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中国、最新鋭の大型ロケット「長征五号」の打ち上げに失敗。今後の宇宙計画への影響は?

7/7(金) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 中華人民共和国(中国)は7月2日夜、中国南部の海南島にある文昌宇宙センターから、最新鋭ロケット「長征五号」を打ち上げた。しかしその約1時間、国営の新華社通信などは、飛行中にトラブルが起きたとし、打ち上げは失敗したと報じた。

 長征五号は昨年11月に1号機が打ち上げられたばかりで、今回が2機目の打ち上げだった。ロケットは太平洋に落下したとみられ、またロケットに搭載されていた、先進的な技術を採用した人工衛星の試験機「実践十八号」も失われた。

 今回は、長征五号や実践十八号の特徴と、今回の失敗による、今後の中国の宇宙開発への影響について解説したい。

◆中国最大・最新鋭のロケット「長征五号」

 長征五号は昨年11月に初めて打ち上げられた最新鋭のロケットで、中国が運用するロケットの中で最大、世界でも2番目に強力な打ち上げ能力をもつ。その能力をいかして、大型の人工衛星や、月・惑星探査機、さらには宇宙ステーションといった、大きく重い積み荷を打ち上げることを目的としている。

 中国は1970年代から宇宙開発を続けてきているが、現在主力となっているロケットは、その当時に開発されたものを、機体やエンジンを改良して使い続けている。そのため信頼性は比較的高いものの、これ以上の抜本的な改良はできず、打ち上げ能力をさらに高めたり、コストダウンをしたりといったことが難しくなった。

 おりしも、中国のみならず世界中な傾向として、人工衛星は大きく重くなり、さらにロケットのコストダウンも求められるようになった。それに対応できる新世代のロケットとして新たに開発されたのが、今回失敗した長征五号を含む、新型長征ロケットである。

 新型長征ロケットは、長征五号の他に、長征六号と七号の大きく3種類がある。このうち長征五号は特大の人工衛星や月・惑星探査機、宇宙ステーションといった大きくて重い積み荷の打ち上げに、長征六号は小型衛星に、そして長征七号は、中型~大型の人工衛星や有人宇宙船などを打ち上げる主力ロケットとして使われる。

 またこの長征五号、六号、七号は、機体の形も大きさも異なるものの、使っているエンジンやタンクなどの一部を共有しており、大量生産による低コスト化や信頼性の向上などが図られている。

 長征五号は2016年11月に初の打ち上げを行い、成功。今回が2号機にして、初めての失敗となった。ちなみに長征六号は2015年に1機、長征七号は2016年と今年に1機ずつ打ち上げられて成功しており、今回の失敗は、これら次世代の長征ロケットの中で初の失敗でもあった。

 7月3日現在、失敗の詳しい状況や原因などは明らかにされていない。ただ、長征五号のために開発された、新型のエンジンに異常が起きたようだ、という情報が流れている。

◆デビューおあずけとなった次世代の人工衛星

 今回の打ち上げ失敗により、ロケットに搭載されていた人工衛星「実践十八号」も失われることになった。

 実践十八号は、次世代の通信衛星などに使うための、新しい技術の試験を行うことを目的に開発された。最大の特長は、「東方紅五号」という新開発の”衛星バス”を使って開発されたことにある。

 衛星バスというのは、太陽電池やエンジンなどの基本的な機能が組み込まれた、衛星を形づくる筐体のようなもののことで、あらかじめ量産できるようにしておき、そこへ目的に応じて必要となる通信装置や観測装置などを載せて、ひとつの衛星を造る。これにより、部品や製造工程をある程度共通化できるので、製造の効率化による納期の短縮や低コスト化が図れる。こうした衛星バス、あるいは共通バスと呼ばれるものは、中国はもちろん、すでに世界中の衛星メーカーが採用している。

