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「ブッフォンの育ての親」が分析する現代GK像とドンナルンマの未来

7/7(金) 11:31配信

footballista

「ボールをアタックする」という新しいコンセプトを掲げてブッフォンをワールドクラスのGKへと育て上げたフルゴーニ。セリエAを渡り歩いた名伯楽の目に“後継者”はどう映っているのか? 現代GKのトレンドを解説しつつ、ドンナルンマの未来を占う。


インタビュー・文 片野道郎


新トレンドへの疑問
スペースと時間がない状況で足でのプレーを要求するのは戦術自体が間違っている


──イタリア代表でポジションを争うブッフォンとドンナルンマは21歳の年齢差があります。この20年で、サッカーの戦術におけるGKというポジションに求められるクオリティや資質にはどんな変化があったのでしょうか?

「本質的なところでは何も変わっていないと言っていい。というよりも、変化をもたらしたのはブッフォンであり、彼以降はそれがスタンダードになっていったからだ。私が彼を育てる時に伝えた『ボールをアタックする』というコンセプトは、当時はほとんど誰にも理解されなかった。実際ブッフォン自身があるインタビューの中で、はっきりとこう言っている。『今ではどんなGKも当たり前のように教えられているけれど、自分が教わった時には本当に革新的な考え方だった、あれが今の自分を作っている』とね」


──そのインタビューは僕も手元に持っています。GKはそれまでシュートを待ってそれに反応するだけ、自分の身に起こったことを受動的に「被る」だけだった、主体的、能動的にボールやスペースをアタックするという考え方は革新的で新しかったし、当時その考え方を取り入れることは非常に勇気のいることだった、という話ですよね。

「ボールをアタックするというのは、飛んできたボールに反応して横に飛ぶのではなく、こちらから斜め前方にアタックしに行くということだ。シュートが非常に速くて反応するのが精一杯という場合には、横方向どころか斜め後ろ方向に飛ばないと届かないかもしれない。しかしほとんどのシュートはこちらが反応するのに十分な時間を与えてくれる。その場合はその場ではなく2m前に出てキャッチすることもできる。GKがボールをキャッチすればそこでプレーは切れる。もし2m前でキャッチすれば、その2m分のリスクを最初から回避することができるんだ。こちらからアタックすることができないほど速いボールは、横に飛んでデフレクトするだけで精一杯だし、もし届けばそれだけで上出来だ。しかし速くないボールには積極的にアタックするべきだ」


──体格を含めたフィジカル能力、チーム戦術の中で担う機能とそのために求められるクオリティといった観点から見るとどうでしょうか? 20年前、GKの標準的な身長は180cm台後半でしたが、今は190cmないと小柄だと言われるようになりました。

「2mを超えるとさすがにクイックな動きが苦しくなるね。手足の長さや重さ、それを支える筋肉、求められる動きの軌道、歩幅と足運びのスピードといったいろいろな要素のバランスが取れなくなってしまうんだろう。私もパルマで203cmのGKを見ていたのだが、やはりほんの少しずつ、コンマいくつか遅い感じがあった。最近はコーディネーショントレーニングが発達してきて、その点もかなりのレベルまで高めることができるようになってきたから以前ほどではないのだけれど、不思議なことに大柄なGKはハイボールに強くないケースが多いんだ。小柄なGKが否応なく身につけざるを得ない勇気や思い切りの良さ、大胆さを持っていないからかもしれない。結果的に、大柄なGKにはゴールからあまり出ず受動的に守るタイプが多くなる。そういう意味で、ハイボールへの飛び出しやクイックネス、アジリティといった側面も含めて、全体的なバランスが取れているGKとなると、195-6cmが一つの上限のような気がするね」


──ドンナルンマは197cmあります。彼はハイボールの飛び出しにも積極的ですし、体格の割にはクイックネスもアジリティも高い。あれだけの体格だとゴールの枠をカバーする存在感も抜群です。

「もちろん、一定のスピード、クイックネス、アジリティ、反応性が確保されているのであれば、体格は大きいに越したことはない。195-6cmが上限というのはその話なのだけれど、ドンナルンマはしっかりそのこちら側に収まっている。いいGKは攻撃側から見るとゴールの枠を『満たしている』『塞いでいる』ように見えるものだ。その点でドンナルンマは申し分ないよ。ただ、技術/戦術的な側面から見ると、まだまだ未完成だし修正して伸ばすべきところが多い。現時点では体格を含めたフィジカル能力の高さ、そして強いパーソナリティをはじめとする傑出したメンタル能力がそのパフォーマンスを支えている」


