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アウトサイダーとして学んだ“リーダーの条件” ──エディー・ジョーンズ(ラグビー イングランド代表・ヘッドコーチ) 杉原博茂 スペシャル対談

7/5(水) 9:10配信

GQ JAPAN

ひとつの組織をまとめ、ゴールへ向かって突き進む。リーダーに求められる条件は時代によって異なる。弱小国だった日本を率いて世界のラグビー界に大きなインパクトを残した稀代のリーダーに、IT企業をリードするアウトサイダーが訊いた。

【 ラグビーW杯の躍進とその後 】

東京・北青山、国道246号線沿いに建つオラクル青山センター。その最上階のドアを開けると、日本庭園と「聚想庵」と名付けられた茶室が現れる。「現代」と「プレ・モダン」、「喧騒」と「静謐」、「IT」と「茶道」。さまざまなエレメントが交錯する不思議な空間だ。

亭主は、国内外の企業で経験を重ね、現在日本オラクルの会長を務める杉原博茂氏。招かれた客は、2年前のワールドカップでラグビー日本代表を率いて強豪を次々と撃破、世界を驚かせたエディー・ジョーンズ現・イングランド代表ヘッドコーチ。欧州6カ国で行われるシックスネイションズ連覇を果たすなど、まさに時の人だ。

2人の共通点は、 異分子としてすでに完成した組織に入り、リーダーを努めていること。眼下に“聖地”秩父宮ラグビー場を見下ろす「聚想庵」は、そんな2人に相応しい邂逅の場に思えた。


杉原: 今日はエディーさんにお会いできて、本当に光栄です。ワールドカップのときは、鳥肌が立つくらいに興奮しました。実は私も高校時代にラグビーをやっていたんです。「One for All, All for One」の精神で、どう転がるか予想がつかない楕円ボールを追いかけた経験は、ビジネスマンとなったいまでも私のなかに息づいています。

エディー: あのワールドカップでは、世界を驚かせよう、日本を印象付けようということを目標にしていました。その結果、日本のラグビーは世界から大きなリスペクトを集めることができました。

杉原: ラグビーは15人をまとめて、ひとつの目標に向かわせなければならない。しかも代表チームともなると全員がトッププレイヤーです。エディーさんは彼らをどのようにまとめたのでしょうか?

エディー: 限られた時間のなかで結果を出すために、まず大切なのは全員にひとつの目標を理解してもらうことです。日本代表のときは、「日本ラグビーを救おう」という目標を掲げて、それを何度も繰り返し伝えていました。

杉原: ひとつの目標に向かわせるというのは、重要ですよね。私の場合も、日本オラクルの社長に就任する前、多くの社員と会って話していたら、「なぜそれをやっているのか?」というVISIONが持てていないように感じました。そこで社長に就任したとき、2020年までの6年間で日本において「クラウドでNo1」になること、そして「The Most Admired Company」(最も賞賛される企業)になることをVISIONに掲げました。

エディー: チーム全員に向かって言うこともあるし、個人に語りかけることもある。自分のメッセージを理解してもらい、ひとつの目標に向かってもらうことが大切なんです。

杉原: ヘッドコーチの場合、それぞれのプレイヤーの能力を見きわめなければならないと思いますが、その基準はどんなものになりますか?

エディー: フィジカルとメンタルがタフであること。そして何より「チームの一員になりたい」という強い気持ちを持っているかどうか。その気持ちがチームに規律をもたらすのです。個人に自由を与えつつ、そのプレイヤーがチームの規律を保てるかどうか。何度もテストしながら、そこを見きわめていきます。

杉原: そうやって見きわめた選手を同じ目標に向かわせる。そのときに大切なことはなんですか?

