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瀧内公美「悩んだり、考えたりするなかで、自分がちゃんと呼吸をしていると、人は再確認できる」

7/6(木) 18:00配信

ダ・ヴィンチニュース

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『彼女の人生は間違いじゃない』で、東日本大震災から5年後の福島で生きる主人公を演じた瀧内公美さん。帰る場所はなく、未来も見えない、突き動かされるように選んだ東京でのデリヘルという仕事――そんなひとりの女性を演じ切った、今の心境とは?

“どうしても描きたかった”――映画『彼女の人生は間違いじゃない』は、福島出身である廣木隆一監督が、衝動に突き動かされるように自ら小説を書き、それをもとに映像化した作品だ。
「撮影中、監督がおっしゃっていたんです。“それ(芝居)、いらないよ、いらないよ”って。その言葉で自分のなかのいろんなものが削ぎ落とされていきました。セリフが少ない分、私は演技という行動で補おうとしていたんです」
“ありのままでいいんじゃないの?”という監督のその言葉に、はじめは戸惑ったという。
「ありのままでいるって、すごく恥ずかしいんです。全部を見られるみたいで。でも、“そのままでいい”ということを言ってくださる方に出会えたことは、すごく幸せなことで」
 震災で母を亡くし、父親と二人で仮設住宅に暮らす、瀧内さん演じるみゆきは、週末になると、高速バスで福島から東京へ向かい、デリヘルのアルバイトをしている。“女優にとってハードルの高い役どころなので、趣旨を理解してもらうために”、と、キャスティングはオーディションで決められた。
「合格したときは本当にうれしかったのですが、いざ演じるとなったら、もう不安しかなくて。自分が福島の人間ではないこと、デリヘルを経験していないこと、母を亡くしてないこと、すべてが未経験のことばかりだったので。けれど、わからないからといって雰囲気で演じてしまったら雰囲気しか出ない。“みゆきはこういう人で、こんなことを感じている”という確証を、どうやってつかめばいいのか、とずっと考え続けていました」
 監督や廣木組スタッフのアドバイスを受け、役作りにあたっては、積極的に取材に出かけていったという。
「福島の方々、そしてデリヘル嬢の方のもとにも行って、お話しをさせていただきました。デリヘルという仕事は、簡単には想像できないものだったんですが、何人かのお話を聞いているうちに見えてきたんです。身体と心をさらけ出すようなこの仕事に就いたのには、きちんとした理由、そして選ばざるを得なかった瞬間があるということが――。
 みゆきのアルバイト先の事務所には、デリヘル嬢の送迎をしたり、客とのトラブルを解決したりする、三浦(高良健吾)という男がいる。彼との何気ないやりとりは、みゆきの心が温まる瞬間でもある。
「“ダメなところも、いいところも生きてる感じがするんだよな”という三浦のセリフがすごく刺さって。悩んだり、考えたりするなかで、自分がちゃんと呼吸をしていると、人は再確認できる――私自身もそのことに気付かされた。高良さんとご一緒したシーンはすごく不思議な感覚でした。思いを届けてくれるやさしさの温度とか、流れる空気感とか。それはまさに、この作品のリズムそのものだなと」
 これまでも東日本大震災や被災地、そこに生きる人々をテーマにした作品が幾つも生み出されてきた。そのなかにあって、本作は“今、この時代の映画”であると瀧内さんは言う。
「丘の上に立つシーンがあるのですが、そこから見えるのは除染廃棄物を詰めた黒い袋が整然と積まれる、きれいにならされた土地。そこは、かつて住宅地だったそうなんです。“復興してますよ”といわれてはいるけれど、人の生きている匂いがそこにはあるのか、それは本当に復興なのかという思いが込み上げてきました。本作には、震災から5年を経た福島の記憶、記録みたいなものが詰まっている。今もこういう思いを抱えて生きていますという人々の気持ちも。2020年には東京オリンピックもありますし、時代はどんどん変わって、いろんなことが忘れられていく。そんななか、この映画は、その思いを“とってある”ものだと思います。見えない未来へ向け、踏み出していこうとする人々の“今”の強さも」
(取材・文=河村道子 写真=下林彩子)

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