ここから本文です

都民ファースト最有力の新人候補が最も遅い当確だった――投開票日に見せた素顔【密着ルポ】

7/3(月) 18:30配信

週刊SPA!

 7月2日に投開票が行われた東京都議会選挙は、小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会(以下、都民ファ)の圧勝に終わった。今後4年間の都政を託された都民ファの新人議員たちの素顔はどんなものなのか。開票日当日、武蔵野市の都民ファの候補者・鈴木邦和(28)に密着取材し、“都議誕生”のその瞬間までを追った。

⇒【写真】事務所での緊迫した状況

◆「自分のことより見てられない」

 7月2日20時50分頃、東京・JR吉祥寺駅近くのヨドバシカメラ横にある都民ファーストの会公認候補・鈴木邦和の事務所では、テレビで中継される「小池圧勝」の報に沸き立ちながらも、どこか緊張感が張りつめていた。

 公示日ギリギリで公認を出した町田市などでも、都民ファが軽々と圧勝を決めたと報じられていた。中央区や千代田区などの“激戦区”でも、都民ファの候補者の当確が早々と出ていた。しかし、鈴木が出馬している武蔵野市では、民進党の候補者が僅差でリードしているという出口調査の予測が流れていた。

 事務所に集まった50名弱のスタッフと支援者たちは、用意された大きなスークリーンに映しだされる開票速報を心配そうにじっと見つめている。クーラーは入っているが、人の熱気ですこし蒸し暑いくらいだ。当事者である鈴木は、会場の左後ろで椅子に座り、手にした緑茶のペットボトルを時折飲みながら、足を組んで、じっと前を見つめていた。

 会場からは、「23時頃まで決まらなそう」といった声が漏れだしていた。選挙活動のはじまった二か月前から手伝いをしていた30代の男性ボランティアの一人は、「自分のことより見ていられない」と思わず事務所の外に出た。

◆隠れ激戦区

 開票日当日だというのに、鈴木の事務所には日経BPの記者と、どこかの新聞社の記者が一瞬顔を見せたくらいで、メディアの注目度は決して高いとはいえなかったが、武蔵野市は紛れもなく、今回の都議選における“隠れ激戦区”だった。

 いわゆる“1人区”である武蔵野市では、自民現職の島崎義司(51)、民進党元職の松下玲子(46)、そして鈴木の三人が、たった1つの議席を争っていた。

 自民への“逆風”が吹き荒れるなか、現職の島崎は厳しい戦いを強いられていたが、だからと言って、「都民ファーストの会」公認という肩書きさえあれば、簡単に当選できるという選挙区ではまったくなかった。

 民進党の松下は、落選期間中のこの4年間、街頭活動を地道に続け、地元民の根強い支持がある。菅直人元首相の地盤であり、もともと革新勢力が強い上に、共産党が候補を立てず、事実上の松下支持に回っていた。

 “父が育った地”という地縁を頼りに、2か月前に武蔵野にやってきた鈴木が、厳しい戦いを強いられるのは、もとより分かっていたことだった。あるボランティアスタッフは「だからこそ一丸になってやれた。選挙活動ができる最終日だった昨日もギリギリまでやり抜きました」と振り返った。

 希望の塾で出会った有志によって構成された鈴木選対は、フェイスブック上で100名近くのグループを作るなど、新人候補の選対としては異例の組織力を誇っていた。若いスタッフが多いこともあり、活動量の多さでは他候補の群を抜いており、事前調査ではリードが伝えられていた。しかし、勝つとしても数千票の差だろうという読みは選対で共有されていた。開票日前日のスタッフ向けメールには、「(結果がわかるのは)深夜になります」とあった。

◆武蔵野の転換点

 事態が動いたのは、22時5分すぎだった。「NHK選挙WEB」で、75%までの開票結果が報じられたのだ。鈴木と松下が2万1000票で並んでいる。すでに島嶼部と武蔵野市以外ではほぼ情勢が判明していた。「こわいこわい」という女性の声があがった。

