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川崎・阿部浩之、覚醒の秘訣。独特のスタイルへの順応。輝き放つチームの中心に

7/6(木) 15:28配信

フットボールチャンネル

 川崎フロンターレの阿部浩之が、28歳の誕生日にキャリアハイとなるシーズン8ゴール目を前半最後の一戦で叩き出した。ホームに浦和レッズを迎えた5日のJ1第13節でワントップとして先発。前半16分にキャプテンのFW小林悠の先制点をマークし、同29分には大黒柱のMF中村憲剛のアシストから2試合連続のゴールをマーク。後半からは左サイドハーフに回り、4‐1の快勝に貢献した。ガンバ大阪から加入して半年足らず。瞬く間に独自のスタイルに順応し、さらに覚醒しつつある秘密に迫った。(取材・文:藤江直人)

●28回目の誕生日に決めたキャリアハイの8ゴール目

 アニバーサリーが重なった。28回目の誕生日を、シーズンの自己最多記録を更新する8ゴール目で自ら祝った。10試合で8発を叩き込む量産ぶりに、川崎フロンターレの阿部浩之が思わず謙遜した。

「毎試合のようにいいパスが来ますし、シュートチャンスも試合中に何度か訪れるので、あまり力まずに打てるようになってきたのかなと思います」

 ホームの等々力陸上競技場で、浦和レッズと対峙した5日のJ1第13節。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)との兼ね合いで未消化だった一戦で、阿部の笑顔がカクテル光線に映えたのは前半29分だった。

 敵陣でボールを奪ったMFエドゥアルド・ネットからMF大島僚太を介して、MF中村憲剛へ素早く縦パスがつながれる。その瞬間、阿部はレッズのセンターバック、遠藤航と槙野智章の間に半身で入り込んでいた。

「(中村)憲剛さんだけでなく、その前の(大島)僚太からももらえるかなと思ったので、どっちでも受けられるタイミングで動いていた。ゴールは見えていなかったけど、キーパーのタイミングを外すことだけを考えて、2人に囲まれる前に何とか感覚で打つことができました」

 遠藤の姿を視界にとらえ、槙野の気配を背中で感じながら、ワンタッチで放たれた中村のスルーパスに抜け出す。左足でボールを整え、直後に左足で放たれた一撃に、GK西川周作はなす術がなかった。

 奈良県で生まれ育ち、大阪桐蔭高校、関西学院大学をへて2012シーズンにガンバ大阪へ加入。2014シーズンの国内三大タイトル独占に貢献した阿部はこのオフ、自らの強い希望でフロンターレへ移籍した。

「生まれも育ちも関西なので、こっちに来るのが不安でしかたがなかった」

 自虐的なジョークでサポーターを笑わせたのは、1月下旬の新体制発表会。いまや何年もフロンターレでプレーしているかのように溶け込み、2014シーズンにマークした7ゴールをわずか17試合で超えた。

●アマチュア時代から貫いてきたチャレンジ魂

 阿部を光り輝かせているのは何なのか。ひとつはアマチュア時代から貫いてきたチャレンジ魂がある。関西学院大学ではエースストライカーとして、4年時に関西学生サッカーリーグ1部で得点王とMVPを獲得した。

 4つのJクラブの練習に参加し、ヴィッセル神戸からはオファーも受けたが、選んだのは最もスタイルが合わないと感じていたガンバだった。理由は単純明快。「自分のプレーの幅を広げたい」と思ったからだ。

 青写真通りに、2013シーズンに就任した長谷川健太監督のもとで、右サイドハーフのレギュラーをゲット。170センチ、69キロの体に搭載された無尽蔵のスタミナで、攻守両面にわたってピッチで暴れまわった。

 積極的に攻撃へ絡み、背後の右サイドバックのカバーにも回る。要求した泥臭さを完璧に体現する姿に、長谷川監督も「チームにとって外せない選手。日本代表に入る力もある」と賛辞を惜しまなかった。

 新たな可能性を自分の力で切り開いていく一方で、2015シーズンは4、2016シーズンには3とゴール数が減少していく。一抹の物足りなさを覚える自分に気がついたとき、魅力的に映ったのがフロンターレだった。

「いままでが(ゴールを)取らなさすぎと言ったらおかしいですけど、出ている試合に比べればやっぱり少なかったので。僕自身、ガンバのときはチャンスで決め切れなかった部分もある。ゴールシーンにより絡みたい、という思いで来たので、その意味では何て言うんやろうな、まあ順調ですよね」

●加入当初の戸惑い。フロンターレ独特のサッカー

 28歳になるシーズンでのチャレンジはしかし、最初から順風満帆だったわけではなかった。フロンターレの独特のサッカーに戸惑った。大黒柱の中村の目には、「ちょっと自信がなさそうだった」と映っていた。

 たとえば、他のチームとは一線を画す「フリー」の定義。パスの受け手が相手選手にマークされていても、出し手との間で「ボールを出せる」という意思が疎通すれば、フロンターレでは「フリー」となる。

