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運用が難しく金食い虫……。日本が導入を検討する「早期警戒衛星」ってどんなもの?

7/4(火) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 新聞各紙は6月14日付で、2019~23年度に予定されている次期中期防衛力整備計画に向け、自民党の安全保障調査会が中間報告原案をまとめたと報じた。その中には、北朝鮮のミサイルなどに対抗するために、新型のミサイル迎撃システムや敵基地の攻撃能力、そして日本独自の「早期警戒衛星」を保有すべきとの提言が含まれているという。

 日本は1998年に起きた、北朝鮮による「テポドン」発射事件を受けて、事実上の偵察衛星である「情報収集衛星」の導入を決定。2003年から打ち上げが始まり、現在までに当初計画されていた光学衛星2機、レーダー衛星2機を基本とする4機体制が整備されている(詳しくは拙稿『宇宙から地表を監視する「情報収集衛星」の打ち上げ成功――その意義と課題』を参照されたい)。

 一方、今回保有が提言されている早期警戒衛星は、いわゆる「軍事衛星」に分類される衛星という点では同じなものの、情報収集衛星のような偵察衛星とはまったく異なる種類の衛星である。その特徴や役割、そして日本に導入する場合の課題について見ていきたい。

◆ミサイルから出る熱で発射を探知する早期警戒衛星

 早期警戒衛星はその名のとおり、ミサイルの発射を早期に探知し、政府、軍、迎撃ミサイル・システムに警戒を出すことを目的とした衛星である。英語では「Early Warning Satellite」と呼ぶ。

 いわゆる偵察衛星と呼ばれる衛星とは、地球を見る方法と、そのデータの使い方に違いがある。偵察衛星は高性能なデジタルカメラである光学センサーか、もしくは電波を使うレーダーを積んでおり、これら「目」として使って地表を撮影する。

 地上のある特定の地点を見られるのは、1日~数日に1回(軌道によって変わる)で、たとえば前日に撮影した画像と、今しがた撮影した画像とを見比べ、車や人の動きなどの変化から、そこで何が行われているのかなどを分析する。最近のニュースで、「北朝鮮の核実験施設で活発な動き」とか「バレーボールをやっているようだ」と報じられることがあったが、その情報は主にこうした偵察衛星が撮影した画像をもとに分析されている。

 一方、早期警戒衛星は積んでいる「目」が異なる。通常のカメラでは、どこかからミサイルが発射されたように見える画像が撮影されたとしても、もしかしたら飛行機や雲の動きを見間違えたのかもしれないし、あるいはミサイルが迷彩色をまとっていれば、そもそも見えない場合もある。

 そこで早期警戒衛星は、赤外線で地表を見ることができる「赤外線センサー(カメラ)」を積んでいる。監視カメラなどでおなじみの赤外線は、熱を発しているものから出るという特徴がある。そしてミサイルからはロケット・エンジンやロケット・モーターから高温のガスが噴射される。小型ミサイルだろうが大型だろうが、迷彩色になっていようがいまいが、ロケットからはかならず高温のガスが、すなわち強い赤外線が出ることになる。

 そのミサイルの発射時の熱を、宇宙から赤外線センサーで探知し、そして即座に迎撃ミサイルなどに知らせるというのが、早期警戒衛星のしくみと役割である。

◆単に衛星を配備しただけではだめ

 ただ、早期警戒衛星を使いこなすためには、ただ単に、赤外線センサーをもった衛星を打ち上げればよいというものではない。

 前述のように、地球上にはミサイルの熱以外にも、高温になっている部分は多くある。温泉地などの地熱の温度が高いところにはじまり、火山の噴火や山火事、雷や隕石、スプライトと呼ばれる高い高度での放電・発光現象、そして飛行機や、ミサイルではない宇宙ロケットの打ち上げ――。地表からはさまざまな熱が出ており、むしろミサイルの発射はその中の例外中の例外のような出来事である。

 その無数の熱源の中からミサイルの発射の熱のみを検出するためには、あらかじめ、どこにどんな熱源があるのかを知っておく、いうならば「熱の地図」が必要になる。また、温泉地などや活火山などのように、常に同じ場所にある熱源だけならまだしも、自然現象や突発的な災害のように、突如としてある場所から熱が発生する事象も多いので、どこ場所にどのような熱源が発生しやすいのか、またその温度は通常どれくらいなのか、ということを知っておき、ミサイルの発射と区別できるようにする必要もある。

 また、固定式の発射台から発射されるミサイルであれば、その発射台がある場所を重点的に監視すればよいものの、最近の北朝鮮のように湖畔や山の中、さらに海中の潜水艦など、不特定の場所から突如として発射されるミサイルに備えるためには、常に広い範囲を見渡しておかねばならない。さらに、熱を監視されているということを逆手にとって、偽の熱源を用意するなどして本物のミサイルの発射をカモフラージュされることもあるだろう。

 こうした事情から、早期警戒衛星の運用は一朝一夕にできるものではなく、事前の準備はもちろん、配備したあとも常日頃から継続的に情報を集め、分析を続けることが必要になる。そうした難しいノウハウの積み重ねの上に、あるとき発生した熱源がミサイルか否かを判別でき、そして迎撃ミサイルの発射などの対応を行うことができるようになる。

