ここから本文です

実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅:3日目《宮島口駅~名古屋駅》

7/9(日) 17:10配信

サライ.jp

「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てた、58歳の鉄道カメラマン川井聡さん。南九州の枕崎駅から、北海道の最北端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅が始まった。

2日目《熊本駅~宮島口駅》の様子はこちらから!

3日目は早朝の宮島口駅から出発だ。

《3日目》宮島口6:49→八本松8:01

快晴の朝7時。観光地のせいか、宮島口の町はまだ静か。名物「あなごめし」の店はまだ閉まっている。でも店の中からはショーユと砂糖でアナゴがクツクツ煮られるいい香り。これはたまらん!

タレの魅力的な匂いに「このまま発売まで待っていようか」と思うほどであったが、思いを振り切って駅へ駆け込む。

なにしろ今日の乗車予定は550km。一日の距離としては今回の旅程で最長となる。おまけに京阪神を抜けるので、かなり混雑するのは間違いない。荷物も多いので、いちど座れば終点までほぼ座りっぱなしだろう。きっと、のんびりと忙しい旅になる。

ホームまでタレの香りが追っかけてくる宮島口で、7時11分発の糸崎行きを待つ。「本日は朝からダイヤが乱れています」という案内放送をとともにやってきたのは6時49分発の西条行き。乗り換え予定の糸崎駅の手前だが、せっかくやってきた電車なので乗車する。どこかでボーナス途中下車をたのしもう。

そうして途中で下車したのは八本松駅。山陽本線最大の難所として知られる瀬野駅~八本松駅間の端にある駅だ。

橋上の駅舎を降りたところに昔の駅舎がほぼそのまま残されていた。昭和40年代に今の駅に移って以降、倉庫として使われているという。駅舎として引退してから半世紀ほど経つというのに、ずいぶん綺麗に残されている。今どんな使われ方をしているのか。もう少し調べてみたかったが時間切れ。次回訪問の宿題ができてしまった。

ホームに戻ると、鮮やかな色が目に入った。エキゾチックな6人組。話を聞いてみたら、ネパールからきて、今は東広島市に住んでいるという。

八本松駅での下車時間は結局20分ほど。オマケの途中下車だけど、短いなりに楽しかった。列車の旅は、乗る楽しみと降りる楽しみだと実感する

まもなく、宮島口駅から乗車する予定だった糸崎行きの“RED WING”が、少しだけ遅れて入線してきた。

《3日目》八本松8:15→糸崎9:05

糸崎駅に到着。ここは明治時代の一時期は、山陽鉄道の終点だった。そんなこともあって今も構内には電車の留置線がたくさん並んでいる。

近所にある工場から流れてくるのは、昭和の工場地帯を思い起こさせる不思議な臭い。ちょっと苦手だが、ちょっと懐かしい。

ここで次の和気行きの黄色い電車に乗り換える。朝からの遅れでダイヤが乱れているため、別の列車の乗り換えを待って発車した。

もうすぐ瀬戸内海が見えてくるはずだ。

《3日目》糸崎9:31→尾道9:39

糸崎駅を出たら、すぐに海岸線に出た。車掌室の窓越しに眺める瀬戸内海が美しい。海辺まで行きたくなって、尾道駅で下車してみることにする。

せっかく乗った電車だけど、乗車はたったひと駅。「でもここなら、海は駅のすぐ前ですよ」と車掌さん。

尾道駅は「トワイライトエクスプレス瑞風」が停車することとなり建て替えが決定している。2017年7月現在、駅の業務は仮駅舎に移転し、2018年夏頃には新しい駅舎が完成する予定。こういう変化をスピードが速すぎるように感じてしまうのも、もしかしたら鈍行でゆらゆら旅行しているせいだろうか。

改札口から信号込みで海まで1分30秒。小さな防波堤の下に海があった。右からも左からも対岸とをつなぐフェリーがひっきりなしに走る。海と山と坂と船。大林信彦の映画の主人公が今もどこかにいるような気がする街並みだ。

海辺の景色を堪能して、尾道駅に戻る。このホームには昔の面影が残っている。古レールで組まれた尾道駅ホームの屋根は、かつて「あさかぜ」「富士」「はやぶさ」などの名列車が発着したころと変わらない。こちらは今後も活用されるようだ。

