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痴漢冤罪に遭遇したらどうなる?――着手金が安い弁護士がアブない理由

7/5(水) 15:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 今年に入って首都圏では痴漢の疑いを掛けられて逃亡を図り、ホームから線路に飛び降りる暴挙に出るケースが続出している。冤罪とはいえ痴漢事件に巻き込まれてしまった場合、必要になってくるのは弁護士の力である。

 前回は無料で雇える弁護士の存在について紹介したが、そうではなく被疑者や被告人が自腹を切って雇う弁護士が“私選弁護人”だ。

 無料で1回だけ相談に乗ってくれる当番弁護士や、弁護費用を国が負担してくれる国選弁護人と違い、弁護人として弁護活動をする弁護士の費用は全て請求される。その代わり、やる気は十分で、クライアントである被疑者や被告人にとって、少しでも役に立つために働いてくれるだろう。

 またやる気も腕もいまひとつであった場合、すぐに解任して別の弁護士を雇うことも可能で、この点も一度選任したら、基本的に解任ができない国選弁護人と違う。

◆私選弁護人はどこで雇える?

 そんな私選弁護人の雇い方だが、痴漢事件で自分自身が身柄を拘束されてしまっている場合、当番弁護士に私選弁護人として契約してもらう方法が一般的だ。

 多くの一般人で、もともと弁護士と知り合いがいるという人は、そう多くない。したがっていざ痴漢事件に巻き込まれて、すぐに私選弁護人を頼めるような人も滅多にいないわけだ。そうなると留置場まで弁護士が接見に来てくれる当番弁護士以外、弁護士と接触するチャンスがない人にとって、私選弁護人を頼めるのは当番弁護士以外にいないのである。

 当番弁護士として弁護士会に登録し、被疑者に接見に来るような弁護士は、少なくとも刑事事件の経験が全くないといった頼りない弁護士が少ない。しかし、この接見を機会に私選弁護人契約を結ぼうという“商売第一”の弁護士も実在するので、当番弁護士の良し悪しも国選弁護人と同じく運次第である。

 万が一、接見に来た当番弁護士と相性が合わなければ、その弁護士との私選弁護人契約を結ぶのはオススメしない。刑事事件で有利に事を進めるには、弁護人との相性は非常な重要な要素だ。当番弁護士と話してみて、自分とは合いそうもないと思った場合は、その弁護士とは私選弁護人契約を結ばず、別の弁護士を探そう。

◆別の弁護士はどうやって探す?

 身柄が拘束されてしまっている状態で、他の弁護士を探す方法は、シャバにいる家族や友人知人に頼んで探してもらうのが普通だ。その手段が使えなければ、警察を通じて地元の弁護士会に連絡してもらい、刑事事件の得意な弁護士を派遣してもらうしかない。

 当番弁護士制度が導入される以前は、この方法しかなかったわけだが、弁護士会から弁護士を派遣してもらうと、契約するしないに関係なく、接見に来るだけでその弁護士の出張費と相談料が発生してしまう。

 金額的には出張費が1万~2万円と相談料は30分5000円程度が相場だ。もっとも最近は初回相談料は無料という弁護士もいるし、私選弁護人として契約を結べば、相談料はかからない。

 そうした出費を覚悟して、気に入った弁護士と出会えるまで、何度でも弁護士会に弁護士の派遣を依頼するのは可能だ。しかし、刑事事件は初動が勝負で、迷っている間でも刑事手続きはどんどん進んでしまう。あまり迷っている時間はなさそうだ。

◆弁護士費用の内訳とは?

 では、私選弁護人契約を結ぶには、どのくらい掛かるかというと、刑事弁護費用は「着手金」「諸経費」「成功報酬」の3つが基本である。

 着手金というのは、弁護人として正式に契約を結ぶ時に支払うお金で、2017年現在30万~50万円くらいが相場だ。被疑者自身が最初から罪を認めていて、後はいかに刑罰を軽く済ますかという目的で弁護士を雇う場合、着手金は30万円くらいである。一方、痴漢冤罪のように逮捕容疑を否認し、無実を争うケースは“困難事件”と呼ばれ、着手金も50万円くらいが相場になる。

 次の諸経費は、身柄を拘束されている被疑者の元へ接見に来るための交通費とか、事件の資料整理のためのコピー代といった文字通り諸経費だ。これは弁護活動中に発生するモノで、支払い方法は弁護士が領収書を提示して、その度に支払うか、月ごとに締めてまとめて支払うかは弁護士ごとで違ってくる。

 そして、成功報酬は、私選弁護人としての仕事が終わった時点で支払う報酬である。弁護人の仕事の終わりというのは、

・事件が不起訴になった場合

・裁判で判決が出た場合

 になるのが基本だ。

 不起訴処分になれば、その事件に関する刑事手続きは終了なので、当然、弁護人の仕事も完了する。ところが裁判の場合は判決が出たからといって、それで終わりとは限らない。判決に不服があれば、控訴や上告をしてまだまだ裁判は続くのだが、弁護人の仕事は、裁判の判決を目安に一旦終わるのである。

