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J2長崎、ジャパネット参画後の劇的変化。人員増加、職場環境の改善…着実に進められる変革

7/5(水) 10:40配信

フットボールチャンネル

 2年連続黒字を計上していたにもかかわらず、突然1億2000万円の赤字と約3億円もの累積赤字を出す事態に陥ったJ2のV・ファーレン長崎。4月から株式会社ジャパネットホールディングスのグループ会社として再出発しているが、その変革と改善はどのように進んでいるのだろうか。(取材・文:藤原裕久【長崎】)

●スタッフの人員は大幅に増加。職場環境も改善

 4月25日に行なわれた定時株主総会で新しい代表取締役に高田明社長が就任し、株式会社ジャパネットホールディングスのグループ会社として再出発したV・ファーレン長崎。それからの約2ヶ月、クラブは山積する経営や運営の問題と向き合いながら、静かにそして着実に変革と改善を推し進めている。

 なかでも新体制下で大きく改善されたのが、3億以上の累積赤字に陥っていた経営問題だ。一時は給与遅配の可能性も言及されていた経営状態だが、ジャパネットからの支援によって、関係者が「そういった心配は今後はないと思います」と語る状態にまで持ち直すことに成功。補強などのチーム予算についても問題はない状態にまで改善される見込みだ。

 その一方で、クラブの経営環境は予想以上に深刻で、当初「3年で10億以上」としていた支援額を1年目から投入しなければならない可能性もあるとされている。今回の経営危機はジャパネットが大きな負担を負うことで救われたが、本当の意味での経営改善はこれからの大きな課題となるだろう。

 中でも、2年前から急騰し、昨季はクラブスタッフの人件費をも超えた委託費をはじめとする支出の見直しは急務となるはずだ。

 4月の定時株主総会でジャパネットホールディングスの高田旭人代表取締役社長が「既存のスタッフ、ジャパネットからの選抜する社員、新たに採用する社員で運営を行なっていきたい」と語ったとおり組織体制と人事についても大きく変わった。

 YKKグループで辣腕をふるった高橋章二氏や、4月までツエーゲン金沢の運営に尽力した由井昌秋氏を取締役として迎えいれ、定時株主総会翌日からはクラブ運営メンバーの一般募集も開始。結果、既存スタッフやジャパネットグループ内からの社員とあわせてスタッフの人員は大幅に増加された。

 むろん、単純に頭数を増やしたというわけではない。既存スタッフにもあらためて適性試験を実施し、関係者が「どこに出しても恥ずかしくない」と評するジャパネットの人事制度やノー残業デーを導入するなど職場環境の改善も推し進め、クラブを意欲的に働ける場にしようとしている。

●「質と効率性」重視への転換。クラブ事務局のムードも明るく

 地方クラブがこういった職場環境の改善を優先させる例は少ない。だが、高田明社長は社長就任時に「人が足りないのなら、そこに投資も行なう。その上で、みんなで知恵を出し合って効率性を高めたい」と語っており、これまでのクラブで見られた、多くの業務を少人数のスタッフでこなす「仕事量」重視の運営スタイルから、業務の「質や効率性」重視への転換が進んでいくはずだ。

 そういった方向性の一端はクラブ事務局の様子からもうかがい知ることができる。以前、大量の備品や資料の山に埋もれていた事務局は、断捨離を敢行した結果、見違えるように広くなり事務局内のムードも明るいものへと変化した。

 同時に、出入り口をはじめ数ヶ所にセキュリティロックが導入され、情報管理や保安面へも配慮するなどプロクラブ事務局としての質は確実に高まっている。今後もジャパネットグループのノウハウやスタイルを導入しながら、こういった質や効率性の向上は図られていくはずだ。

 こういった質の変化はスタジアムも例外ではない。高田社長はスタジアムを「サッカーを見るだけじゃなく、試合前、試合やハーフタイム、試合後も楽しむ。5時間過ごしても楽しいなというスタジアムにしたい」と語っているが、その一端は6月11日に「ジャパネットDAY」と銘打って行なわれたホームゲームでも垣間見られた。

