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中国マネーが招くベネズエラの破綻

7/8(土) 18:30配信

ニューズウィーク日本版

<資源確保と影響力の拡大を目指す中国の「金融外交」が途上国を苦しめる>

「ベネズエラと中国。この2国の経済に共通するリスクは?」と聞かれたら返事に困るだろう。

ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は前任者ウゴ・チャベスの遺志を継いで「ボリバル革命」の旗を掲げ続けているが、頼みの綱の原油価格は一向に上がらず、経済危機は悪化の一途をたどっている。油田掘削装置の補修費や労働者への賃金の支払いもままならず、原油生産はストップ。深刻な物資不足で国民の怒りはピークに達し、マドゥロ退陣を求めるデモが全土に広がっている。

一方、地球の反対側の中国ではきらびやかなショッピングモールに買い物客があふれている。

明暗がくっきりと分かれる両国の経済だが、実は共通の「爆弾」を抱えている。中国の習近平(シー・チーピン)国家主席が膨大な資金力にものをいわせて影響力を拡大しようと「金融外交」を展開しているからだ。

中国のたくらみは相手国ばかりか、最終的には中国にも手痛い打撃を与えかねない。ベネズエラ経済の崩壊がそれを示す実例となるだろう。

【参考記事】ベネズエラほぼ内戦状態 政府保管庫には大量の武器

99年にチャベスが反米・社会主義路線を掲げて政権の座に就くと、中国は彼をイデオロギー的な盟友と見なし、ベネズエラにせっせとカネを貸し始めた。

公式には中国の融資は資金の使途や返済に条件の付く「ひも付き」融資ではないが、現実は玉虫色だ。00年以降、中国は新たな市場の開拓と資源の確保を目指して積極的に対外投融資を始めた。

石油を確保しつつ中南米に友好国をつくるという中国の思惑は、アメリカと縁を切って貿易相手国を多様化したいというベネズエラの思惑とぴたりと合致した。だからと言って中国が金利をまけてくれるわけではなく、融資条件は中国に非常に有利なものとなった。

07~14年に中国はベネズエラに630億ドルを融資。この金額は同時期の中国の中南米諸国への融資総額の53%に当たるが、その気前のよさには裏がある。返済は石油で行うことになっていたのだ。

融資契約の大半が結ばれた時期に1バレル=100ドル強で推移していた原油価格は、16年1月には1バレル=30ドル近くまで下落。こうなるとどう頑張っても返済が追い付かない。今やベネズエラは契約当初の2倍の原油を中国に輸送する羽目になっている。



中国だけが得する契約

ベネズエラ経済が完全に破綻し、マドゥロ政権が崩壊すれば、中国は外交・経済両面で大打撃を受けかねない。その証拠に国家経済を破滅に導いたマドゥロ政権がなかなか倒れないのは中国が支えているからだと、ベネズエラの野党はみている。

マドゥロ失脚後の新政権はチャベス=マドゥロ時代に結ばれたローン契約を無効とし、アメリカに支援を求めるだろう。そうなれば中国のメンツは丸つぶれだ。中国は過去に貧困国のデフォルト(債務不履行)を熱っぽく擁護したことがある。当時の債権国は欧米諸国だったから、借金を踏み倒されても中国に実害は及ばなかった。

ベネズエラがデフォルトに陥れば、中国ばかりかほかの国々も影響を被るだろう。中国は「一帯一路」の一環として、多くの国々にベネズエラ方式の融資を行う計画だ。資金と技術的なノウハウを提供してインフラ整備を支援すれば、資源や物流拠点を確保できる上、友好国を増やして国際社会で影響力を拡大できる。中国にとってはまさに一石二鳥の援助計画だ。

【参考記事】日中戦争から一帯一路まで「パンダ外交」の呪縛

今は中国が壮大な構想を実現しやすい環境がある。アメリカはトランプ政権になってから世界のリーダーの役割を放棄した。オバマ前政権のアジア重視政策が掛け声だけで終わったことも、中国のアジア政策には好都合だ。

アジアの多くの国々は遠慮がちに、あるいは声高にアメリカの関与を求めている。中国の支配におとなしく従いたくないからだ。だがリスクを承知で中国に頼るか、どこにも頼れないかという二択なら多くの国が前者を選ぶだろう。

ベネズエラ経済が破綻の淵に追い込まれたのは、愚かな経済政策を進める独裁政権に、無制限にカネを貸す太っ腹なスポンサーがいたからだ。この有害な組み合わせは、一帯一路で多額の融資を受ける多くの国々に共通している。経済の低迷に頭を抱える独裁政権は長期的には採算が取れなくとも、一時的な景気浮揚策として中国が出資する大型の開発事業に飛び付く。

早くもスリランカとパキスタンは債務危機に追い込まれつつある。スリランカは中国の資金で南部にハンバントタ港を建設したものの、重い金利負担にあえぎ港の運営権を99年間中国に貸し出すことにした。中国はパキスタンの通貨危機を防ぐためこの1年に12億ドルの緊急融資を行い、さらにインフラ整備のため今後数年にわたって最低でも520億ドルを投資する計画だ。



世界の鼻つまみ者に?

中国当局は一帯一路を語る際、第二次大戦後の欧州復興計画マーシャルプランをよく引き合いに出す。しかし一帯一路は「中国による中国のための計画」だ。低金利や無利子の開発援助と違い、金利は市場の相場に基づき高く設定される。しかも鉄道や港湾の建設事業を受注するのは中国企業で、資材も中国から輸入し、労働者も中国人だ。

そうであっても中国は高い代償を免れ得ない。既に中国当局は南アジアと中央アジアの国々への融資で多額の焦げ付きが出ると予想している。

スリランカがいい例だ。中国は20億ドルの借金棒引きを認めたが、その後にまたインフラ事業で320億ドルを投資した。大型インフラ事業で中国マネーが流入するパキスタンではインフレが起きるのは必至で、そうなれば債務返済はさらに困難になる。

【参考記事】習近平「遠攻」外交で膨張する危険な中国

中国は今後10~15年間で一帯一路事業に5兆ドルを投じると公言している。実行すれば中国にとっても大きな負担になり、比較的小規模のデフォルトでも経済的・政治的に深刻な打撃をもたらす可能性がある。

借り手を苦しめる手前勝手な貸し付けで途上国の経済を破綻させる――中国が世界の鼻つまみ者になりたいなら、これほど有効な処方箋はない。既にベネズエラ、スリランカ、パキスタンの苦境を見て、ほかの国々は中国マネーに飛び付かないか、少なくともリスクを考慮する姿勢を見せている。

事業の採算性や借り手の返済能力を見極めずに多額の貸し付けを続けては、借り手と貸し手が相互不信に陥るばかりか、借り手が次々に破産する事態もあり得る。中国が賢い貸し手にならない限り、金融外交でいくら札ビラを切ったところで誰にも相手にされなくなるだろう。

From Foreign Policy Magazine


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[2017.7.11号掲載]

クリストファー・バルディング(北京大学HSBCビジネススクール准教授)

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