 この東方紅五号は、衛星バスとしては世界最大で、最大9トンの衛星まで造ることができる。今回の実践十八号も約8トンと、きわめて大きい。東方紅五号のような、静止軌道と呼ばれる軌道へ打ち上げられる静止衛星は、軍事衛星などの特殊な例を除けば7トンほどが世界最大級と呼ばれており、実践十八号の8トンは世界で最も重い。衛星が大きければその分、通信や観測に使う装置をたくさん積むことができ、たとえばこれまで2機の衛星が必要だったことが、1機の衛星で可能になる。

 また実践十八号には、機密性の高い量子通信の実験装置や、大容量の通信ができる装置、また燃費がよく衛星の運用期間を伸ばせる電気推進エンジンといった、さまざまな新しい装置も搭載されており、宇宙で試験が行われる予定だった。このうち電気推進エンジンや大容量の通信装置は、程度の差はあれど他国の衛星でも数多く採用されており、さして珍しいものではないが、衛星による量子通信を実用化しているのは今のところ中国だけである。

 こうした、世界最大かつ、世界最先端の技術を載せていた実践十八号だが、長征五号の打ち上げ失敗により、すべて失われることになった。ただもちろん、開発や製造の技術まで失われたわけではないため、依然として中国がこれらの分野において、世界でもトップレベルの技術をもち続けていることには変わりはない。

◆今回の失敗による、今後の中国の宇宙開発への影響は

 今回の打ち上げ失敗により、今後の中国の宇宙開発に、いくらかの影響が出ることは間違いない。

 ただ、まず大前提として、新型ロケットの打ち上げ失敗というのは珍しいことではなく、どんなロケットでも一度は通る道である。ましてや、長征五号はエンジンも機体もなにもかもを新たに開発したロケットである以上、中国自身も1度や2度の失敗は覚悟していただろう。その点でいえば、今回の失敗はそれほど深刻なことではない。

 ただ、長征五号による打ち上げを前提としていた宇宙計画に関しては、少なからず影響が出ることは避けられない。たとえば実践十八号のような、大型の静止衛星の打ち上げはもちろん、今年11月には月に着陸して砂や岩石を採取し、地球に持ち帰る大型の探査機「嫦娥五号」の打ち上げが予定されていたし、2018年からは大型の宇宙ステーション「天宮」の部品の打ち上げも始まる予定だった。

 しかし肝心の長征五号の打ち上げが失敗した以上、その原因究明や対策によって、数か月、あるいは年単位で遅れる可能性が出てきた。

 もっとも、嫦娥五号は何も今年11月に必ず打ち上げなければならない、というものではなく、宇宙ステーションも同様である。打ち上げの遅れは計画全体の遅れとなり、追加コストも発生するだろうが、逆にいえば影響はそれくらいであり、どこの国でも宇宙計画が年単位で遅れることはよくあるので、決して楽観視できるものではないが、それほど深刻なことでもない。

 現在の中国は、宇宙開発において世界で最も勢いがある国といってよい。1990年代の後半以降からこれまでに積み上げてきた技術力も確かなものがある。したがって、今回の長征五号の失敗をもって、中国の宇宙開発が立ち止まるということはなく、対策を施し、さらに信頼性を高めた上で、檜舞台に舞い戻ってくることになろう。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・长征五号遥二火箭飞行出现异常 发射任务失利(http://www.spacechina.com/n25/n144/n206/n214/c1676903/content.html)

・东方红五号卫星平台(http://www.cast.cn/Item/Show.asp?m=1&d=2883)

・Long March 5 suffers failure with Shijian-18 launch | NASASpaceFlight.com(https://www.nasaspaceflight.com/2017/07/long-march-5-lofts-shijian-18/)

・China’s Long March 5 Fails on Second Orbital Mission, innovative Shijian-18 Satellite lost – Spaceflight101(http://spaceflight101.com/chinese-long-march-5-fails-on-second-mission/)

・Launch of China’s heavy-lift Long March 5 rocket declared a failure – Spaceflight Now(https://spaceflightnow.com/2017/07/02/launch-of-chinas-heavy-lift-long-march-5-rocket-declared-a-failure/)

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