 ジャパネットDAYでは、通販大手として家電などを多く手がける会社の特徴を生かして、アウトレットセールや、テレビショッピング同様に塚本慎太郎MCが商品説明を行うオークションを開催。これまでと違うアプローチはサポーターからも好意的に受け入れられ、試合後はすぐに帰る人が多い長崎では珍しく、ジャパネットのブースには多くのサポーターが留まり、帰り道に次の開催を期待する声も少なくなかったという。

●数少ない誤算。クラブ運営引き継ぎの難航

 高田明社長からすれば、方向性の正しさに手応えを覚えたことだろう。今、長崎のスタジアムでは、高田明社長がにこやかに写真撮影やサインに応じ、多忙を縫って来場した高田旭人社長が「父のようにサインはないんですが(笑)」と言いながら、サポーターの話に耳を傾ける……そんな光景は珍しいことではない。

 トップ自らが先頭に立つ中で、新しいアプローチのイベントやチームの好調さにも支えられ、長崎のスタジアムには徐々に「ワクワクさせる何か」が生まれ始めている。

 このように着々と変化が進む長崎だが、クラブ運営の引き継ぎに難航したことは数少ない誤算だったようだ。

 本来ならば、シーズン中の3月上旬にV・ファーレンへの支援を決定し、5月16日には株式の100%取得を完了させつつ、滞りなく公式戦運営を行えているだけでも大変なことであるが、関係者の多くは「本当はもっといろいろなアイデアがあるが、予想以上に時間がかかり、まだそこまでできていない」と口にする。

 時間を要した最大の理由は、前体制が「株式会社V・ファーレン長崎」と「一般社団法人V.V.NAGASAKIスポーツクラブ」で分担しながら多方面に拡大していた業務の複雑さだ。口頭で契約が交わされていたことも多く、一部社員のみで業務を担当していたために、内容、関係性、全体像がわかりにくく、情報収集や確認にも時間がとられたのだという。

●真の意味で「長崎のプロクラブ」になるために

 例えば、諫早市から土地の提供を受け、社団が建設し所有権を有する「諫早市サッカー場」のクラブハウスについても、体制変更後の社団の方向性や状況が不明なままで、当初3月にはクラブハウスにトップチームが入るとされていた計画は延期されたままである。

 社団は3月の服部順一氏の代表理事辞任後、長崎県サッカー協会会長でもある、小嶺忠敏氏が代表理事に就任したが、相次ぐ理事の交代や、行政との情報共有や連携不足に陥り、国際戦略部門の担当予定だったスタッフや所属する各スポーツ団体も当惑している状態となっている。

 その中でクラブが慎重に関係先と話し合いながら事態の打開を進めているが、こういった業務引継で時間がかかってしまったのは想定外で、本来はもっとイベントや集客に集中したかったという思いはあることだろう。

 実際に、話題となったジャパネットデーの入場者数は4,618人に終わったが、告知CMが増加し、対戦カードがロアッソ熊本とのバトルオブ九州だったことは考えれば、不本意な数字と言えるだろう。

 だが、それを必要以上に悲観する必要はない。今のクラブは一度崩れてしまった土台を再構築している途上であり、新体制の運営能力もこれから徐々に発揮され、問われてくるものと言って良いだろう。入場者はその結果としてついてくるものだ。

 私自身、この数ヶ月スタジアムで観客として試合を観戦したが、サポーターの表情や言葉には、クラブが存続する安堵感と新体制に期待する声が多いと感じた。入場者数では大きな変化はなくとも、入場者の満足度という点では向上しているとも考えている。

 確かにまだクラブには、改善の余地はある。だが、数ヶ月前まであったスタジアムの重い空気は確実に変り、変革の風が吹いている。本当の意味で「長崎のプロクラブ」になっていくためにも、今は見守っていくことが必要だろう。

(取材・文:藤原裕久【長崎】)

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