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須賀しのぶ『また、桜の国で』 高校生直木賞受賞記念インタビュー 

7/6(木) 11:30配信

文春オンライン

――高校生直木賞のご受賞、おめでとうございます。

 この作品は、若い方に読んでいただきたいという思いが特に強かったのでとても嬉しいです。感性の柔軟な若い頃に、自分がいる場所ではない世界もあるということを伝えられるのはエンターテイメント小説ならではの魅力だと思います。私自身が中学生、高校生の頃の読書によって、視野が広がり、多様な価値観を得ることができました。

――一般的には知られていない、第二次世界大戦下のポーランドを舞台に選んだのはなぜでしょうか。

 前作の『神の棘(とげ)』(新潮文庫)で同じ時代のドイツを舞台に、ナチス親衛隊や修道士たちの姿を描きました。それを読んだ担当編集者から、次の作品ではポーランドを描いてはどうか、と提案されたのです。でも、ポーランドはアウシュビッツやカティンの森、ワルシャワ蜂起など悲惨な出来事が多く、どうすれば日本人に向けたエンターテイメントに仕立てることができるか悩みました。しかし、アメリカでの同時多発テロやISの台頭などを経た世界は、激変していきます。この空気は第2次世界大戦前夜と同じだと感じました。国が無くなるとはどういうことか、行き過ぎた愛国心が暴走するとどうなるか、否応なく考えるようになり、先の大戦で被害を受けた国のことも書くべきではないかと思いました。

 とはいえ、『また、桜の国で』は500ページ近い分厚さですし、「読み通せなかった」という高校生の気持ちも、とてもよく分かります。私も学生時代、感動した本を友達に薦めても読み通してもらったことがないんです。辻邦生の『背教者ユリアヌス』とか、ウィリアム・シャイラーの『第三帝国の興亡』全5巻などを、ポイントに付箋まで付けて友達に渡したのですが、その話題を喜んでくれたのは歴史の先生だけでした(笑)。

――主人公の外務書記生、棚倉慎(たなくらまこと)、父からスラヴ系の容姿を受け継ぎ、日本では疎外感を感じています。自らのアイデンティティへの葛藤に強く共感したという感想がありました。

 私は少女小説というジャンルでデビューしたのですが、少女小説は登場人物への共感が肝です。でも、私自身は読書に共感性を求めていませんでした。学生時代に小説や歴史書を読んで面白いと感じていたのは、いつの時代も人間は変わらないという発見だったり、自分が思いもよらなかった視点を獲得したときだったのです。それだけに、執筆を始めたころは、「分かる人にだけ分かればいいという自己満足では、誰にも作品を読んでもらえないよ」と、編集者に叱られ、鍛えられました。今回は、ポーランドという心理的な距離が遠い国が舞台なので、若い方でもページを進めてもらえるように、主人公には普遍的な悩みを持った人物を据えました。

――一方、「戦時下で慎たちのような友情はありえるのだろうか」、「ポーランドに侵攻したナチス・ドイツの視点も書いてほしかった」という厳しい意見もありました。

 そういった意見も嬉しいです。こういう状況下でこんな行動は可能なのだろうかとか、疑問を広げてほしいです。少女小説を書いていた頃から、様々な文化や価値観の衝突をテーマにしていて、作品が読者の考える入り口になってほしいと意識していました。歴史の事実や小説の背景は、自分で調べないと意味がないと思いますから。実は、連載当初の構想にはドイツ側の人物もいたのですが、さらに話が長くなってしまうので書けなかったのです。当時のドイツの様子については、ぜひ『神の棘』を読んでください。

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最終更新:7/6(木) 11:30
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