──フィジカル能力ということで言うと、ゴールエリア内のセービングではなく、DFラインの背後に入ってきたボールに対応するための飛び出しには、ステップワークや2、3歩のクイックネスだけでなく純粋なスピードも必要とされるように思うのですが。

「もちろん速いに越したことはない。だが結局は読みも含めた初動の速さ、スペースと時間のマネージメント能力の問題だ。もしチームが最終ラインを常に高く押し上げて戦う戦術を採用している場合には、初動が早く足も速いGKの存在は非常に重要だ。バイエルンはエリア外への飛び出しに関しては世界一のエキスパートであるノイアーがいるから、不安なくラインを上げられる。グアルディオラが監督の頃は本当にかつてのリベロのように機能していた。ドイツ代表でもね。ブッフォンも少なくとも30歳くらいまでは十分にエリアの外に飛び出していける能力があったよ。私が教えていたプリマベーラの頃には当たり前のようにそうしていたしね。ドンナルンマもおそらく高い最終ラインにもある程度対応できると思う。体格の割にスピードもクイックネスもあるからね。

 ただし、最終ラインを高く押し上げて、その背後をGKに任せるのはほとんどのチームにとってはアドバンテージよりもリスクの方が大きい。不用意なパスミスやトラップミス一つでボールを失っただけで、大きな失点の危機に繋がる可能性があるんだから。最近の戦術トレンドということで言うと、それと同じくらい馬鹿げていると思うのが、相手が前線からハイプレスに来ているにもかかわらず、GKも加えて最終ラインからパスを繋いで組み立てようとする傾向だ。ミハイロビッチもモンテッラもそれにこだわって、ドンナルンマを困難な状況に陥れている」


──ドンナルンマだけじゃなくCBもそうですよね。GKからパスをもらってもプレッシャーがかかっているからGKに戻すしか選択肢がないこともよくあります。

「敵がペナルティエリアの高さまでハイプレスに出て来ている場合、無理をして後ろから繋ぐことに意味はない。ロングボールを蹴ってチームを押し上げれば済む話だ。たとえGKがいかに足下のテクニックに優れていたとしても、パスの出しどころすべてにプレッシャーがかかっていればそこにはリスクしかない。皮肉な話だが、ドンナルンマがデビューするきっかけになったのも、こうした状況でディエゴ・ロペスが犯したミスだった。ドンナルンマのクオリティと将来性に疑問の余地はないが、D.ロペスにとっては理不尽な状況だったと思う」


──いずれにしても、ビルドアップにGKが関与する頻度が高まっていることは確かです。だとするとGKに足下のテクニック、つまりボールを止める技術、左右両足の正確なパスワーク、そしてとりわけロングキックの精度がより高いレベルで求められます。

「もちろんだ。それは私がブッフォンを教えていた当時から常に強調してきたことでもある。特にロングキックの精度だ。サッカーの本質はどこにあるか。それはゴールを決めることだ。その究極はパス1本、シュート、ゴールと最短距離でフィニッシュすることにある。シュートを打つまでにパスを10本繋がなければならないとルールブックに書いてあるわけではないのだからね。私はかつて、まだブッフォンがデビューする前のパルマで、GKのタファレルが敵のペナルティエリアに届こうかというロングキックを蹴り出し、最終ラインの裏に抜け出してDFをぶっちぎったアスプリージャがそれをボレーでそのままゴールに叩き込んだ場面を見たことがある。私にとってはあれが究極のゴール、サッカーの本質だね。パスは目的ではなく単なる手段に過ぎないのだから。

 パスワークへの参加に関しては、GKのテクニックがどんなに優れていたとしても、シーズン50試合を通してハイプレスを受けてボールを失う場面が一度もないということはあり得ない。テア・シュテーゲンだって1度や2度はミスをするだろう。世界で最もボールを奪われにくいMFだったピルロですらシーズンに何度かはパスミスをしていたんだから。問題は、GKの場合そこでボールを奪われたら失点に直結するということだ。だからGKがオープンプレーに関わるのはスペースと時間がある時だけ、というのが大原則だと思う。スペースと時間がない状況でGKに足でのプレーを要求するのは、戦術自体が間違っている。結局得られるものよりも失うものの方が大きいから、今の流行も遠からず廃れると思うね」

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最終更新:7/7(金) 11:31
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