 会場には40名ほどの支援者が残っていた。スマートフォンで開票速報を確認している人が多い。「1時間以内にはわかるだろうな」と誰かが呟くのが聞こえたが、結果はその後、意外とすぐに判明した。

 22時13分頃、NHKの選挙WEBで鈴木の当確報道が出ると、会場からは「うぉー」というどよめきが上がり、男女問わず泣き出す選挙スタッフが相次いだ。別のボランティアスタッフは「それだけ厳しい選挙だったんですよ」と漏らした。鈴木は「よしっ」と一言発し、スタッフと抱擁やハイタッチをかわしていったが、緊張した面持ちまだは晴れなかった。

 それでも、NHKの選挙特番で22時30分頃に、地図上の武蔵野市に都民ファーストの緑色が描きいれられ、会場から「オー、入っている入っている」との声が上がると、鈴木の表情もようやくスッキリしたものに変わった。

 鈴木の当選は武蔵野市の政局にも、影響を与える可能性が大きい。元武蔵野市長で自民党の土屋正忠衆議院議員と、民進党の菅直人元首相による“土菅戦争”とも呼ばれる保革の対立が繰り広げれていた地盤に、第三極がねじこまれたからだ。

 事務所の前方に立った鈴木は、「今日は僕にとっても、武蔵野にとっても、本当に大きな転換点になりました。当確が出てから気が引き締まりました。私に託されなかった票にこめられた意見もきっちりと聞いて、東京都政で頑張っていきたいと思います」と挨拶した。

◆人の心を動かせる政治家に

 喜びに沸く会場の興奮は、23時をすぎても冷めなかった。後援会長などの挨拶で盛り上がったあとは、支援者と鈴木との記念撮影が続いていた。自らも希望の塾に参加し、選挙戦では地元との架け橋として鈴木を支え続けた選対本部長の深田貴美子武蔵野市議は、「希望の塾の生徒たちが、地域とも融合しながら戦った市民選挙でした。鈴木には、初心を忘れず、政局にとらわれず、都民や市民の目線で頑張って欲しい」と期待を込めた。

 万歳三唱を終えた鈴木に話を聞くと、「喜びは一瞬で消えて、すぐにでも仕事をしたいという気持ちになりました」という。

「持続可能な東京にしていく、という大きな目標がある一方で、地震対策を始め武蔵野市にもたくさんの課題がある。市民とのコミュニケーションとリサーチをすぐにでも進めます」

 そのうえで、勝因は「選対のスタッフに恵まれたことだ」と振り返った。

「支えてくれた人の数が多く、早朝6時の街頭でも、5~6人来てくれたし、1万枚のポスティングもすぐに終った。利権やしがらみではなく、純粋な志で集まってくれたスタッフに支えられ、この選挙チームで戦えたのは、自分の政治家としての原点になりました」

 出馬前まで、政策面から政治家と有権者を結びつけることを目的として、「日本政治.com」というサイトを運営していた鈴木だが、選挙を通じて政治についての見方も変わったようだ。

「政策はもちろん重要だが、政治家である以上、人の心を動かせるような人物にならないといけないと思いました。政治には、白か黒か答えを出せないことが多い。そのなかで、『あの人が言うんなら』と思ってもらえるような政治家になりたい」

 最後に、今後4年間、政治家として活動していく上での意気込みを聞いた。

「我々の政党は4年間で成果を出さなければ、消えると思っています。だから、成果をきちんとだす。自分の強みは、何かを提案したり、構想して、人を巻き込んでいく力だと思っているので、議会でも積極的に力を発揮していきたいです」

 武蔵野市と東京都のパイプ役として、東京都の将来を創っていく旗振り役として、新人都議の仕事ははじまったばかりだ。

取材・文/河野 嘉誠

日刊SPA!

最終更新:7/3(月) 18:30
週刊SPA!

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊SPA!

扶桑社

2017年8月15・22日合併号
08月08日発売

¥440

・[東京VS地方]貧困のリアル
・[情弱ビジネス]騙しの最新手口11連発
・[神戸5人殺傷事件]報道できない裏側
・猛暑の[悪臭スポット]を測定してみた