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痴漢冤罪で逮捕されたら、最初に目指すのは“不起訴処分”

7/10(月) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 ここのところ痴漢事件や、そこから逃げ出した男性が線路を逃走する事件を相次いで目にする。

 ある日、突然、痴漢容疑をかけられてしまった場合、その場で容疑を晴らすことは困難だ。近頃は鉄道会社の駅員や初動で駆けつけた警察官も、昔ほど捕まった被疑者を頭から犯罪者扱いするケースは減ってきたと聞くが、痴漢も立派な刑事事件であり、警察が認知した以上、

・検察への送検

・起訴・不起訴の判断

・(起訴ならば)裁判

 といった刑事手続きが粛々と行われる。今回は、痴漢事件で“不起訴処分”になるまでの過程について述べたいと思う。これは筆者の体験や取材に基づく事実である。本稿では、ただ事実を淡々と説明するにとどまる。法的なアドバイスについては専門家の意見を参考にしていただきたい。

 痴漢事件の場合は事件発生直後、ほぼ100%逮捕されて身柄が拘束されてしまう。これは実際に痴漢行為をしていようが、冤罪だろうが処遇は変わらない。この時点で“不起訴処分”になれるかどうかが実は決まってくる。

 警察は逮捕後、48時間以内に被疑者の身柄も含めて、事件の指揮権を検察へと送る“送検”をする。検察の検事は送検されてきた事件を再度検証し、警察の主張どおり間違いなく被疑者が事件の犯人だと思えば、刑事罰を与えるために裁判を起こす“起訴”をする。

 ただし、日本では起訴された場合、有罪判決が下る確率は99.9%を超える。逆に言うと、少しでも負ける可能性がある事件は起訴しないのだ。

◆不起訴処分を勝ち取るためにできること

 つまり痴漢冤罪で逮捕された場合、まずは検察レベルで不起訴処分に持ち込むのが最初の“出口”なのである。痴漢容疑を掛けられた場合、検察レベルで不起訴処分に持ち込むためにできることは、

・被疑者の無罪を証明できる証拠や証人を探す

・被害者と示談に持込み、被害届を取り下げてもらう

 ということになる。

 近年では初犯の場合、痴漢事件でも検察の勾留請求が裁判所に却下されるケースが増えてきたので、身柄拘束が解けて外に戻れる可能性が高くなってきたという。

 だが、事件そのものは在宅捜査として継続しているので、警察や検察から取調べのために出頭を求められる日々が続く。出頭要請はそれほど頻繁でもないが、平日昼間の時間が指定されることが多く、正直、精神的に苦労の多い日々になるだろう。また、裁判所が勾留を却下する条件として、

「事件のあった路線の電車(またはバス)は使用しないこと」

 という条項を加えることが多いため、事件の証拠や証人を自分自身で探すことは困難といえる。

 そのように不起訴処分を勝ち取るための活動が、被疑者自身によってできない場合、頼りになるのが弁護士だ。

 刑事弁護の経験豊かな弁護士を雇うことで、証拠や証人を探すのが不起訴への大きなポイントといえる。この場合、弁護士に掛かる費用は基本料金に含まれていることが多く、必要経費以外の活動費を請求されないケースがほとんどだ。

◆痴漢冤罪であれば示談金は不要?

 痴漢事件を不起訴処分にしようと思った際、もっとも重要になるのは、“被害者との和解”だ。

 被疑者の無実を証明する証拠や証人というものは、見つかれば大いに有利だが、必ず見つかるという保証はない。痴漢という犯罪は基本的に加害者が被害者を触る行為である。

 確かに触ったのであれば、被害者の衣服の繊維片が加害者の手に残るとか、“痴漢をやった物的証拠”というものは探そうと思えば探せる。しかし、“痴漢をやらなかった物的証拠”は探しようがないことが多い。

 また、痴漢が発生するようなラッシュアワーの電車やバス車内で、自分以外の人の動きなど見えないし、見たとしてもそれをずっと覚えている人など滅多にいない。

 したがって、証拠や証人を逮捕・勾留された頃に探すのは極めて困難だと言える。そこで、不起訴を勝ち取るために有効なのが弁護士の立ち会いのもと、被害者と和解し、被害届を取り下げてもらうか、厳罰を望まないという主旨の上申書を検察の検事宛に書いてもらうことだ。

 痴漢の容疑が強制わいせつ罪であった場合、この犯罪は親告罪なので、被害者が被害届を取り下げた時点で事件そのものが消滅する。そうなれば起訴不起訴以前に身柄は釈放されるし、当然無罪放免である。

 掛けられた容疑が迷惑防止条例違反だった場合は、被害届が取り下げられたという理由で刑事手続きは終わらない。しかし、不起訴処分になる可能性は極めて高くなるだろう。上申書を書いてもらうのも同様の効果がある。

 もっとも弁護士の中には、被害者との示談交渉を基本料金に含まず、オプション料金にしているケースがけっこうあるようだ。その相場は10万~20万円であるが、示談に掛かる費用はそれだけでは終わらない。被害者という立場になった人間は「“誠意”を見せろ」というのが定番だ。

 そこで支払われるのが、いわゆる“示談金”だが、痴漢事件の場合、10万~30万円程度が相場になる。被疑者の中にはそれ以上の金額を請求してくるケースも珍しくない。そうした要求をマイルドに拒否し、相場に合った金額で示談を成立させるのも弁護士の腕だと言えるだろう。

というように、示談を成立させ、被害届を取り下げさせたり、上申書を書いてもらうために掛かる経費は、示談金プラス弁護士のオプション料金で、20万~50万円程度だ。

 しかし、近年、刑事手続きでは被害者のプライバシー保護という名目で、警察や検察が被害者の個人情報を開示しないことも多い。被害者情報を秘匿するのは、被害者の住所を知った被疑者が、被害者と直接会って脅したりするのを防ぐ効果はあるが、最近は被害者の弁護人にも警察・検察は被害者情報を明かさないのだ。

 そういった難交渉を事故なくまとめ上げるためにも、弁護士選びは欠かせないといえよう。次回も、痴漢事件の際の上手な弁護士選びについて述べたいと思う。

<文/ごとうさとき>

【ごとうさとき】

フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『逮捕されたらこうなります!』、『痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中

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最終更新:7/18(火) 15:50
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