さあ黄色い電車で旅を続けよう。

《3日目》尾道10:18→岡山11:49

尾道駅を出て約20分で福山駅に到着。ここで1分ほどの途中下車。ホームに降りて福山城を眺める。福山駅は、明治時代にかつての城の敷地の中に作られた駅だから、正確には城郭の中から城を眺めている状態となる。

電車はこのまま東へ。車内は少し混雑気味になってくる。席を離れられないので、車窓を眺めていると、山陽本線は実にたくさんの貨物列車とすれ違う。

福山駅から10分で笠岡駅に。ホームに向かってカメラを構えていると『桃太郎』ことEF210がコンテナ列車をひいて高速で走って行った。

岡山行き普通電車は、金光駅でしばし停車中。ホームに降りて腰を伸ばす。床が揺れないところでちょっと一息。

11時49分、岡山到着! この先、相生駅までは、乗り継げる列車の本数が激減する。一本乗り遅れると、約1時間待つことになる。

次の列車は23分待ちで、12時12分発の相生行き。混み合う駅で中途半端な乗り換え時間をどうしようか、と思っていたら、数分後に赤穂線経由の電車があるのを発見。急いで時刻表をチェックすると、相生から乗る電車は同じ。急遽コースを変更して赤穂線の電車に飛び乗る。

《3日目》岡山11:54→播州赤穂18:08

赤穂線は全線が単線である。途中、日生駅で列車交換の待ち合わせ。車両は国鉄最後の新系列車両213系だ。

停車時間を利用してホームに降りてみると、海の香りとソースの香りにおそわれた。日生名物の牡蛎を使ったお好み焼き「カキオコ」を焼く香りらしい。駅のすぐ下に店がある。再び訪れた途中下車の魔力、しかも今度は香り付きだ。しかしこれも「次回の宿題」にして、再び車内へ。

2両編成の電車だが、車内はわりあい空いている。途中から乗ってこられたご夫妻は里帰りの帰り。「大阪まで在来線を乗り継ぐんですが、新幹線使うより早いんですよ」という。二人掛けの席に大きなキャスターバッグを入れての旅行だ。

お二人と一緒に播州赤穂で次の姫路行き電車に乗り換える。おなじ赤穂線だが、この駅を境に別の路線のようになる。全線を通して走る電車ない。

《3日目》播州赤穂13:09→姫路13:40

播州赤穂の乗り換えは1分。便利なようでかなり忙しい。すでにほとんどの席が適当に埋まっている。席替えが終わったばかりの教室に、突然転校してきたみたいな気分になる。

この電車は、時間によっては米原や長浜まで直通運転する。電車も車内も一気に都会風に変化したようだ。姫路まで約30分のショートトリップだ。

姫路行きの車内。補助席で勉強する高校生。まぶしいくらい幸せそうで、撮らせてもらうこちらも幸せ気分をいただいた。

13時40分、姫路駅に到着。ここで本日のルート550kmのほぼ半分だ。

純白の姫路城はかろうじて車内から眺めるだけ。朝の遅れは取り戻せたが、乗り換えはやはり忙しい。

姫路駅内の名物店「まねき」で駅弁を物色。種類も多くて充実している。朝の宮島で買えなかった穴子を使った弁当やらタコやらタイやら。姫路近隣の旨い素材が集っている。おばさんと相談しながら選んでいたら、どれも美味しそうなので、結局2品買ってしまった。

姫路は乗り換えが多い駅。だけど乗り換えの電車がどのホームに入るのか、何両なのかの説明は殆ど無い。ホームで電車を待つ人にもたずねてみたがみんな要領を得ない。「適当に並んで適当に乗る、行列はしっかり作らない」と言うかつての関西の伝統をちょっと思いだす風景だった。

やってきた電車は今回の旅の中で最長の12両編成。その座席があっという間に埋まってしまった。

そして電車は米原まで約200kmを一気に走る。稼げるうちに距離を稼ぎたい。

《3日目》姫路13:57→米原16:24

姫路から米原までは「旅行」と言うより「移動」している気分だ。関西の電車らしくクロスシートなのはありがたいが、車内はやはりずっと混んでいて、一人でお弁当を開いて食べるのはちょっと辛いシチュエーションであった。

それにしてもさすが新快速、速い速い。新幹線も並行しているが、相生や姫路、西明石に停まる新幹線は少ない。乗り継ぎを待つなら、赤穂線のご夫妻が言うように新快速を使った方がよほど早い。

