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『来てけつかるべき新世界』 “岸田賞”受賞のSF新喜劇

7/5(水) 7:00配信

Book Bang

 今年の岸田國士戯曲賞受賞作。「~してけつかる」というのは大阪弁で、ちょっとした罵倒語である。「来たるべき新世界」の途中に収まり悪く「けつかる」が挟まることで、串カツ屋にたむろする、おっちゃんたちの吉本新喜劇的猥雑な世界と、ハイテクノロジーがいっそう進んだ近未来、水と油の二つの世界が強引に結びつけられる。

 阪田三吉を描く「王将」でもおなじみの通天閣にほど近い、このあたりの地名が「新世界」。かつて博覧会跡地がこう名づけられたときは、文字通り新しい風俗文化が紹介されるモダンな繁華街で、百年後、時間が止まった今のような場所(失礼)になるとはたぶん想像できなかっただろう。同時に、オルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」が描いたディストピア的未来も連想され、何重にも意味が重なり合う。

 未来の新世界では、上空に出前や宅配、空撮、宣伝など各種ドローンが飛び交っている。新しもの好きの近所のラーメン屋も出前に導入しているが、高度計算を誤って通行人に激突、勝手にチャーハンを食べられたりしている。飛田新地は飛田更地(さらち)になって、もっぱらヴァーチャルリアルの性サービスを提供している。

 おっちゃんたちはハイテクノロジーを恐れない。もちろん驚くし、憎んで遠ざける人もいるが、使えるとなればこだわりなく生活に取り入れるのが正統的なディストピアものと違うところだ。技術が進んでも、人工知能の暴走による「シンギュラリティ」が起きても、おっちゃんたちは特に何もせず、無駄話を続けている。つまり変わらない。

 ドローンもロボットも、この新世界では住人に似たのか心優しく、あまり甲斐性がない。自己同一性といった哲学的な話題もさりげなく織り込みつつ、最後までテンポのよい会話で笑わせ続ける。AI搭載の炊飯器と、テレビの大喜利でロボットに負けた漫才師とのかけあいなど、とぼけた味でしみじみおかしい。

[レビュアー]佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

新潮社 週刊新潮 2017年7月6日号 掲載

新潮社

最終更新:7/5(水) 12:24
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