 早期警戒衛星は、この運用が最も難しい。技術や人材育成といった話でもあるし、何か別の事象をミサイル発射と誤認して、反撃のミサイル攻撃を行ったりすると、それがもとで戦争が起こってしまう危険もある。そのため衛星のセンサーも、そのデータを分析する人も、そしてそれをもとに対応を取る人も、ミスをしないことが厳格に求められる。

 もちろん日本には敵国を攻撃する能力はないので、こうした場合の最悪のケースは迎撃ミサイルを発射することなどにとどまるだろうが、それでも周辺国に誤ったメッセージを送ることにはなるため、衝突の引き金になる可能性はある。

◆早期警戒衛星を日本に導入する場合の課題

 早期警戒衛星は現在、米国やロシアが運用しており、中国も構築を進めているといわれる。またフランスは将来の開発に向けて、2009年に試験機を打ち上げ、開発した赤外線センサーを試験したり、熱の地図を作成したりしているとされる。

 日本ではまだ正式に開発や配備は決定されていないものの、日本も早期警戒衛星を保有しようという話は今に始まったことではなく、今回の提言が行われるもう何年も前から、政府や防衛省から要求や検討は行われていた。しかし実際に日本も独自に開発、配備するとなると、さまざまな課題がある。

 まず必要となるのは、赤外線センサーの開発である。ただ、これについてはすでに2013年から、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と防衛省技術研究本部(現在の防衛装備庁)との間で、宇宙用の赤外線センサーの研究協力体制が始まっており、さらに2014年度には開発に向けた予算もついている。詳細は明らかにされていないが、いつ早期警戒衛星の開発が決まってもよいように、現在もセンサーの研究・開発は続いているとみてよいだろう。

 くわえて、技術実証機を開発して打ち上げ、センサーの試験をするとともに、熱の地図を作ることも必要になる。もしかすると米軍から提供を受けられる可能性もあるが、おそらくは最大級の機密に該当するものであろうし、仮に受けることができても、それを利用し、さらにアップデートしていくためには、結局は独自でノウハウを積み重ねなければならない。その上で、ようやく早期警戒衛星の運用が可能になる。

 早期警戒衛星の衛星そのものも、日本は基本的に北朝鮮、あるいは中国を中心に監視すればよいので、衛星の総数は、米国のように世界各地に目を光らせる必要がある場合に比べれば少なくて済む。ただそれでも、故障した場合の予備機などを考えると2~3機は配備していく必要があるし、また衛星にも寿命があるので、1機につき10年ほどの間隔で、後継機や新型機に更新していかなければならない。

 さらに、早期警戒衛星からのミサイル発射の警報を、政府や防衛省、そして迎撃を担当する艦艇や部隊などに、すばやく正確に伝え、ミサイルの迎撃や国民の避難にいかす情報伝達のシステムも必要になる。

◆最大の課題は多額の開発費、運用費の捻出

 そして技術的な課題だけでなく、当然ながらお金の問題も重要になる。たとえば米国は、現在配備している早期警戒衛星「SBIRS」の開発で、2013年までに188億ドルものコストを投じていることがわかっている。それも、当初は47億ドルの予定だったものが、開発遅延などでコストも期間も大きく超過した結果である。

 1960年代から早期警戒衛星の開発、配備を進めてきた米国ですらこういう状況になるということは、これから新規に開発しなければならない日本も、相当額のコストを覚悟する必要がある。さらに、一度配備が始まれば、運用はもちろん、後継機や新型機の開発や打ち上げなどで、毎年コストが積み重なっていく(もちろん日米とでは必要な衛星数などに違いがあるので金額にも差が出るだろう)。

 もっとも、自衛隊の艦艇や地上配備型のレーダーなどだけでは、ミサイルまでの距離や地球の丸みなどの関係で、探知能力にどうしても限界がある。北朝鮮などから発射されたミサイルを早期に探知し、迎撃や避難といった対処を行うためには、地上や海上のレーダーはもちろん、早期警戒衛星をもち、それらを連携させることが重要になる。

 多額の費用によって得られるものは唯一無二の価値があるものの、そもそもその費用をどのようにして捻出し、さらに継続的に負担し続けていくかは、大きな課題である。

<取材・文・写真/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・SBIRS Fact Sheet・Lockheed Martin(http://www.lockheedmartin.com/content/dam/lockheed/data/space/documents/sbirs/SBIRS_Fact_Sheet_(Final).pdf)

・SPACE BASED INFRARED SYSTEM (SBIRS) > Los Angeles Air Force Base > Fact Sheets(http://www.losangeles.af.mil/About-Us/Fact-Sheets/Article/734550/space-based-infrared-system-sbirs/)

・Testimony Before the Subcommittee on Strategic Forces, Committee on Armed Services, U.S. Senate – SPACE ACQUISITIONS DOD Is Overcoming Long-Standing Problems, but Faces Challenges to Ensuring Its Investments Are Optimized(https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Chaplain_04-24-13.pdf)

・Space Based Infrared System(http://www.globalsecurity.org/space/systems/sbir.htm)

・SPIRALE – eoPortal Directory – Satellite Missions(https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/s/spirale)

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