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パリ同時多発テロ現場「バタクラン」にて

7/4(火) 17:10配信

GQ JAPAN

パリ同時多発テロで90人が犠牲になった「バタクラン」。昨年11月に営業を再開したこのライブハウスに、ファッション・ジャーナリストの増田海治郎が足を踏み入れた。

【 2015年11月13日パリ これは戦争か 】

パリコレを取材するようになって4年になる。最初にコレクション・レビューを書いていた媒体では、原稿料とバーターで宿代を負担してもらっていたから、自ら泊まる場所を選べなかった。常宿はレピュブリック広場に近い、『三国志』の登場人物に因んだ名前の中国人経営の2つ星ホテル。各フロアには円形状に部屋が配されていて、幽霊が出そうな螺旋階段も相まって、旧き良き時代のパリの雰囲気が味わえると言えないこともなかったけれど、設備は極めて貧しく、外見もみすぼらしかった。

B.C.B.G.(bon chic bon genre)的な貴族的な世界に長く憧れてきた私は、この貧相なホテルと、様々な文化が雑多に入り交じっただけのように見えるこのあたりが、最初は好きではなかった。でも、回を重ねるごとに界隈の深部(とくに食のそれ)に魅了されるようになり、いつしか「一番魅力的なパリは北東部にある」と宣うようにすらなった。サンドニのインド人街で食べる13ユーロのカレーセットは、東京一と思っていた代々木のカレー屋が霞むレベルだったし、オペルカンフのワインバーで食べた照り焼きソースのビーフステーキは、日仏融合ここに極まれり、な極上の一皿だった。そして、胃が疲れてきた頃に必ず足を運んでいたのが、サンマルタン運河の丘の上の小さなカンボジア料理店だった。

その名をル・プティ・カンボージュという。2015年11月にパリ同時多発テロが起きたとき、カンボジア料理店が襲われたと聞いて、この店のガラス張りの明るい店内と名物のボブン(カンボジアを代表するビーフン料理のひとつ)を思い出した。悪い予感は当たり、向かいのル・カリオンバーと合わせて15人が凶弾に倒れた。カリオンでパスティスを一杯ひっかけてから、春巻きの入ったスペシャルボブンを味わう年2回のルーティンが、私をこの街の住人にしたような気がして、とても気に入っていた。だからテロを身近に感じたし、間接的にテロに遭ったような気さえした。

そこから15分ほど歩いたヴォルテール通り沿いに、もっとも犠牲者が多かった劇場、バタクランがある。数々の伝説を生んできたこのライブハウスは、事件から1年後に営業を再開した。ここで何が起こったのか、その場で感じてみたいと思ったから、今年の1月のパリコレの最終日に行ってみることにした。

ピガールから地下鉄2号線と5号線を乗り継いで、開演15分前に会場に着いた。今日の主役はプリティー・レックレスというアメリカのバンドで、ヴォーカルのテイラー・モムセンは、TVドラマ「ゴシップガール」でブレイクした元女優。列に並んでいるのは10~20代の女子が8割で、前には10代前半と思しきキュートな三姉妹とお父さんの家族連れがいた。じぶんが親だったなら「行っちゃダメ絶対!」と言ってしまうだろう。

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最終更新:7/4(火) 23:59
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