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特撮映画への“愛“をVFXに活かす。映画『怪物はささやく』にみる、J.A.バヨナ監督の演出術

7/7(金) 16:41配信

CGWORLD.jp

映画『怪物はささやく』が上映中である。スペインのアカデミー賞に該当する第31回(2017年度)「ゴヤ賞」で9部門にノミネート、監督を務めたJ.A.バヨナは監督賞を受賞したほか、2016年のスペイン年鑑映画興収No.1を達成した。世界的なベストセラー小説を映画化した本作、ストーリーテリングを成り立たせる上では、3DCGアニメーションとVFXが実に効果的に用いられている。今回、特別にバヨナ監督へのインタビューが実現したので、ここにお届けしよう。

<1>ドローイングと特撮がもたらす映画のマジックをVFXに込める

イギリスの田舎町で暮らす13歳の少年コナー(ルイス・マクドゥーガル)は、窮地に追い込まれた生活を送っていた。彼の母親(フェリシティ・ジョーンズ)は難病(具体的には語られないが、おそらく末期ガン)に苦しんでおり、離婚した父親はアメリカで別の家庭を築いている。祖母(シガニー・ウィーバー)とは反りが合わず、どうしても好きになれない。さらに学校では日々いじめに会っていた。そんなコナーの部屋に、夜ごと12時7分になると巨木の怪物が現われては、「3つの物語を聞かせるから、4つ目はお前が真実を語れ」と迫ってくる。

47歳の若さで亡くなった、英国の作家シヴォーン・ダウトが残した草稿をベースに、米国出身のパトリック・ネスが完成させたヤングアダルト向け小説『怪物はささやく』を映画化した作品だ。原作は、日本でも第58回(2012年度)「青少年読書感想文全国コンクール」中学校の部の課題図書に選出されており、実際に読まれた方も多いだろう。ネスは今回、製作総指揮と脚本も担当している。
過酷な状況に置かれた子供が、現実から逃避するため空想世界に救いを求めるという内容は、ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2006)や、ロシア映画の『オーガストウォーズ』(2012)なども連想させる。だが本作は単純な空想だけでなく、時々爆発的な破壊行動を見せるコナーの、内面に棲む“怪物“を表現するという深みも併せもっている。原作との大きな相違点は、コナーに唯一理解を示し、お節介を焼く、幼馴染みのリリーの存在がなくなっていることだ。これによってコナーの孤独感が、より一層強調されることになった。

監督を務めたJ.A.バヨナ(Juan Antonio Bayona)は、スペインを拠点として活動しており、デル・トロが製作総指揮を務めた『永遠のこどもたち』(2007)で、長編映画の監督を経験した。その時、『パンズ・ラビリンス』の製作総指揮だったプロデューサーのベレン・アティエンサに才能を見出され、以降『インポッシブル』(2012)に続き、本作でもタッグを組んでいる。本作では、母親は画家志望だったという設定が加えられ、その影響でコナーはいつもスケッチブックにモンスターやクリーチャーの絵を描いている。この理由について、バヨナ監督に聞いてみた。

J.A.バヨナ監督(以下、バヨナ):原作では、主人公の少年は絵を描かないんだ。絵を描くというアイデアを脚本に加えたのは僕なんだよ。僕の父は画家で、その影響で子供の頃から絵を描くのが好きでね、これまで絵を描くことから様々なインスピレーションをもらってきたよ。母親がコナーに絵を教えるときのセリフは、父が僕に教えてくれた時の言葉なんだ。

またおそらくバヨナ監督は、若い頃から特撮映画を自主制作しているような人物であったことが、作品から滲み出てくる。実際に本作においても、母親が1933年版『キング・コング』のファンという(猿映画研究家である筆者好みの)濃~い設定も加えられ、コナーが8mmフィルムを鑑賞するシーンが登場する。また室内のインテリアとして、プラキシノスコープなどの視覚玩具が散りばめられており、素朴なトリック映画の時代への愛を感じ、実際に監督に確認してみた。

バヨナ:僕は古い映画が大好きなんだ。実在する物を用いると、CGでは出すことができないリアリティを出せる。実際に僕たちは、オリジナルの『キング・コング』から多大なインスピレーションを受けているよ。

この「実在する物を用いると、CGでは出すことができないリアリティを出せる」という発想は、ミニチュアや水落しなど伝統的な特撮技術と、CGを上手くブレンドさせて非常に迫力ある津波シーンを出現させた『インポッシブル』でも感じられる。この映画は、スマトラ島沖地震による大津波を題材としていたのだが、同じ津波が登場するクリント・イーストウッド監督『ヒア アフター』(2010)よりもリアリティを覚えたのだ。
なぜなら『ヒア アフター』の津波は、Scanline VFXが高精度の流体シミュレーションを提供していたが、襲って来る海水が遊園地のプールのように透き通っており、いかにも“頭で考えました“というような印象だったのだ。一方で『インポッシブル』では、巨大なウォータータンクで人工の濁流を発生させ、そこに俳優たちを実際に流すという、かなり危険な撮影を試みている。当然、水は濁り、様々な浮遊物も流れてくる。こういった計算外の要素が、映像に恐ろしいほどの現実感をもたらした。

バヨナ:『インポッシブル』と『怪物はささやく』では、両作共VFXスーパーバイザーのフェリックス・ベルヘスと仕事ができてとても幸運だったよ。彼は常に、最もリアルに見せる方法を探求していて、『インポッシブル』ではリアルなビジュアルに仕上げるために、あえて流体シミュレーションは使用しないようにしたんだ。

本作の一方の主役とも言える“怪物“は、主人公の自宅近くに生えている、イチイの樹の精という設定である。そのデザインは、原作本に使用されたジム・ケイによるモノクロのイラストから発想された。ケイのイラストは、水彩の吹き流し(ドリッピング)技法を多用して、樹木の枝のような表現を行っており、この仕事に対し英国で出版された絵本の中で最も優れた画家に贈られる「ケイト・グリーナウェイ賞」を受賞している。

ーー今回もCGだけではなく、アニマトロニクスと上手くブレンドすることで、変化のある画面を実現されていると思います。そういった手法の使い分けというのは、やはり意識されたのでしょうか?

バヨナ:『怪物はささやく』こそ、アニマトロニクスを使用するべきだと判断したんだ。最近は観客がCGに慣れてきているから、アニマトロニクスを使うのは難しくなっているね。でも、アニマトロニクスとCGを組み合わせるというアイデアは、素晴らしいと思うんだよ。複数の手法を組み合わせることが、よりリアルなビジュアルを創り出すカギだと思うんだ。

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最終更新:7/7(金) 16:41
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