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【テレビの開拓者たち / 樋口卓治】売れっ子放送作家が「テレビもまだ捨てたもんじゃない」と思った番組とは?

7/9(日) 16:30配信

ザテレビジョン

「ぴったんこカン・カン」(TBS系)、「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBS系)、「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」(テレビ朝日系)といった長寿番組のほか、数多くのバラエティー番組を手掛けている放送作家の樋口卓治氏。1989年に芸能プロダクション・古舘プロジェクトに入社して作家活動をスタートさせた彼は、古舘伊知郎をはじめ、タモリ、明石家さんまらと仕事をしてきた自らのキャリアを振り返り、「憧れていたタレントの“輪”に入ることができて、とても恵まれていた」と語る。近年は小説の執筆も手掛ける彼に、放送作家として今現在抱いている率直な思いを語ってもらった。

「フルタチさん」(フジ系)も、樋口卓治氏が携わる数多くの番組の一つ。最近は「日本語とアナウンサー」「日本の方言」といった人気企画も生まれている

■ キャリアの最初で古舘伊知郎さんと出会えたことは本当に大きかった

──樋口さんが、初めて携わった番組は何だったんでしょうか?

「僕が放送作家になったのは、古舘プロジェクトに入ったのがきっかけなんですけど、それはどうしてもテレビの裏方の仕事をやりたいといった理由からではなく、たまたま募集をかけていたから、たまたま応募しただけなんです(笑)。古舘プロジェクトの方針が、古舘伊知郎さんの周りにブレーンをつけようということだったんですが、そこで集められたブレーンが、いわゆる放送作家と呼ばれる人たちで、僕も運よく、その末席に加えてもらったということですね。

僕が入社した年が、ちょうど古舘さんが『F1グランプリ』(1987~2011年フジ系)の実況を始めた年で。そこで、事前にF1関係の雑誌を片っ端から読んで、使えそうなネタを集めて整理して古館さんに渡す、という雑用係が僕の初めての仕事でした」

──古舘さんと仕事で関わってみて、いかがでしたか?

「今でも役に立っているなと思うのは、古舘さんの“物事をフレーズ化する”という感覚です。アイルトン・セナのことを『音速の貴公子』と呼んだり、レースの途中でリタイアしたマシンを引き上げている様子を『カジキマグロ状態』と例えたり。そんな風に、視聴者により分かりやすく、より面白く伝えようとする古舘さんの言葉のセンスは、自分の肌に合ったし、すごく影響を受けましたね。その意味でも、キャリアの最初で古舘さんと出会えたことは本当に大きかったと思います」

──古舘さんと言えば、昨年春に「報道ステーション」(テレビ朝日系)を離れ、現在、「フルタチさん」(フジ系)や「トーキングフルーツ」(フジ系)、「人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!」(NHK総合)など、再びバラエティー界で活躍されています。

「僕が言うのもおこがましいんですが、今はまだ“様子見”の段階なんじゃないでしょうか。ご本人もよく『「報道ステーション」のときは、報道の水に慣れるまで2、3年掛かった』と言ってますけど、今は『今どきのバラエティー番組の作り方に慣れるまで、ひとまず一通りやってみよう』という感じなのかなと。大きな水族館からやって来た魚が、新しい水族館の水槽で泳ぎ方をいろいろ試しているところ、というか。バラエティーの水に慣れてピチピチ動き出したら、古舘伊知郎ならではの面白い企画が、本人からも、僕たちブレーン側からも、もっといろいろと出てくるだろうと思っています」

■ 自分自身が家で見たい番組かどうかを大切にしているんです

──樋口さんは、現在も「ぴったんこカン・カン」や「中居正広の金曜日のスマイルたち」をはじめ、いわゆる長寿番組を数多く手掛けられていますが、何か秘訣のようなものはあるんでしょうか?

「一番大事なのは、スタッフが一丸になっていることでしょうね。『ぴったんこ』だったら安住(紳一郎)アナが、『金スマ』なら中居(正広)くんをどう生かすか、つまり、彼らが悔しいと思ったり緊張したり、本気で挑めるステージをどうやって作るか、それを考えるのが僕ら裏方の仕事で。みんなの中でそこのコンセンサスが取れていれば、戦い方も自ずと見えてきますから。

僕は、放送作家というのは、相方であるディレクターを“男にする”のが仕事だと思ってるんですけど(笑)、作家が『これだよね?』とアイデアを提示したときに、『そうそう!』とすぐに答えてくれるディレクターがいる番組は強いですよね。やっぱり、テレビ作りはチームプレーなんだなとつくづく思います」

──そんな中で、樋口さんが放送作家として最も大切にしていることは?

