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米国のイラン不信の根深さ

7/7(金) 12:11配信

Wedge

 5月30日付のProject Syndicateのサイトで、元米国務次官補のクリストファー・ヒルが、米国のイラン不信の根深さを指摘しつつ、イラン国民はロウハニ大統領の改革を支持していくべきだと述べています。主要点は次の通りです。

 トランプのサウジ訪問を通じてトランプの外交政策の方向性が見えてきた。トランプ政権は民主主義について説教することはせず、人権は重視しない考えである。トランプ政権にとって経済相手となる国が人権を守っているかどうかは無関係なことのようだ。

 ニュースになったことはトランプがスンニ・アラブ諸国との全面的な協力を打ち出したことである。リヤドでの演説でトランプはイランを厳しく非難した。イランが中東のすべての問題の根源であると考えるスンニの指導者達は演説を歓迎した。

 トランプはイスラエルでもイランへの警告を続けた。トランプはイスラエルとスンニ・アラブはイランとの道徳的対決の同盟者であり、パレスチナ問題などで対立するよりも団結すべきだと考えている。

 イランは改革派のロウハニを大統領に選んだ。強硬派、反西欧のライシが選出されていたならば、イラン核合意の行方が問題になったであろう。75%強の投票率はイラン国民が核合意を支持していることを示している。制裁解除の利益が未だ現実のものとなっていない等の問題はあるが、国民は引き続きロウハニを信頼している。改革が進むかどうかはイランの国民次第だが、スンニ・アラブや米国は懐疑的だ。

 1979年に米国大使館を占拠し米国外交官を444日間人質に取った事件について、イランは一切謝罪していない。米国はこれを決して許していない。また2003年のイラク戦争の後、シーア勢力はイランからの財政、軍事上の支援を得て米軍への攻撃を続けた。イラン革命防衛隊の特殊部隊は宗教指導者の指示の下にイラクの民兵を支援した。イランはイラクでの米軍攻撃につき関与を認めていない。マティスなど米軍指導者のイラン観はこの時代の経験に基づいている。

 アフマディネジャド前大統領はイスラエルの生存権を認めないばかりか、ホロコーストは嘘だったと公言していた。イランは最近ではシリアのアサドを支え続け、レバノンのヒズボラを支援している。

 トランプ政権は、結局イランとの核合意は直ぐには変えられないとの結論に達した。しかし米議会はイランのシリアやヒズボラ支援を罰するために追加制裁を検討している。多くの米政策決定者は人質問題やシリアへの関与などの苦い経験を許さず、忘れてもいない。

 イランの将来を決めるのはイラン国民だ。今後はロウハニの改革を支持していくべきだ。改革が維持され、核合意を強硬派から守ることができれば、イランは国際社会の通常のメンバーになることができるだろう。

出 典:Christopher R. Hill ‘A Turning Point for Iran?’ (Project Syndicate, May 30, 2017)

 ロウハニ再選はひとまず良いことでした。しかしイランは宗教統治の国であり、民主主義は抑圧されていますし、強硬派は制度上の力も握っています。強硬派の動きは引き続き注視する必要があります。更に、最高指導者ハメネイの後継者問題も段々世界の関心事項となっています。大統領選挙に出たライシも有力候補と言われています。

 核合意はトランプ大統領も破棄はできないでしょう。マティス国防長官は署名した以上維持すべきとの立場をとっています。実際にこれを破棄すればサウジなどにとっても良いことにはなりません。しかしトランプは、イランに違反があれば厳しく対処していくでしょう。また核搭載可能ミサイルの実験のようにグレーの問題についても必要に応じ対応措置を取ることが相当です。

 イラン外交の二つの根本的な問題は、イスラエルの生存権を否認していることとヒズボラ等海外勢力を支援していることです。長年日本などもイランに言ってきたことですが一向に変わりません。イランはイスラエルの生存権を認めるべきですし、ヒズボラなどの支援も規制すべきです。

 民主化についてトランプ政権は圧力をかけることはしない考えのようですが、中東諸国は自ら民主化を推進していくことが望まれます。実際には少しずつ民主化が進んでいます。特に王制国家にとっては長期的に極めて重要な問題です。例えば徐々に立憲君主制に移行していくことが望ましいのではないでしょうか。

 トランプは中東和平をやって見せると自信満々ですが、旨く進むかは疑問です。具体的な案も明らかにしていませんし、唯一の可能性と思われる二国家解決案についても態度を曖昧にしたままです。

 トランプは先の中東訪問でイスラム過激派撲滅に向けてアラブ諸国の団結を訴えたばかりですが、6月5日にサウジなど4カ国がカタールと断交しました。カタールのムスリム同胞団支援、同国のアルジャジーラ放送、イランとの近い関係等が理由と言われていますが、近年ひどく積極的な外交路線を取るカタールとの関係は従来から緊張していました。カタールには米中央軍の地域司令部もあり、今回の出来事はトランプ政権の中東政策にとって早速厄介な問題になる可能性があります。

岡崎研究所

最終更新:7/7(金) 12:11
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