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夏に初詣も!? 御朱印ブームだけじゃない神社界の新潮流 - 日本再発見

7/6(木) 11:50配信

ニューズウィーク日本版

<昨今の神社ブームは自然発生したもの? 歴史ある神社も、経済的に見れば1つの事業所。より多くの人に来てもらうため、神職による新たな取り組みが日本各地で始まっている>

私も2度出演させてもらった人気テレビ番組『お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺』が終了したことで、巷では「お坊さんバブルが弾けた」と言われている。

茨城県石岡市にある常陸国総社宮の禰宜(ねぎ)である私は、「お坊さんVS神主さん」的な回に出演したのだが、確かにテレビをほとんど見ない私でさえ、一時期は様々な番組で仏僧の方々の活躍を目にした。

一方の神社界といえば「神主さんバブル」はついぞ来ていないが、新しい何かが起こっているという雰囲気が一般の方にも感じられているようだ。

神社というと昔から行われていることをただただ続けていくだけ、と考えている方もいるかもしれない。それは神社を運営する神職側にも言えるし、参拝する氏子や崇敬者側にも当てはまる。

しかし、行政から経済的支援があった戦前ならともかく、戦後の神社はひとつひとつが宗教法人格を持つ独立採算制。経済的に見れば1つの事業所という厳然たる事実があり、昔からのことを続けているだけでは運営することはできない。それどころか、本来続けていくべきことすら、存続できなく危機すらあるのだ。

現実に目を向けた神職の取り組みにより新たな潮流が生まれているわけだが、身近なところでは御朱印ブームが話題になっている。念のため付言すると、御朱印とは文字通り朱で押してもらう寺社の判子。持参した帳面に社名等が墨書され、朱印を押してもらう。写経を奉納した控えとして授与されたのが始まりとするのが通説だが、近年はいわゆる「歴女」の皆さんを中心に、参拝の証しとしてスタンプラリー的に集めるのが流行している。

スピリチュアル人気の一環とも言えるが、一過性と思われたブームもいまだ収束せずに続行中。各神社・仏閣ともどもオリジナルの御朱印帳を開発し、コレクター熱に拍車をかけているのだ。

御祭神や社殿のイラストをデザインしたものが主流の中、先ごろ注目を浴びたのが福岡県太宰府市の太宰府天満宮とセレクトショップのBEAMSがコラボした御朱印帳である。

染色家でテキスタイルデザイナーの岸本かやが手掛けた鷽(うそ)と梅をあしらったスタイリッシュなデザインの一品。日本のアイテムを取り揃えたBEAMS JAPANの登場に象徴されるように「日本文化」再評価の潮流の中で、スピリチュアルに関心のない人も、いわゆる「和モノ」への関心が高まっているように思える。

筆者が奉仕する常陸国総社宮でも御朱印帳は大人気。特に正月と9月に限定で頒布している帳面は、手塚治虫の『ジャングル大帝』と例大祭の「幌獅子(ほろじし)」がコラボしたもので、某有名ポータルサイトやテレビなどでも取り上げられたこともあり、問い合わせが絶えない

ただブームも弊害があって、御朱印帳のネットでの転売が横行し、つい最近も我が茨城県の某宮司がツイッターで苦言を呈し、3万超のリツイートで賛否両論の嵐が吹き荒れたのが記憶に新しい。

クラウドファンディングに挑戦する神職も

ところで、神職というと何歳くらいの年齢をイメージされるのであろう。定年をきちんと決めた大きな神社は別として生涯現役の場合も少なくない中にあって、私は現在38歳の中堅どころ。同年代の「友達」を見回してみて、SNSを利用している同業者の多さには目を見張るものがある。

それは地方の個人事業主が無料で広報ツールとしてSNSを活用するのと全く同じ構図であり、連日お友達神主さんの活動で私のタイムラインは彩られている。

神職個人でアカウントを持つだけでなく、神社公式のアカウントがある場合も多い。何事も検索される時代にあって、ウェブサイトを持っていない神社は存在を認知されないと言っても過言ではなく、趣向を凝らした様々なサイトが開設されている。

ウェブでの取り組みといえば、クラウドファンディングに挑戦する神職も増えている。最近では福母八幡宮(佐賀県大町町)の取り組みが記憶に新しい。例年行われている七夕祭で参道の97段もの階段に200個の灯篭でライトアップする催しを行うために、資金20万円を募った。

