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馬場さんが指摘した「エースのダメなところ」――フミ斎藤のプロレス読本#039【全日本ガイジン編エピソード8】

7/6(木) 8:50配信

週刊SPA!

 199X年

 ジャイアント馬場さんからそういわれてしまったら、もう引導を渡されたと同じなのである。

「ジョニー・エースのダメなところはこういうところなんですよ」

 日曜の夜中に家でごろごろしながらテレビでプロレス中継をみ観ていたら、ゲスト解説者の馬場さんの厳しいコメントが耳に突き刺さってきた。

 テレビの画面はスタン・ハンセン&ジョニー・エース対テリー・ゴーディ&スティーブ・ウィリアムスのタッグマッチを映し出していた。

 ほんとうにエースはへろへろだった。よほど体調が悪かったのか、それともはじめからスタミナに問題があるのか、立っているのがやっとというような顔つきでリングのなかをうろうろするばかりだった。

 それでもとりあえず形だけは技らしきものを出そうと必死で試みるけれど、トライすればするほどよけい中途半端な格好になってしまう。

 全日本プロレスにリングに定着して以来、内容的には最低の試合だったのではないだろうか。とにかくデキが悪すぎた。ぼくだけじゃない。みんながそう感じていた。

 週刊プロレスの全日本プロレス担当の市瀬英俊記者も「あの日のエースはひどかった」といっていたし、同じ時間帯にテレビを観ていたぼくも友人も「エース、どうしちゃったの?」と話していた。

 結論から先にいってしまえば、エースの悩みとは、プロレスがむずかしくてむずかしくてしようがないということである。自分のレスリングとはどんなものなのか。ジョニー・エースとはどうあるべきなのか。なにをどうしたらいいのか、わからなくなっていた。

 試合に関しては、タッグパートナーでありコーチ役でもあるハンセンのアドバイスをしっかり聞いておけばいい。じっさいのタッグマッチのシチュエーションではいわれたとおりに動くしかないし、そうしないとハンセンに迷惑をかけることになる。

 試合以外のことになるともっと困ってしまう。どんな色のタイツとシューズを選べばいちばんジョニー・エースらしいのかがなかなかわからない。あごヒゲもじつはハンセンの命令ではやした。

 エースがプロレスラーとしてのキャラクターづくりで頭を痛めているのは、彼自身がかなりオトナになってからプロレスラーになることを決心したことと関係がある。

 子どものころからひとりのファンとしてプロレスと接していたのであれば、こんなレスラーをめざしたいという具体的なイメージがあるはずだが、就職先としてプロレスを選択したエースにはそれがない。

 どちらかといえば、兄アニマルになかば無理やりプロレスラーにされてしまった。全日本プロレスでのエースの試合を目にしているとついつい忘れがちだが、あのアニマル・ウォリアーとエースはじつの兄弟で、いまでもふたりは毎日のように電話で連絡をとっている。もちろん、会話の主導権を握っているのは兄アニマルだ。

 アニマルは、大学を卒業してコンピューター関連の会社でオペレーターとして働いていたエースをプロレスの世界にひっぱり込んだ。アニマルの弟ジョニーは、あしたからでもリングに上がれるような立派な体格をしていた。

 アニマルが弟に伝えたかったのは、そんな体とそんなルックスでふつうの仕事をやってフツーに暮らしていてもつまらないぞ、ということだった。

 そして、ある日、プロレスラーになったエースは、ビジュアル面でもフィジカル面でも将来性は十分との評価をもらい、全日本プロレスの契約選手となった。しばらくすると、馬場さんからハンセンのタッグパートナーに抜てきされた。ふつうの外国人レスラーだったら、ここまで来るのに10年以上はかかってしまう。

 それなりに才能があって、周囲もその成長を楽しみにしているにもかかわらず、本人の意識だけが足踏みをくり返していた。

 馬場さんが口にした「ダメなところ」はエースの耳には届いていない。エースはエースで、プロレスのなんたるかといういちばん基本のところででゆっくりと、のんびりと悩んでるのである。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:7/6(木) 8:50
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