば回避できたのかもしれません。戦略に組み込むには難しい領域です。

……当日、現地の風の強さだけでなく、向きも刻々と変わっていました。目に見えない風・何も掴んだり支えたりできない中で闘っている競技の難しさが伝わります。

Q:プラクティスではセクタータイムが一カ所だけ極端に遅かったり、総合のタイムで上位に顔を出さなかったようですが、何かを試みていたのでしょうか?

室屋選手:そうですね。そこまで見てる人は少ないんですが(苦笑)。

タイムが落ちるのは判った上で、意図的にラインを変えていました。見える周囲を確認したり、セーフティーラインにどこまで近づいたらペナルティを取られるかなど試しています。

他のパイロット達は特別速いタイムを出したりしますが、本番ではアウト(ペナルティのリスクが高い)だとか、実際はラインを越えてるとか、一概に比較できないのですが、そういう事を試していました。



Q:サンディエゴでは「相手がソンカ(前戦優勝者)だからってなんだ!一番速いのは俺達だ」という強気のコメントがラウンド・オブ・8の対戦前に聞かれました。これは相手にプレッシャーを掛けたり、チャンピオンシップを優位に戦う為の「かけひき」だったのでしょうか?

室屋選手:それは駆け引きという訳では無く、参戦しているメンバーは全員が自信満々で喋ります。14番目のパイロットだって「どこそこの調子が悪かったからしょうがないんだ」といった感じです。それはメンタルのつくり方の大事な手法で「誰かと戦う前に自分自身を前向きにしておく」という事ですね。

Q:それは自分を奮い立たせると云うことでしょうか?

室屋選手:「勝てないかもしれないけど勝てるかな…」といった状態では勝てない。勝つことに前向きになっておくということです。時には負けるかもしれない、けど勝つと思うことで出来る事をやるしかないです。

Q:今年は表彰台が浦安のパブリックビューイング会場に作られました。過去2年は仮設ハンガー(格納庫)の隣で、沢山といえるほどの人に囲まれなかったかと思うのですが、今回はいかがでしたか?

室屋選手:あれは最高の表彰式でした。滑走路・ハンガーとレース会場が離れている(観客と表彰台が離れている)場合が多く、それはしょうがないのですが、今回は仮設飛行場のそばにパブリックビューイング会場が設けられ、そこで表彰式が行なわれたので非常に盛り上がりました。日本ですし、それは「特別」でした。



Q:今シーズンの今後の課題について聞かせて下さい。

室屋選手:まだあと5戦あります。レース終了の2週間後に次の場所へ行って、同じ事を繰り返す。ネバーエンディングなのでシーズン後半はチームスタッフにも疲れが蓄積します。チーム全体のモチベーションをキープし、マネージメントしていく事も必要になります。



後半戦は回り込みの大きなコースレイアウトが増え、機体特性上ウイングレット装着機が有利になるため、中盤戦でポイントを稼ぎ、リードを保って終盤戦にいどみたいとの考えだそうです。

最後に日本のファンへのメッセージを頂きました。

室屋選手:3戦が終わり、2連勝という良い形で終わりましたが、まだこれから5戦あります。これからヨーロッパラウンドで苦しくなるので、これからが勝負です。引き続き、ご声援をお願い致します。

ミカ(ミカエル)・ブラジョー選手からは個別インタビューの時間が頂けました。

ミカ選手はフランス出身、1987年生まれの29歳。子供の頃からパイロットを目指し、12歳からトレーニングを開始。現在までの飛行時間は3000時間を超え、エアラインパイロットやフライトインストラクターと並行してアエロバティック(アクロバット飛行)の経験を磨きました。

エアレースでは2015年にマスタークラスへの登竜門「チャレンジャークラス」で優勝。しかし、翌年すぐにマスタークラスへ参戦せず、マスターメントリング(育成プログラム)に参加します。

飛行機の操縦だけでなくチーム運営などエアレースに参戦に必要な基礎を習得し、今年からマスタークラスへ 昨年までナイジェル・ラム選手をサポートしたブライトリングチームから参戦を開始しました。



Q:千葉戦お疲れさまでした。結果(ラウンド・オブ・14で敗退)は残念でしたが、対戦相手が現在最も速いマルティン・ソンカ選手だったので仕方ないという感じでしょうか?

