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名波ジュビロの新たな姿。指揮官が覚えた感動。5連勝、1-0白星生んだ勝利への執着心

7/10(月) 11:29配信

フットボールチャンネル

 8日、明治安田生命J1リーグ第18節が行われ、ジュビロ磐田はヴァンフォーレ甲府に勝利した。後半の45分間はアウェイチームに押し込まれる時間が長かったサックスブルーだが、前半に奪った先制点を守りきり1-0で勝利。厳しい展開をしのいでの勝ち点3は、名波浩監督にとっても感慨深いものとなったようだ。(取材・文:青木務)

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●1-0での勝利。「後半の戦い方には感動した」(名波浩監督)

 毎試合、複数得点を取れれば気持ちがいいだろう。しかし、『チームの強さ』を測る要素はそれだけではない。苦しみ抜いての勝利も充実感が得られるはずで、そうした内容で掴み取った歓喜もまた格別なものである。

 明治安田生命J1リーグ第18節、後半戦の初戦となったヴァンフォーレ甲府戦をジュビロ磐田は1-0で切り抜けた。今シーズン初となる“ウノゼロ”は、これまでとは違うチームの姿を映し出している。サックスブルーのゲームは見るべきものがあった。

 前々節までは、全員が守備の意識を強く持つことで相手の攻撃力を削ぎ、素早い切り替えから川又堅碁、アダイウトンを走らせ一気にゴールを目指した。虎視眈々と追加点を狙う姿勢も、相手をけん制していた。つまり、攻守一体のパフォーマンスが連勝の原動力だった。

 この試合も先制したのは磐田で、その後も2点目を目指してはいたが、後半は甲府に主導権を握られる。

「相手は後半出てくるぞ、人数をかけてくるぞとハーフタイムに伝えていた。案の定、スピードも上げてきたと思うし、危ないシーンがいくつかあった」

 名波浩監督が述べたように、ボールを動かされ、何度かバイタルエリアに侵入された。ミスに助けられたがPA内で相手をフリーにさせてもいる。

 しかし、ゴールを奪われることはなかった。相手のシュート精度が低かったこともあるが、強調すべきなのは『守りきろう』というイレブンの決意と実行力だ。ブロックを作り、相手を監視し、要所で身体を投げ出す。甲府のお株を奪うような懸命な守りで試合を終わらせた。

「後半の戦い方には感動した」

 試合後のロッカールームで、指揮官は選手たちを労ったという。

●確実に遂げてきた成長。勢いだけではない勝ち方

 2014年9月、名波監督は古巣・磐田で指揮を執るようになった。今日に至るまで、苦い経験もたくさんあっただろう。初年度はプレーオフ敗退で昇格を逃がし、J1に戻ってきた昨シーズンも目標の勝ち点40に届かず、満足のできる結果ではなかった。

 ただ、自身もチームも確実に成長を遂げていたのはこの5連勝を見れば一目瞭然だ。そして大袈裟に言えば、今回の甲府戦勝利は名波ジュビロにとって大きなポイントになるのではないだろうか。磐田のレジェンドは喜びと感慨が混じった様子で語っている。

「こういうゲーム運びを、我々もやっとできるようになったんだなと。去年や一昨年のJ2の時だったら間違いなくやられていて同点、もしくは逆転されていたと思うが、1-0の美学というか、守ろうという意思がピッチ全体に広がっていた」

 4連勝中といい流れにあったのは間違いない。だが、勢いだけでこの勝ち方はできない。全員の意識の共有、一人ひとりのファイト、指揮官の采配と様々な要素ががっちりと噛み合ったからこそのウノゼロだった。

「J2時代にもできなかった5連勝をJ1で、しかもいい対戦相手にできたことは選手たちの努力、積み上げ、野心や野望に尽きると思う。思い切ったことを選手たちがダイナミックにできたり、緻密に規律を守ったりというそのバランスが絶妙な時期だと思う。今、さらに上塗りしてもすぐにスポンジのように吸収してくれるんじゃないか」

