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ウイダーinゼリーの投票キャンペーンで起きた大いなる悪ノリを、主催者は予想できなかったのか

7/8(土) 15:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 森永製菓が行った、自社製品「ウイダーinゼリー」の販促キャンペーンがネット上を騒がせている。

 このキャンペーンは、「フレフレ、部活。母校にinゼリーキャンペーン2017」と銘打ち、ウイダーinゼリーを購入するしないに関わらず、すべての人たちがスマホやPCを使って「自分の母校の部活に差し入れを出来る」というもの。

 キャンペーン参加者(誰でも参加可能)たちは、ウイダーinゼリーの特設ページから、自身の母校を探し、更には自分が所属していた「部活」を探す。万が一、登録されていない場合は運営事務局に言えば追加登録もしてくれる。そして「部活を応援する」というボタンをクリックする。クリックは一日一回だが、日付が変わればまたクリック出来る。

 このクリック数が全国1位になれば、特性のスペシャル垂れ幕(よく校舎に吊り下げられている「祝 全国大会出場!」のような垂れ幕)が送られ、全国1位~3位には、特製の「巨大ウイダーinゼリー」が送られる。

 その他の部活には、応援クリックが10票以上入った部を対象に抽選を行い、全国の500の部活にウイダーinゼリーが1ケース(36個)送られるという。

 このキャンペーンは、昨年度も行われ好評だったため、今年も開催された。キャンペーン期間は、6月1日から30日までの1か月間。

 自分の母校、自分が所属した部を直接、応援・アピールできる機会とあって、特設ページの投票数は日ごとに伸びていく。筆者も、なんとも健康的で、且つ企業の販促キャンペーンとしては中々完成度が高いと感じた。ちなみに、このキャンペーンを運営しているのは大手広告代理店の電通である。

◆瞬く間に「祭り」の標的に

 そんなキャンペーンに異変が起こったのは、6月の中旬。

 毎日更新されるランキングで1位を「独走」していた北海道のS高校の吹奏楽部の得票数が異常に多いのではと、ネット上で話題になり、一部のネット民からは「不正投票だ!」、「不正投票許すまじ!」の声が上がり始める。

 そんな一部のネット民たちは、どうにかこのS高校を追い落とすため、或る悪戯を思いつく。それは、別の高校の別の部に票を集中させ、ネット民の力で1位を奪い取ろうとするもの。彼らは、某有名ユーチューバーのS氏の母校である、大阪・M高校の放送部に目を付けた。そして、ネット掲示板を通じて、M高校への投票を大々的に呼びかけたのだ。最初は、その悪戯に呼応する人は僅かだったが、一日二日経つと、ネット民の中でこの悪戯が話題になり始め、M高校に投票する人が増え始める。

 そしてそれはいつしかネット上の「祭り」となった。

 そこに「1日1クリック」のルールはない。或る方法を取れば、1日に1人が何回でも投票できる「裏技」も公開された。M高校放送部への投票が爆発的に伸びる。そしてキャンペーンの最終週には、彼らの思惑通り、M高校放送部が圧倒的な1位に躍り出た。

 アメリカ・タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」のネット投票で、不祥事を起こした時の芸能人が、2位のビン・ラディンに2倍の大差をつけ1位になったり、2016年の「妖怪ウォッチ」のキャラクター人気投票で、主催者側が冗談のつもりで選択肢に入れた「三兆円」(番組のキャラではない)が優勝し、運営会社であるレベルファイブが辛酸をなめたり、ネット上では、ネット民たちの悪ふざけにより時々このような「事件」が起きる。

 今回の、ウイダーinゼリーの部活応援キャンペーンも、その悪戯の標的となってしまった。

◆不正投票合戦で無関係の高校が担ぎ上げられる

 しかし、悪戯はここで収まらなかった。ネット民らは、主催者である森永製菓が、不正投票を理由に、1位のM高校をランキングから外すと考えた。

 そこで彼らは、主催者がM高校をランキングから外せないようにするため、まずは、M高校が追い落とした、S高校(従来の1位)にも、わざと不正投票を行った。主催者が、不正投票を理由にM高校を外すのであれば、S高校にも同様の措置を取らざる得なくなるように。

 彼らの「防御策」は、それだけでは終わらない。主催者が、更にM高校を外しにくくなるように、2位と3位に「壁」となる高校を引き上げることを思いつく。その的になったのが、東京朝鮮高校と創価高校。ネット民たちは、朝鮮高校や創価高校が仮に1位になっても、またM高校同様にランキングから外されても、何かしらの騒乱が起きるだろうと予測した。少なくとも主催者としては、政治的な理由、宗教的な理由をキャンペーンで働かせたくはない。

 掲示板には、M高校への投票ページへのリンクのほか、朝鮮高校や創価高校の投票ページのリンクも貼られた。

 そして6月30日にキャンペーンの投票は終了。はたして結果は、ネット民が望んだ通りのものとなった。1位、大阪・M高校放送部。2位、東京朝鮮高校サッカー部。3位、創価高校演劇部。4位、北海道・S高校吹奏楽部。ネット民らによる「祭り」は終わった。

 ちなみに主催者が公に発表した確定順位はない。

 しかし、キャンペーンの「結果発表」ページには、「残念ながら当企画の主旨とは違う投票も多くなされてしまいました。また、不快な思いをされた方がいらっしゃると考えており、ます。至らなかった点につきましては深く反省し、お詫び申し上げます」とコメントし、キャンペーン商品の贈呈枠を大きく拡大することで収拾を図りはしたものの、ランキングの変更等を示唆する文言は無かった。

◆こうなることを主催者は予想できなかったのか

 企業の、ネットを通じた「顧客参加型販促」は、スマホの普及率に比例して隆盛の時期を迎えている。古くは応募券や応募シール等をハガキに貼って送るキャンペーンが、今やネットを通じリアルタイムで参加できるようになった。

 ネットを通じた「顧客参加型販促」は、今回の森永製菓のキャンペーンでも分かるように、ネット上に悪意等が現れれば、瞬時にして主催者側が意図していたものとは全く違うものに変容する可能性もあるのだ。

 今回の件でいえば、直接的には「1日1クリック」のシステムの脆弱性が、ネット上の悪ノリに突かれたウィークポイントではあったが、本質的にはそれを主催者側が想定できなかったことが最大の欠陥。

 今回の一件の「首謀者たち」に、明確な「悪意」があったのかと問われれば、彼らは否定するだろう。「面白そう」、「戸惑う主催者や受賞者を遠目に見てニヤニヤしたい」。元を辿ればその程度のことである。しかし、ネット上の、ちょっとした出来心は、圧倒的な数を得ると大きな悪ノリに変わる。

 今回のウイダーinゼリーの部活応援企画においては、どこにも「勝者」はいない。M高校も、東京朝鮮高校も、創価高校も、S高校も、森永製菓も、電通も、すべてが翻弄された側である。何に翻弄されたのか?ネット民にではなく、実態のない悪ノリにだ。

<文・安達 夕 @yuu_adachi>

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