 パスを出して動く。動いてボールを受けて、また動く。基本的かつ高度なプレーを繰り返しながら、絶えず数的優位の状況を作り出すスタイルに、阿部は開幕から2ヶ月ほどで順応していった。中村が目を細める。

「自分が馴染むというか生きるために、周りの選手にどうしてほしいか、自分がどうしたらいいかをコミュニケートできる能力がすごく高い。そのうえで、話したことを実践できるのでどんどん成功体験が増えていくし、自信をもってやれるようにもなる。その意味では、阿部ちゃんがいると楽ですよ。

 もともと技術もあるし、賢いし、動きながらサッカーができるし、守備もできる。以前は『ここで欲しいな』と思ったときに横や後ろへパスを出していたけど、いまではちゃんと前へ入れられる。阿部ちゃんがボールをもつと僕たちも動くようになったし、そうなるともう止まらないですよね」

 中村が言及した成功体験を、阿部が初めて得たのは5月5日。3得点すべてに絡んだアルビレックス新潟戦だったが、心のなかでガッツポーズを作った場面は自身が決めた後半30分の3点目ではなかった。

 後半開始早々に、MF長谷川竜也が左タッチライン際をドリブルで攻め上がった。アイコンタクトを成立させた阿部はファーサイドから中央へポジションを移し、4人を引きつけた長谷川からパスを引き出す。

 このとき、パスコースを横切るように、オフサイドにならない絶妙のタイミングで小林が縦に走り出していた。ワンタッチのパスを小林がゴールに流し込んだ瞬間に、阿部は「これだ!」と全身に快感を覚えた。

「(小林)悠君は常にいい動き出しをするので、練習のときから見るようにしている。あの場面でも合わせるだけというか、悠君の特徴を殺さないようなパスを出すだけでした」

●ワントップを任され、蘇りつつある大学時代の感覚

 快晴に恵まれた祝日という舞台もあって、2万5000人を超える大観衆で埋まった等々力陸上競技場のスタンドへ向かって、お立ち台に呼ばれた阿部は「やっと馴染めました!」と照れながら絶叫している。

「ファンやサポーターの方々が笑ってくれるかな、と思ったのもありますけど。ゴールシーンで馴染めたのは、ホンマに初めてだったので。チームにはずっと前から馴染めていますけどね」

 ときにはすすんで笑いを取る関西人ならでは明るさで瞬く間にチームに溶け込み、ピッチのうえでもフィットした。5月以降の阿部が、リーグ戦8試合で7ゴールを量産しているのもうなずける。

 そして、阿部のチャレンジ魂を中村や大島、小林といった日本代表経験者を擁するフロンターレの攻撃陣が後押しする。冒頭で記した「毎試合のようにいいパスが来る」は、以前に別の選手からも聞いたフレーズだ。

 FW大久保嘉人(現FC東京)がヴィッセル神戸から加入した2013シーズン。中村や大島が何度もおぜん立てしてくれるチャンスに、時間の経過とともにストライカーの本能が呼び覚まされていった。

 その結果として、前人未踏の3シーズン連続の得点王獲得が導かれる。同じ図式が阿部にも当てはまる。大学時代の感覚が、ワントップを任されることの多いフロンターレで鮮やかに蘇りつつある。

「ガンバのときよりはポジションが前なので、ゴールチャンスが単純に増えたのもひとつの要因かと。まさかこのポジションをやるとは思ってもいなかったですけど、監督が使ってくれていますし、僕も信頼に応えたい。新たにいろいろな引き出しを身につけるチャンスやと思っているので」

●「本当に欠かせない選手ですね」

 後半途中からは左右のサイドハーフに回り、守備面でチームを助けるパターンが多くなった。フロンターレで覚醒させた新境地と、ガンバで身に着けた泥臭さに、鬼木達監督も全幅の信頼を寄せる。

「サイドを任せれば攻守において戦術理解が高いですし、もちろん前へ行けば前での戦術理解も高いし、動けて点が取れる。どこをやらせてもできるので、いまは本当に欠かせない選手ですね」

 かつてガンバの長谷川監督が「外せない」と評したように、新天地フロンターレの鬼木監督も「欠かせない」と称賛する。8ゴールは小林と並び、J1の得点ランキングで2位につけている。

「トップの興梠(慎三)さんがかなりずば抜けているので。悠君(小林)と切磋琢磨しながら、勝ちにつながるゴールを決めていきたい。僕が取るよりもチームの勝ちが大事なので、横に出したほうが入るなら迷わず横に出す。貪欲に狙わなくても、試合中に必ずシュートチャンスはあるので。そんなに自分が、自分がとならずに、チャンスが来たときに打てれば」

 阿部のアシストで小林が決めた先制点を含めた前半の2ゴールで優位に立ったレッズ戦は、最終的には4得点を奪って快勝。ACLの準々決勝で対峙する相手に、試合後の阿部も「嫌なイメージを与えられた」と笑った。

 5月以降を6勝1分け1敗と右肩上がりの軌跡を描いてきたフロンターレは、首位・鹿島アントラーズと勝ち点4差の5位で前半戦を折り返した。輝きを放つチームの中心に、覚醒を果しつつある阿部がいる。

(取材・文:藤江直人)

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