エディー: 相手をリスペクトしつつ、コミュニケーションをとりつづけることです。私の場合、母国であるオーストラリア、南アフリカ、日本、そしてイングランドといろいろな国でコーチをつとめてきました。私がチームを率いることを決めて、最初にするのはその国の文化を学び、国民性を知り、そこに敬意を示すこと。ただ「変えよう、変わろう」と言ってもダメ。相手の文化を理解し、自分がどう振る舞うべきかを考える。その上で相手に敬意を示し、全員と平等に、そして根気強くコミュニケーションをとりつづけるんです。

杉原: メンタリティは、国によっても違いますし、年代によっても違います。若い世代にはどのように接していますか? 特にデジタルネイティブ世代は、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが苦手のように感じますが。

エディー: 確かにそうですね。カップルでレストランに入っても、お互い会話をせずスマートフォンを見ている世代ですからね(笑)。でもそれを変えようとしても無理。そんな彼らの文化にも敬意を持って接します。20年前、僕が初めてヘッドコーチになったころは、ミーティングのときは壇上に立って「こうしろ!」と言えばよかった。でもいまはそんなやり方は通用しません。彼らの横に立って、一人ずつと会話をしていく。彼らをミーティングの傍観者ではなく、参加者に変えていくんです。

杉原: 私も同じですね。なるべく多くの社員と直接コミュニケーションをとるようにしています。その上で僕の場合、国籍や年齢に関係なく「何ができるか」を重視するようにしています。ところでエディーさんといえば、とにかく過酷なトレーニングを課す「ハードワーク」という言葉が代名詞のように言われています。しかしただ厳しいだけのトレーニングでは、選手もついてこないように思いますが。

エディー: その通りです。誤解されがちなのですが、ハードワークとは、やみくもに長時間の練習をすることではありません。勝つための準備を肉体的にも精神的にも100%やりきること。つまり目的に対して、すべての意識をフォーカスしていくこと。それは単にトレーニングをするよりも大変なことです。だからそれをハードワークと呼ぶんです。

杉原: 情熱があれば、ハードワークができる。僕は高校生のころ、誰に強制されたわけでもないのに毎日懸命にラグビーの練習をして、ボールを磨き続けていました。ラグビーが好きだったから、プロセスのハードさは気にならなかった。僕は社員たちにもそうなってほしいと思っています。お客様の期待を超えたいと思い続けて仕事をし、そのプロセスをあとで思い返したらハードワークだったということになれば、いいなと思っています。

エディー: ビジネスでも同じだと思いますが、負けてもいいと思っているプレイヤーはいないんです。だからこそその気持ちを汲みながら、目標に向かって正しくリードしていかなければならない。アウトサイダーだからこそ見える問題点はあります。でもまずは相手に敬意を持つことがスタートだと思います。

杉原: 「破壊と創造」はむしろイージーですよね。でもそれだと文化として根付きません。これまでを破壊せず、どうやって新しい文化を創造するか。私はまだそのチャレンジの真っただ中ですが、エディーさんの言葉を胸に刻んで、前に進みたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

エディー: こちらこそ。素敵な場所にお招きいただき、ありがとうございました。

エディー・ジョーンズ
ラグビーイングランド代表ヘッドコーチ(ラグビー日本代表前ヘッドコーチ)
1960年、オーストラリア生まれ。オーストラリア人の父と、日系アメリカ人の母の間に生まれる。オーストラリアで選手として活躍後、コーチに転身。2003年、オーストラリアの代表監督としてW杯準優勝、07年、南アフリカのテクニカルアドバイザーとしてW杯優勝。サントリーのゼネラルマネージャー、監督を経て、12年日本代表ヘッドコーチに就任。15年のワールドカップで奇跡ともいえる大躍進に導いた。15年より、ラグビーの母国、イングランドの代表監督に就任。

杉原博茂
日本オラクル取締役 会長
1960年、大阪府生まれ。1982年、フォーバルに入社。1989年、フォーバルアメリカインクに出向。1993年インターテルに転職し、執行役員アジア太平洋地域担当バイスプレジデントならびにインターテルジャパンの代表取締役社長を兼任。その後、EMCジャパン、シスコシステムズ、日本ヒューレット・パッカードを経て、2013年にオラクル・コーポレーションに入社。2014年、日本オラクル代表執行役社長に就任し、2017年6月から現職。

川上康介

最終更新:7/5(水) 9:10
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