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丸の内で起こる人生の転機:27歳、詩織の忘れられない一夜

7/9(日) 5:20配信

東京カレンダー

親友の結婚式から東京に戻る新幹線の中、詩音はすっかり塞ぎこんでいた。新郎の地元だという神戸で行われた結婚式で、輝くような幸せオーラを全身で放つ女友達は、今の詩音には眩しすぎたのだ。

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詩音にも一緒に暮らして2年目になる裕介がいる。しかし27歳になり、プロポーズが無いままの関係に不安を覚え、一度同棲をやめてみようかという気持ちにすらなっていた。

東京に着くと今にも雨が降り出しそうな空だった。スマホには、丸の内で落ち合う約束をしていた裕介から、連絡が入っている。

「今日は丸の内の『GRILL UKAI MARUNOUCHI』でね。先に入ってる。」

詩音の両親は、結婚記念日には決まって、『横浜うかい亭』に仲良く連れ立って行くのがお決まりだった。だから詩音は”うかい”と聞けば、どこか懐かしい気持ちになるのだ。でも、そんな夫婦像は、自分にはまだまだ遠いものに思える。

落ち着いた店内は、騒がしすぎず、思い思いに食事を楽しむ人々の高揚感で満ちていた。

店の一等席である大きな窓際の席で、英国調の庭を眺める裕介の後ろ姿を捉えた途端、ほっとして胸がときめくのを感じた。

詩音に気づいて穏やかに微笑みながら「おかえり。」と言われると、実家に戻る提案をしようとした気持ちがぐらりと揺らいでしまう。

まず初めに2人の元に運ばれたアミューズは、「雲丹と甘海老のジュレ」。華奢なカクテルグラスに盛りつけられたジュレの中には、ぷりっと瑞々しい甘海老が隠れている。

涼やかな喉越しと、添えられた雲丹の香りを感じながら、すっきりとしたシャンパンを合わせれば、じめじめした東京の夜を軽やかにしてくれる。

「式、どうだった?」と尋ねる裕介に、「とっても幸せそうだった。結婚っていいね。なんだか羨ましくなっちゃうくらい。」と、さりげなくアピールしてみたりする。

「そうか、そうか。」ただ頷くだけの裕介がもどかしく、意図的に結婚の話題に持っていく自分が、少し惨めになってしまう。

アミューズに続くのは、色鮮やかな「とうもろこしの冷製スープ」。糖度にこだわって取り寄せられたとうもろこしで作られたスープは、限りなくフレッシュで、自然の甘みがじんわりと染み渡る。

「秋には栗のスープになるみたいだ、その時期にもまた来ようか。」何気ない裕介の言葉にも、秋もこのままの関係なのだろうかと、また不安でたまらなくなる。

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