結果、開始からわずか9日間で目標額を達成して、最終的に目標額を大幅に超える158パーセントの出資を得た。協賛すると金額に応じて、願い事を書いた灯篭を境内に飾ってもらうことができたり、さらに記念品としてオリジナルの朱印帳をいただけたりする。



神社の行事は、氏子や崇敬者からの初穂料という形の金銭をお納めいただいて運営されるのが常道だ。氏子とは氏神に対する概念で、血縁的共同体が同一の神を祖と崇めることに端を発するが、現在はいわゆる産土神(うぶすながみ)という概念との混同が進み、特定の神社とその神様が守るエリアに住まう人々を呼ぶ名称となっている。

すなわち、インターネットの普及により、規模が大きくない神社でもその取り組みの魅力によって「ファン」を獲得できれば全国、あるいは世界から資金を得ることができる時代になったと言える。「資金」と書くと生臭く聞こえるかもしれないが、時に文化財に指定される古い建築物や大木が生い茂る境内の景観を維持するには、小銭の賽銭だけでは不可能なことは社会人なら容易に想像できるだろう。

【参考記事】沖縄の護国神社(1)

女性をターゲットとする取り組みが奏功

いわゆる神社ブームは、女性をターゲットとする神社側の取り組みが功を奏して続いているように思える部分がある。例えば都内では、飯田橋の東京大神宮が女性向け雑誌などに「縁結びの神社」として多数取り上げられ、平日から参拝客が後を絶たない。

同大神宮は大正天皇が皇室で初めて宮中賢所で婚儀を行ったことを記念して一般向けの神前結婚式を創始した神社として知られ、年間600組ものカップルが誕生する。隣接する式場・マツヤサロンでは和の風情を取り入れた披露宴を行えることで不動の人気を得ており、雑誌『日本の結婚式』でもたびたび大きく紹介されている。

東京大神宮で行われる神前結婚式の様子

また、女性に人気の神社としては山形県南陽市の熊野大社がある。同社では本殿裏に3羽のうさぎが隠し彫りされていることにちなみ、2011年から毎月1回満月の夜に「月結び」と題した縁結び祈願を行っている。

参列者には限定の「たまゆら守」なるかわいらしいお守りが授与されるほか、特製のロゼワインを御神酒としていただくことができる。西洋でロゼワインのグラスに月を映すと恋が成就するという言い伝えにちなんだものだ。行事を発案・企画した権禰宜の北野淑人さんはこう語る。

「当時から3羽のうさぎを探しにお若い世代の方がたくさん来られていましたから、せっかくの機会なので職員が神社の説明をさせていただいていました。参拝者とお話する中で印象的だったのが、多くの方がご縁を求めているけれど、なかなか巡り会えていないこと。明らかに皆さんは縁結びのご利益を求めていました。ならば皆様に満足いただけるような神事を執り行うべきだと考えたのが月結びを始めたきっかけです」

「月結び」の行事限定で授与される「たまゆら守」

月によってばらつきはあるものの、参加者は毎回150名前後。夏には200名を超えることもある。9割が女性だが最近では男女での参加も増加中。年齢は30代が多い。

「参加されて、ご縁が結ばれたご報告を数多くいただいています。最近では相手の方と月結びに参加される方が増えているように感じますし、その後当社で結婚式を執り行っていただいた方もたくさんいらっしゃいます」

統一感のあるデザインで神社をプロデュース

一方、昨年12月に「川越氷川祭の山車行事」を含む33件の「山・鉾・屋台行事」がユネスコ無形文化遺産に登録された川越氷川神社(埼玉県川越市)は、絢爛な祭礼文化を継承する一方で、デザインコンシャスな取り組みで注目を集めている。

まず当神社のウェブサイトは「赤い糸」を思わせる線文字によるかわいらしいイラストにより全ページがデザインされており、写真中心の構成が多い他の神社とは一線を画している。

また、NHKの大人気子ども番組『みいつけた!』のアートディレクションを手がける大塚いちおデザインによる絵馬は、なんとも言えない「ゆるかわ」感が大好評。他にも、併設される氷川会館の中にある「むすびcafé」は内装を家具デザイナーの小泉誠、グラフィック全般を折形デザイン研究所の山口信博が監修するなど、境内や授与品、神社のコンセプト全体が統一感のあるデザインでプロデュースされている。