 指揮官は、公の場で自身の功績をひけらかすような真似は決してしない。常に選手第一。そうした姿勢はこの日も、会見場で色濃く感じられた。

●川辺駿が披露したクオリティ。絶妙パスで先制点を演出

 先制すれば勝てる――。

 選手たちはそんなに楽観的ではないだろうが、先にスコアを動かした試合の磐田はある意味、安心して見ていられる。先制したゲームは8戦全勝。1点の重要性を理解し、高い集中力で90分間挑み続けている。

 甲府戦で“その時”が訪れたのは、前半立ち上がり14分だった。低い位置でボールを受けた中村俊輔が相手の股を通すと、川辺駿が振り向きざまにスルーパスを送る。これに走り込んだ川又のシュートがGKの股を通過し、ネットを揺らした。

「本当に久しぶりに中央を割られて崩された」とは敵将・吉田達磨監督の言葉だ。一連のシーンで甲府は2度、股を通されている。「2回『ヤバイ』が連続すれば中村俊輔、川辺、川又堅碁と今好調の3人ですから、パスも通されますし、割られてしまう。それは今ジュビロの好調の要因というか、一つの鋭さを見た」と悔しさを覗かせた。

 ストライカーのゴールをアシストした川辺はここ最近、得点に直結するプレーが著しく増えている。「間でうまくポジショニングをとれば、ボールが入ってくると思っていた」という冷静さが光った。中村俊輔のパスを合図に川辺が攻撃を加速させたが、得点までの過程に背番号40は手応えを感じている。

「縦パスはスイッチだと思うし、自分のところにマークがついていて、ケンゴくんも一対一でつかれていたけど、コンビネーションであれば崩せるというのはよくあること。ケンゴくんの動き出しが良かったので、イチかバチかどっちに走るかなと思いながら出したけど、スピードで流れていくのが特徴だと思って。そういう部分でうまく合ったシーンだった」

 川辺は「俊さんからパスが来たところで勝負はあったんじゃないかなと思う」とも話したが、21歳のMFが持ち前のクオリティを発揮したのも事実だった。

●「自分たちの強くない部分をチームとして隠す」(中村俊輔)

「いつもポジティブに『負けたけどいい試合だった』という雰囲気にはなってはいけない」

 中村俊輔は警鐘を鳴らしたことが何度かある。気持ちが沈みすぎない点はこのチームのいいところだが、敗戦に向き合いながら改善点を見つけ出すことが今シーズンはできている。勝利から見放された時期を長引かせず、短期間で乗り切ったことがその証左ではないだろうか。

「守る時は行かないで全員で引く。失点も少ないし、『今は持たせてもいい』という意思統一はできてきている。自分たちの強くない部分を個々で隠すんじゃなくて、チームとして隠す」

 10番は戦前、こんな話をしていた。甲府戦はボールを“持たれた”面もあったが、ブロックを作って対応することはできた。相手に上回られそうになっても、全員で立ち向かうことでピンチを撥ね退けていた。

 7月29日の次節・川崎フロンターレ戦までリーグは中断する。その期間に磐田はミニキャンプを実施する予定だ。連勝街道を走ったまま、チームを鍛え直すことができる。

「ここから3週間、楽しく過ごせるので気分のいい5連勝じゃないかなと。ミッドウィークに天皇杯(湘南ベルマーレ戦)が残っているが、それはまた上のステージに残るために努力していきたいですし、真っ向勝負でリーグ戦の川崎戦に挑みたい」

 すでに、名波監督の視線は“次”へ向けられていた。

 1-0の勝利には、過去4試合とは異なる意味でのチームの成長が感じられた。勝利への執着心、試合に懸ける想いを体現できなければ、無失点で抑えることはできない。精神面だけでは片付けられないが、今の磐田が持つメンタリティはまさしく、勝者のそれだった。

(取材・文:青木務)

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