途中、大阪駅に到着。ホームごと大屋根で覆われたが、建築当時の面影を残す鉄柱はモニュメントとして残されている。このあたりのセンスは素晴らしい。

新大阪のとなり、東淀川駅を通過。ここの踏切は今では珍しい有人踏切だ。線路の本数が多すぎて、途中で引っかかってしまう車が出るため、万が一に備えた安全管理なのだ。

通るのは東海道線緩行列車、新快速と特急、貨物列車と大変な数。一日中張り付く仕事で、大変なハードワークだ。カメラのシャッタースピードを1/1250に上げて待機。新快速は踏切をホンの一瞬で通り抜けた。

関西圏はすれ違う列車を眺めているだけでも楽しい。山陽電鉄、阪急、阪神に加え山陰方面と北陸方面の特急が車窓を飾る。新快速は特急並みの速度で駆け抜ける。

車内は少し立つ人がいる程度。お昼の電車と言っても、ほぼ一日中混んでいるのが新快速らしい。

米原が近くなって車内が空いてくると、仕事をする人より遊びに行く人が目立つようになった。定番のピースサインで応えてくれたのは、彦根に遊びに行く中学生。

ほとんど座席に座りっぱなしで、16時24分、米原駅に到着。ずっと楽しみにしていた立ち食い蕎麦に直行。天ぷらそばを一杯いただく。

国鉄時代からの伝統通り、このそば屋は弁当も扱っている。米原の駅弁は知る人ぞ知る名店。ひとつひとつの味付けが実に繊細なのだ。

そしてこの駅で究極のシンプル弁当「おかかごはん」と久しぶりの再会を果たした! じつは米原に来るたび尋ねるのだけれど「最近は姿を見ないねー」などと言われて、心の中ではマボロシの弁当になりつつあったのだ。

おかずの味付けも絶妙だけど、メインはやっぱりおかかの載ったご飯。お弁当だから当然ご飯は冷めている。でも、おかかの香りと味が御飯に染みてまさに絶品。豪華、贅沢、にぎやかな駅弁が多い昨今、シンプル、地味、しみじみ という表現が似合う駅弁である。

車内で飲むお水を買いにキオスクへ。ボクの前には高校生。メロンパンをしっかり捧げ持って並んでえる。学校帰りはやっぱりお腹がすくのだ。

関が原付近を走る。下り電車が高速でやってきて、一瞬ですれ違った。

17:33、大垣駅着。ここで乗務員が交代。ホームに響き渡るほどの大きな声で交代のあいさつを交わす。軍隊式(?)の点呼はなかなかの迫力。乗車しかけた乗客が、後ろで「ひっ」と小さく声を上げた。

稲沢駅周辺を通過。車窓には愛知機関区が垣間見えた。前身の稲沢機関区時代から東海道の貨物輸送を支えている同機関区は、現在も60両を越える国鉄型機関車が集う一大基地だ。

運転席から、信号確認の大声が聞こえる。大きくまっすぐ手を上げ、大声で信号を確認する。運転士のペットボトルが言っとき話題に上げられたが、あれだけ声を上げるなら、適宜水を飲まなきゃ体か壊れてしまいそうだ。

もうすぐ名古屋に到着だ。

18:07、名古屋に到着。本日の乗車予定はここまで!

出発地点の枕崎駅から約1500キロ。3日でほぼ半分近くの距離を稼いだことになる。尻が痛くなるほど座る乗車修行だったが、クロスシートの座席のおかげでけっこう快適。
そろそろ乗り継ぎ旅にも慣れてきた。

旅路の半分達成を記念して、今宵は名古屋メシを楽しもう。味噌カツにするか、手羽先か。それにしても、乗ってるだけなのに、良く腹が減るもんだと感心する。

ちなみに途中で赤穂線を回ったおかげで、本日の走行距離は予定より若干短い546.8kmであった。

東シナ海、有明海、玄界灘、瀬戸内海と太平洋寄りに進んできたルートも、ここ名古屋で一区切り。明日からは「すべて山の中」に入る。

<4日目に続く!>

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

※ 7月10日発売の『サライ』8月号では「青春18きっぷの旅」を特集します!

最終更新:7/9(日) 17:10
サライ.jp