そしてそれは視覚的な効果に留まらず、神道に特徴的な「むすび」の観念や「神饌(しんせん)」に見られる食物を大切にする文化などを発信する取り組みにも昇華されている点が特筆される。 

【参考記事】「あの時代」と今を繋ぐ 旧日本領の鳥居



日本各地に広がる寺子屋の神社版

神社界の中には「神道は宗教ではない」という考え方がある。神道は日本が古来奉じて来た伝統的な考え方なのであり、他の宗教とは一線を画す存在だというのが主旨である。

その是非はともかく、いわゆる「カミサマを信じなさい」的な形ではなく、日本人の生活に根ざした伝統行事を再発見・再評価することで神社への関心を高めようという取り組みも始まっており、ここで紹介しておきたい。

そのような潮流の中で最も注目すべき存在は、三社祭で有名な東京・浅草の浅草神社。同社は祭礼を大改革する一方、「社子屋(やしろこや)」と「夏詣(なつもうで)」という新たな取り組みで脚光を浴びている。その仕掛け人でもある禰宜の矢野幸士さんはこう語る。

「平成24年(2012年)から始めた社子屋はいわば寺子屋の神社版。当初は数名の参加が目標でしたが、今では常に50~60名が来られます」

そのプログラムは実に多岐にわたり、古事記の朗読や神棚の祀り方といった神道に関する勉強もあれば、茶道、投扇興(とうせんきょう)や勾玉(まがたま)製作といった体験もの、僧侶を招いた座禅講座まである。

浅草神社で行われる「社子屋」の様子

「神社を定期的に人が寄り合うコミュニティの場にすると共に、我が国や浅草の伝統文化を浅くとも広く継承する場にしたいと考えました。参加者の世代間交流を図る事もひとつの目的としています」

この取り組みは東京都目黒区の上目黒氷川神社では「社子屋」、大阪府藤井寺市の道明寺天満宮では「宮子屋(みやこや)」、北海道帯広市の帯広神社では「杜小舎(もりこや)」と、時に名前を変えて波及している。

新しい風習=「夏版の初詣」を作る

一方の「夏詣」はさらに革新的な取り組みだ。

「初詣、祭礼など日本人の多くが神社と関わる機会は年に2~3回ですが、そこにもう1回を加えることを大きな目的としました。年末年始には、12月31日の年越の大祓で心身を清め、新年を迎えて初詣でお参りします。同じように、6月30日の夏越の大祓で半年の罪穢れを祓いますので、その翌日、残り半年の始まりの日も神社・仏閣をお詣りお参りする機会を作ります。いわば夏版の初詣です」

つまり「新しい日本の風習」を作ってしまおう、というのである。

「夏の時期、当社は閑散期を迎えます。この時期にも参拝者を増やせないかと思案していて、当初は境内で流しそうめん大会を企画していました。その中で、日本や浅草の夏の風習や習慣を掘り起こしていくと、今に伝えていかなければならないことが多くあり、それらを踏まえた取り組みの必要性を感じたのです。併せて、7月1日は富士山を始めとする山岳信仰の山開きの日でもあり、また7日後は同じく古くから親しまれている七夕です。この期間に神社・仏閣に詣でることの大切さを伝えていきたいと考えました」

初めての実施は2014年の夏。以来、多くの協賛者や協力団体を加え、浅草神社の他にも「夏詣」を実施する社寺が50を超えた。

内容はいわゆる夏の縁日的な出店に加え、各種ライブコンサートやうなぎ奉納祭、玉砂利の参道をライトアップした天の川プロジェクトなど「夏」をキーワードにした伝統文化を現代的に解釈した催しで目白押しだ。矢野さんはこう続ける。

「神社は、地域のコミュニティの場です。昔は地域の祭礼のために人が集い、情報を交換し共有しました。だからこそ"社会"は"社で会う"という意味も含んでいるのではないでしょうか。神社がそうした機能を持つためには、より多くの人が集う仕組みを地域と連携して作り上げることが肝要だと思います」

神社の新潮流はまだまだ始まったばかりである。

【参考記事】夏場は6時間待ちも! 日本で今「かき氷」がブームの理由




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