 控訴や上告をして、引き続き裁判を続けるのであれば、もう一度着手金を支払い、改めて弁護人契約を結び直すことになっているのだ。もちろんこの時、同じ弁護士と弁護人契約を結ばず、他の弁護士にチェンジするのも自由だ。

 どちらにしても弁護人としての仕事が一段落した時点で支払うのが成功報酬になる。

 この成功報酬は、最初から罪を認めている量刑裁判では40万円程度、容疑を否認している困難事件だと50万円程度が相場だ。ただここで問題になるのは、「事件における成功とは何か?」ということである。

◆成功報酬が後で揉める原因に…

 これを正式に弁護人契約を結ぶ前に決めておかないと、後で揉める原因になることが多い。たとえば否認事件だと無罪を主張しているわけだが、実際の裁判では有罪の執行猶予判決になってしまったという場合、弁護士の弁護活動は成功か失敗かということが問題になる。

 こうした判決が出た場合「実刑は免れたのだから、一応成功でしょ?」などと主張する弁護士も少なくない。

 確かに執行猶予がつけば、とりあえず裁判後、身柄は刑務所に送られることもなく自由になるし、執行猶予期間中に犯罪を犯さなければ、罪そのものが消滅する(法的な前科が消える)わけだ。しかし、クライアントからすれば、完全無罪を主張しているわけで、その結果で“成功”とは言えないだろう。

 成功報酬の場合「弁護に失敗したら、成功報酬はゼロでOK!」という宣伝文句を謳っている弁護士もいる。しかし、実際の弁護活動が成功だったのか、失敗だったのかは微妙な結果に終わるケースが意外に多いのである。

 だから先に紹介した成功報酬の相場はクライアントの希望通りの結果が得られた場合であり、不満がある時には相場金額より何割かが値引きされることもある。

 もっとも弁護活動が終わった時、そうした揉め事を避けるために、正式な弁護人契約を結ぶ時にこの事件における“成功”とはどんな結果なのか、予想される“失敗”とはどんなケースなのかをハッキリさせ、ケースごとの成功報酬額を決めておくケースが一般的ではある。

◆私選弁護士を雇うときに注意したいポイント!

 そういうわけで、刑事弁護をしてくれる弁護士を雇う費用は着手金(30万~50万円)+成功報酬(40万~50万円)+諸経費で、70万~100万円。……になるかと思えば、実はそうではない。

 確かにそうした計算で弁護活動の全てを行ってくれる弁護士も実在する。しかし、最近は最低限の弁護活動以外の諸手続きをすべて“オプション”と称して、別途請求する弁護士も少なくない。

 ちょっと前まで弁護士を雇う料金というのは、弁護士会ごとに“料金表”があって弁護士料金は、ほぼどの弁護士も同じだった。しかし、日本国内で弁護活動をする弁護士というのは、弁護士会に所属することが法律で義務付けられており、その弁護士会が弁護料金を定めているのは「独占禁止法違反ではないか?」という指摘がされた。

 そんな経緯から弁護料金は弁護士自身や、法律事務所が独自に定めることが認められ、2004年以降、弁護士料金というのは、自由価格になっている。だから、この記事で紹介している弁護士料金も相場と言われている金額を紹介しているが、この金額より高額な弁護費用を請求する弁護士もいるし、着手金20万円といった“価格破壊”的な弁護士もあったりするのである。

 ただし、そうした相場に比べて安い着手金で依頼を受けている弁護士の場合、最低限の弁護活動以外の諸手続きをすべてオプションにしているケースが多い。たとえば逮捕・勾留されている被疑者の身柄を、満期より早く解放する手続きである“勾留理由開示請求”とか、“準抗告”といったことを弁護士にやってもらう場合、それは“別料金”になるのだ。

 弁護士の中には「依頼人である被疑者の身柄解放は、弁護士の基本活動のひとつ」と言って、勾留理由開示請求や準抗告の手続き費用は、基本弁護費用(着手金+成功報酬)に含まれると解釈している人もいるのである。これはどちらが正しいという問題ではない。諸手続きひとつでも料金が発生するというのは、弁護士自身も報酬分の仕事をすることを求められるわけで、その方が支払う側も安心感があるという考え方もある。

 そんなわけで、私選弁護人は選び方によって、かかる費用に結構差が付いてしまうのだ。そして高額な弁護料金がかかる弁護士が、必ずしも優秀ではないという事も頭に入れておこう。弁護士の良し悪しは、どれだけ依頼人の立場になって熱心に動けるかということと、依頼人との相性である。刑事事件はスピードが勝負なので、色々迷っているヒマはないが、正式に弁護人契約を結ぶ前に、その弁護士の料金体系はしっかりを把握しておくべきだ。

<文/ごとうさとき>

【ごとうさとき】

フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『逮捕されたらこうなります!』、『痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中

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