「大前提として、番組は“視聴者ファースト”でなければならないと思っています。とはいえ、僕もまた視聴者の一人なわけで、自分自身が家で見たい番組かどうか、という観点を大切にしているんですね。よく映画を見に行ったときに、予告編はよかったのに本編はイマイチだったってことがあるじゃないですか。そうならないように、視聴者の方々が『これは見てみたい』と思える“入口”と、見終わったときに『見てよかった』とか『ちょっと得をした』という気持ちになれるような“出口”と、その両方を番組の中にしっかりと作る。最初にワクワクさせて、最後は満足させる、そんな入口と出口をしっかり作ることを自分のルールとして課しています。

そのためには、今、どんなことが世の中で興味を持たれているのか、それが自分の感性と合っているのか、もしズレていたらどう調整していくのか、そういったことを見極める作業が必要なんですよね。いわば、時計が何分狂っているかを確認して時間を合わせるような作業を毎日やっているわけですけど、これがけっこう大変で。やっぱり若いころと比べると、ズレは大きくなりますからね。それは時代というより、自分自身が変化しているってことだと思うんだけど」

――そうした作業の中で、幸せを感じる瞬間は?

「月並みですけど、一つはやっぱり、視聴率ですよね。視聴率至上主義がいいか悪いかは別として、“高視聴率”という結果が出たときのうれしさは、やはり何物にも代えがたいものがある。栄養ドリンク以上に元気の素になります(笑)。そして、自分が手掛けた番組を見てくれた子供たちが、『自分も大人になったら、こういう番組を作る人になりたい』って思ってくれたら…。そんなことも考えたりします」

■ 質の高い番組が突然変異みたいに生まれたりする。やっぱりテレビって面白いなと

──ところで、樋口さんは「ボクの妻と結婚してください。」(講談社刊)をはじめ、近年は小説も書かれています。放送作家と小説家のお仕事における共通点、また相違点はどんなところにあるのでしょうか?

「先ほども話しましたが、テレビはチームの仕事。一方、作家の仕事はあくまでも個人の作業なんですよ。小説は、考えて、書いて、まとめるまで、全て自分でやらなくちゃいけない。いわば、ディレクターの仕事も自分でやっている感じはすごくありますね。

ただ、テレビの仕事で培ってきた、ストーリー構成だとか、登場人物たちのやりとりの構成といったことは、小説に生かすことができる。そのハイブリッドの感覚は、テレビと小説の両方をやっている強みだと思います。例えば、『笑っていいとも!』(1982~2014年フジ系)の最終回って、とんねるずやダウンタウンといった、普段は共演するはずのない芸人さんたちが入り乱れて、伝説になりましたよね。当時はスタッフの一人として、『面白かったなぁ。いいもの見たなぁ』なんて単純に感動していたんですけど、あれって実は、司会のタモリさんが“俺が俺が”と前に出ず、みんなが出てきた瞬間にスッと空気になったからこそ成立した現象なんだということに、あるとき気付いたんですよね。で、その“透明人間”になれるタモリさんのすごさに気付けたのは、小説を書くようになってから身についた観察力のおかげだと思っていて。そんな風に、両方の仕事がお互いに良い形でフィードバックできているし、自分の中ではバランスが取れているのかなと思っています。…まぁ、大変は大変なんですけどね、放送作家の仕事の合間を縫って小説を書いてるので」

──「テレビが娯楽の王様ではなくなった」といった意見もささやかれる昨今ですが、樋口さんは今のテレビを取り巻く状況をどのようにご覧になっていますか?

「以前ほど視聴者が前向きにテレビを見ている時代ではない、ということは、自分の実感も含めて間違いのないところだと思うんですけど…。昨年、古舘さんが忠臣蔵の討ち入りを実況する『古舘トーキングヒストリー ~忠臣蔵、吉良邸討ち入り完全実況~』(2016年テレビ朝日系)という特番に構成として参加したんですね。“古舘伊知郎が歴史を実況する”というコンセプトに僕もワクワクしたんですけど、いざ着手してみたら、効率の良さに重きを置いている今のテレビとは完全に逆行した作り方で、めちゃくちゃ大変だったんですよ。時代劇のパートの脚本家とも事細かにやりとりをしたし、しまいには『誰もが分かりきっている事実を実況しても面白くないんじゃないか』って、根底をくつがえすような意見も出てきたりして(笑)。でも、そうやってわれわれが熟考した末に作り上げたものを、本番で古舘さんの実況が軽々と越えていくんです。そのとき、『やっぱりテレビって面白いな』と改めて思ったんですよね。今や“効率よく”という作り方がルーティン化している中で、こういう手間暇をかけた質の高い番組が、突然変異みたいに生まれてきたりする。テレビもまだ捨てたもんじゃないぞ、と思ったんです。

だから今後も、われわれ作り手が、テレビでしかできないことをやろうという意識を忘れずに持っていれば、大丈夫なんじゃないかと。まぁ、自分の中で、それを意識できるだけの体力がまだ残っているから、そう思うのかもしれないけど。健康じゃなくなったら『テレビはもうダメだ』って言い出すかもしれませんけどね(笑)」

最終更新:7/9(日) 16:30
ザテレビジョン

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