ミカエル・ブラジョー(以下MB):千葉のトラックを飛ぶ事を楽しみに準備してきました。非常に良いコンディションの中、ペナルティのない飛行もできたのですが、相手の選手も速かったという事と、マスタークラスに参加して3度目のレースでしたので、チーム全体で細かい所まで戦略を組み立てている段階で、次戦はより効率の良い飛行をしていきたいと思います。

……明快な一方で、社交辞令的なお答えです。しかし、単独インタビューなので、踏み込みます。実はミカ選手、昨年の千葉では競技には参加していませんが、ナイジェル・ラム選手の機体で飛んでいます。 マスターメントリングプログラムによりミカ選手の飛行時間が設けられていました。

Q:昨年と今年のコース(タイムは今年の方が10秒速い)のどちらが難しかったですか?

MB:確かに昨年千葉のコースを飛びました。しかし、習熟プログラムと競技として飛ぶのは全く違います。 昨年はそこまで丁寧な分析は行っておらす、ナイジェル選手用のセットアップがされた機体での飛行でした。今年はチームとコースを充分分析して飛びましたので、16年の方が私には難しく感じました。

今年準備が整った状態で飛び・手応えもありましたが、細かな調整を煮詰めなくてはいけないと感じています。昨年は競技ではない事でリラックスして飛べた反面、(プログラムとして)チェックしている方々もいるので 気は引き締めて飛んでいました。

……昨年はただ飛んでいたわけではなく、評価を意識しながらの飛行はプレッシャー掛かったでしょうね。

Q:ミカ選手はこの2年間にデビューした選手(ポドルンシェク/コプシュテイン/ボルトン)達とチャレンジャークラス で競い合って(倒して)来ました。1年間プログラムを受けている間にデビューしたチャレンジャークラスのライバル達が参入し、ここ1,2戦で表彰台に登る結果を出していますが、どう思われていますか?

MB:このプログラムは、飛行技術だけでなく、チームの運営やエアレースを深く学んだ一年でした。 一緒に旅をしながらエアレースを構成する様々な側面を吸収したり、ブライトリングのアエロバティックチームとして飛行を披露したり忙しく過ごしました。レースに勝つ事だけに集中している一年ではなかった訳です。

レースに集中してれば早く好成績に近づけたかもしれませんが、1年間プログラムを通して勉強させてもらえた事で、確かな実力の土台が築けたと思えるし、これから順調に成績を伸ばしていける自信となりました。



……参戦開始から、3戦のうち2戦はドルダラー/ソンカ選手らの今シーズン好調な選手と多く対戦する不運もあったようです。 参戦初年度に無得点だった選手もいた事を考えれば、3戦で4ポイントを獲得しているのはルーキーとしては好調な滑り出しと見るべきなのかもしれません。

Q:ここ1,2年でエアレース黎明期を支えた選手(ベネゼイ,ボノム,アルヒ,ラム選手)が去り、現在は2009年デビュー のドルダラー・ホール・室屋の各選手、10年デビューのソンカ選手がタイトル争いの中心に居ます。2015,16年にマスタークラスにデビューしたあなた方がタイトル争いに参加出来るのはいつ頃でしょう?

MB:近年、飛行機の性能が向上・拮抗しており、千葉戦ではトップから2秒以内にほぼ全選手が収まって います。それは各選手が非常に細かいレベルでしのぎを削る戦いとなっている証拠です。そんな中、ポドルンシェク 選手がサンディエゴで、千葉でコプシュテイン選手が2位となりました。私も彼らの流れを追いたいと思い ます。なので、いつ彼らと共に表彰台を争えるかといえば、早ければ今年・来年には来るかもしれません。観客の方々の為にも表彰台のメンバーは毎回違う方がレースとしても面白い筈ですので。



Q:室屋選手も今年注目の選手としてミカ選手を挙げていました。これからどんどん上位を追い上げ、シリーズを盛り上げてくれることを期待しています。

MB:エアレースは僅差でエキサイティングなレースとなって来ており、これからも面白いレースが繰り広げられると思います。今年もあと五大会ありますので、出来るだけ多くのポイントを獲得できる飛行をしたいと思っています。

トップから最下位まで僅差なので、いかに正確で速いフライトをするかを目指しており、ポイントをより多く獲得できれば、さらなる限界に挑戦していけると思います。 とはいえ、現在のところまだ4ポイントなので、リスクマネージメントとして(ギャンブルに出ない)精神的なコントロールに取り組んでいます。

チームの戦略としては、目標のレベル(表彰台を狙う)に到達するよう、ゆっくりとではあり ますが、確実に近づいていると思います。なので、表彰台の獲得はそう遠くない未来に実現できると思っています。



インタビューの大半はミカ選手のコメントで占められるほど、熱い人柄が伝わるひと時でした。一機になってしまったMSX-Rの事なども伺ってみたかったのですが、ミカ選手の方からまたお会いしましょうとの事でしたので、何時の日か次の機会にまた伺ってみたいと思います。

(川崎BASE・photo Y.Kanoh)

最終更新:7/3(月) 18:33
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