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BMWが全国のディーラーに「ジーニアス」を増員する理由

7/9(日) 9:10配信

@DIME

 自動車ディーラーのショールームに足を運びたがらない顧客が増えている。昔は、クルマを買おうと思った人が最初に行うのがショールームに出掛けてカタログをもらうことだった。その時に、電話番号や住所を書かされて、後からセールスマンから電話が掛かってきたり、訪問を受けたりして購入につながるというパターンが多かった。

 まだ、個人情報についてナーバスになっていない時代だったし、個人情報という概念すら曖昧だった。雑誌の読者欄や文通コーナーには住所や電話番号が掲載されていたし、電話といえば固定電話しかなかったのだ。だが、携帯電話が出現して“掛かってきた電話に出ない”という行為が誕生し、ピンポーンと訪問してくるセールスマンに素直に解錠するお人好しもいなくなった。

 そういう時代が始まって、さらにインターネットでカタログをダウンロードできたり、詳しい情報をいつでもどこでもサイトから得られるようになると、ショールームに行く理由がなくなった。個人情報を渡さなければならず、買わないと帰してくれないんじゃないかと邪推する人だって現われている。

 昔はクルマを買う主導権を握っていたのは世帯主である父親か夫。あるいは、クルマ好きの息子たち。“機械モノ”だったから、男の役目だった。しかし、女性の社会進出が進んだり、独身の期間が長かったり、女性ドライバーが増えたりといった、様々な変化が世の中に起こって、女性がクルマ選びのイニシアチブを握る例が増えていっている。女性がクルマに求めるものは男性と一緒ではない。

 そんな女性がショールームにクルマを買いに行って、オトコ目線で延々とメカや性能の自慢、つまり大方の女性に関心がないようなことを延々と自慢されたらドン引きだ。知人のシングルマザーが日本メーカーのショールームに一台買うつもりで出掛けたら「今度はダンナさんといらっしゃって下さいね」と言われて激怒。その足で、同じメーカーの他のショールームで購入したという実話がある。

 そのセールスマンは、女性というのは専業主婦で、クルマ購入の主導権は夫が持っているものという先入観でしか対応できずに失敗してしまった。哀れな男だ。また、各社のホームページが充実し、情報量が豊富になったことで、客足が遠退いてしまう皮肉な現象は世界的に顕著だ。以前だったら、カタログをもらいにショールームを訪れ、実車に座り、場合によっては試乗も行ったりしていたが、今はサイト内に豊富に画像や動画、解説などがアップされているので、それらで満足してしまっている。

 そうした人がショールームで質問して答えが曖昧だったりしたら、信頼感どころか不信感しか芽生えて来ないだろう。ディーラー側にも課題がある。メーカーが次々と増やしてくる車種をすべて陳列できるショールームを持っていないのだ。同じメーカーなのに、Aというモデルとそれに近いBというモデルを比較できないばかりか、Aを置いてあるショールームからBを置いてあるショールームに移動しなければならない。これは買う気をなくす。

 他にも、顧客がショールームに足を運びたくない理由はいくらでも挙げられる。だから、各社はあらゆる手を使ってショールームに来させようとしている。昨年のこの連載で書いたように、アウディは高性能なVRグラスを開発し、ショールームでバーチャル比較を行えるようにしたし、マツダは見違えるようにカッコ良いショールームへ建て替えを進めている。

 メルセデス・ベンツは、カフェとレストランを併設した「メルセデス・ベンツ コネクション」という複合施設を六本木に造って、繁盛している。BMWは昨年、東京お台場に「BMW Tokyo bay」という複合タイプの大型ショールームをオープンした。増え続けるモデルをすべて陳列し、試乗できることを最大の売り物にしている。

 そのBMWが全世界的に注力して増やしているのが、「ジーニアス」と呼ばれるスタッフだ。Tokyo bayだけでなく、全国のショールームに140名いるという。世界では、約3000人もいる。ジーニアスの役割は、初めてBMWのショールームにやってきた人を確実に顧客にすることだ。ショールームに入ってきた人に、「いらっしゃいませ」と最初にコンタクトし、初めての人だとわかると、「どんなクルマをお探しでしょうか?」とコミュニケーションを深めていく。

 いきなり、「今なら50万円引きですよ」とか、「このクルマは、最新鋭のステレオカメラとミリ波レーダーによるアダプティブクルーズコントロールとトラフィックジャムアシストが付いています」とか言いたいことだけをまくしたてるような愚かな真似はしない。

「まず、その方がどんな目的でここを訪れていただいたのか辺りから、探りを入れていきます」

 具体的なモデルやグレードまで決めていて買う気マンマンの人から、近所で仕事の予定でもあって時間つぶしがてら施設を見に来たという人まで、モチベーションはさまざまだ。一人なのか、カップルなのか、家族連れなのか? どんな人で、どんな目的を持って訪れたのか見極める必要があるだろう。服装や持ち物、乗ってきたクルマなど、ヒントもある。

 もちろん、ジーニアスは商品知識は誰にも負けないから、質問には完璧に答える。その場で答えられなかったとしたら、すぐに調べて連絡するのは言うまでもない。

「ジーニアスの役割は、接客ではなく、接遇なのです。接客マニュアル通りではなく、100人いたら100通りの接し方をします」(BMWジャパン ディーラー開発ディビジョン Future Retail マーケット・インプリメンテーション・マネージャーの兼頭義徳氏)

 説明し、来場者が購入を決定した段階で、ジーニアスはいわゆるセールスパーソンに引き継ぐ。セールスパーソンは金額の確認や支払い方法などを説明する。顧客が買う気になっていたモデルとは違うクルマを購入することもあるという。顧客の使い途や求めるものなどを探っていくうちに違うモデルを提案し、受け入れられた場合だ。ジーニアスに必要なのは商品知識とコミュニケーション能力である。相反するような2つを持っていなければならないから、従来タイプのセールスパーソンでは務まらないだろう。

 BMWのジーニアスは男女半々の割合で、MINIブランドでは女性ジーニアスが95%にも上るというから驚きではないか。MINIは女性ユーザーが多いということでもあり、いわゆるカーマニア的、クルマおたく的な価値観を満足させて求められるクルマではないことを証明している。ジーニアスは、以前から顕著になっていたクルマ販売事情の大きな変化に立ち向かおうとする新たな取り組みだ。2014年から始まった制度で、具体的な成果も現れていると兼頭氏は言う。

「試乗比率が高まり、値引きの話も出にくくなりました」

 モノの売り方と買い方がどんどんと変わっていく現代にあって、クルマだけが例外であり続けることはできない。時代の変化に素早く対応しようというBMWの柔軟な姿勢を垣間見ることができた。

 マンツーマンでコミュニケーションを深めながら顧客のカーライフスタイルを豊かなものにしていこうというアナログな手法にこそ、真のプレミアム性が潜んでいる気がする。世の中のデジタル化が進めば進むほど、ゆっくりと染み込んでくるようなコミニュケーションが最も心に響くのではないだろうか。

文/金子浩久

@DIME編集部

最終更新:7/9(日) 9:10
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