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現代音楽とポップスを融合させた「ブクガ」 最新曲の深遠な美意識と世界観。

7/7(金) 17:00配信

otoCoto

“大衆化”への逆張りで抗うブクガの真骨頂「rooms」

興味深いのは、そこに二重三重に張り巡らされている、ある種の“矛盾”である。こうしたトリッキーなリズムの上で鳴っているメロディは、メジャーデビュー・シングル「cloudy irony」にも通じるような“メジャー感”溢れる爽やかなものだ。一方、その歌詞といえば、爽快なメロディに反して不穏な空気が漂うものとなっている。

続くBメロは4拍子という“分かりやすい”ものに。だが、メロディはマイナーとなり、どこか不安感が募ってくる。そんな空気の中にあるためか、4拍子であっても、Aメロのように「1拍加わるのではないか」という警戒心が聴き手に芽生え、ここでもその心に安定はもたらされない。

そして驚くべきはサビだ。ここもリズムは4拍子でメロディーはメジャーなのだが、4小節目と8小節目にまるまる1小節分ブレイクが入るのだ。しかも、息を吸い込む音をアウフタクトのように使用しているのが印象的だ。さらに、2コーラス目の最後では、完全な無音状態のブレイクが挿入される。サビでのブレイクは、まさに“ブレイク”といった感じで、単に「楽器が鳴っていない」「休符を奏でている」といったところだが、この“無音状態”は完全に曲が停止している印象である。これには、聴き手に大きなインパクト、あるいは違和感をもたらす効果がある。


そして、この曲のMVがさらに示唆的である。サビのブレイクの終わりに“息継ぎの音”が入る場面で唇が大写しにされるところなども印象深いが、部屋の中で映像が早回しされる場面や、トンネルの中を疾走する(そして、しばしば逆回しになる)シーン、さらにはメンバー4人の残像を残すことで“分身”しているかのように錯覚させるところなどを見るにつけ、否が応でも「時の流れ」というものを意識させられる。

そして、曲自体にブレイクや無音状態があることも考え併せると、彼女たちは何やら「時の流れ」というものに抗おうとしているかのようだ。歌詞では「何も変わらない」「何も無くなる」「気づかないうちに消した」といった虚無的な表現が並ぶ。だが、そうした言葉を下支えするビートは、それに反して歯切れよく且つ力強い。あたかも「時は流れる」という永遠不変の真理に対してさえも揺さぶりをかけんとしているかのようだ。

さらなる驚きは、こうした二重三重のパラドックスが仕掛けられながらも、それが紛うことなき“ポップソング”として成立していることである。まさしくそれは作詞作曲編曲を手掛けたサクライケンタの手腕によるものであろう。そして、こういう物言い自体がこれまた逆説的ではあるのだが、そんなポップソングが多くの示唆的な矛盾を孕んでいるがゆえに、そこにある種の“アート作品の凄み”のようなものが感じられるのも事実だ。

変拍子の多用、難解な詞、示唆的な映像、そして貫かれる深遠な美意識と世界観。“大衆化”への逆張りをし、マーケティング的発想に抗おうとするかのようなこれらの表現こそがブクガの真骨頂であろう。そういう意味では、「時の流れに抗おう」とする「rooms」という曲は、まさにブクガを象徴する曲なのかもしれない。

石川真男

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最終更新:7/7(金) 17:00
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