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欧州議会が劉暁波釈放要求を決議----G20に合わせて

7/10(月) 16:00配信

ニューズウィーク日本版

7月6日、欧州議会は中国に対して「劉暁波を釈放せよ」という要求を出すことを決議した。それにより中国は欧米から専門医を招かざるを得ないところに追い込まれた。人権を重んじる民主主義的価値観、未だ死なず。

人権を重視して積極的に動いた欧州議会

7月4日付けのコラム「嘘だらけの劉暁波の病状に関する中共プロパガンダ」で「7月7日と8日にはドイツでG20首脳会議が始まる。どの国の首脳が習近平国家主席に『劉暁波に関する人権問題』に関して苦言を呈する勇気があるか。それは一種の踏み絵でもある」と最後に書いた。

この「踏み絵」がEU(欧州連合)の議会組織である「欧州議会」(フランスのストラスブール)で実現された。

その実現に向かって運動したのは、獄中のノーベル平和賞受賞者、劉暁波を応援する中国国内外にいる民主活動家たちだ。彼らは各国大使館などを通してアメリカ、フランス、ドイツなどの首脳に呼びかけ、劉暁波の釈放を求めていた。

特に、7月7日からドイツのハンブルグでG20首脳会議が開催されることに焦点を絞って、欧州議会「緑の党」などに呼びかけた。彼らは喜んで議会で劉暁波釈放に関する議案を提議し、発言を行なった。

たとえばドイツの欧州議会、緑の党元主席(Reinhard BUTIKOFER)は「中国は即刻、劉暁波を釈放し劉暁波とその妻・劉霞の自由を与え、劉暁波が自由に治療を受ける地を選べるようにすべきだ。非人道的な措置は許されない」と主張。

イギリスの議員(Margot PARKER)、ポーランドの議員(Anna Elzbieta FOTYGA)、デンマークの議員(Anders Primdahl VISTISEN)、ハンガリーの議員(aszlo TOKeS)およびフランスの議員(Sylviane H. AINARDI)なども発言した。その他、ギリシャ、ハンガリーやポーランドなど、十数名の議員が発言したという(スペリングは英文字以外は表記が困難なため、多少異なる)。

欧州議会の議員らは、劉暁波の即時釈放とともに、理由なしに逮捕されている台湾の李哲明の釈放も同時に求めている。

李哲明は台湾の民進党元職員で、現在は人権問題に関する活動をしているNGO(非政府組織)職員。今年3月29日に国家安全危害容疑により広東省で拘束された。中国の国家安全危害罪はスパイ行為とか国家分裂を画策する行為などを適用対象としているが、摘発の基準は不透明だ。当局が「疑義がある」と判定するかしないかだけで摘発するか否かが決められ、「いかなる基準で摘発するのか」という具体的な線引きは明らかにされていない。



日本で共謀罪が少なからぬ反対を受けている状況と似ている。

日本の国会では、この答弁が明確には成されなかった。これは中国における国家安全危害罪同様、恣意性があるか否かという点において、注意が払われるべきである。

ワシントンの人権派弁護士からのメールによれば、欧州議会において、劉暁波釈放に関する議題は7月6日の午前中に提出され、お昼の12時20分に可決されたというから、実に見事なものである。

中国は突如、ドイツとアメリカの専門医を受け入れた

これらの動きを受けて、中国政府は突如、ドイツとアメリカの専門医が、劉暁波の治療に当たるために遼寧省の病院に行くことを認めた。最初は「中国における診療資格がない」などと言っていたが、7日に受け入れを認め、ドイツとアメリカの専門医が瀋陽入りした。 

実は中国国内外の民主活動家たちは、もしも欧州議会で決議されなかった場合は、特定の国が動議としてG20首脳会議で「劉暁波を自由の身に」という要求を習近平に対してしてくれることになっていたとのこと。人権を重んじる民主主義的価値観に基づき、常に人権の侵犯を侵す中国を非難するという約束が成されていたとなだという。そのため習近平は、慌てて専門医受け入れを決めたのだという。

G20で習近平、影薄く

7月7日からドイツのハンブルグで開幕したG20首脳会議において、習近平の存在感は薄かった。プーチン大統領とはモスクワで事前に会っているし、トランプ大統領との会談は、G20閉幕後の、最後の最後に回されている。ひょっとしたら米中首脳会談は無くなったのかもしれないと中国政府関係者さえ気を揉んだようだ。G20閉幕のニュースが流れても、中国の中央テレビ局CCTVでは、米中首脳会談のニュースが流れなかった。ようやくその情報が届いたのは、8日の深夜のことである。

あの(人権問題で米国内で非難を受けている)トランプ大統領でさえ、習近平との会談を日程の最後の最後に回すことによって、「人権問題に対する中国への抵抗」を暗に表明している。

日本と韓国の首脳との会談は、それでも少し早目に行なっているが、それは日本と韓国が習近平との会談を熱望したからであり、アメリカのような無言の意思表示はしていない。むしろ中国の方が、会談の場に中国の国旗とともに日本の国旗を置くなどして、人権問題に関して非難されないために配慮したほどである。

民主主義的価値観、未だ死なず

いま世界は「自由と民主と人権」という「民主主義的価値観」が勝つのか、それとも、それらを無視して経済発展だけで民主の心を買っていく「一党独裁的価値観」が勝つのか、そのせめぎあいの中にある。



特にトランプ政権誕生後は、背後にキッシンジャーがいて、トランプに影響力を持つ娘のイヴァンカとその夫クシュナーを洗脳し、親中に向かわせている(詳細は『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰か』に)。トランプがもし、親中に走って民主主義的価値観まで失うようだったら、世界は暗黒へと向かう。

しかしEUの欧州議会は多様性に満ち、人権を重んじる民主主義的価値観を失っていなかった。そして、トランプが、習近平との会談を最後の最後に回したということは、せめてもの救いだ。

日本は?

G20には日本も参加しているが、なぜ日本に対しては働きかけなかったのかを、ワシントンの人権派弁護士らに聞いてみた。以前も「日本の日中友好は、中国政府に迎合することによって、中国の民主活動家を排除している」というメールがあったが、今般もまた「日中首脳会談における安倍首相の態度はどうだったか。パンダの赤ちゃんが無事に育っていることを以て日中友好促進を習近平に懇願するなど、人権などとはほど遠い姿勢だ」という、厳しい回答が戻ってきた。返す言葉がない。

G20における各国の姿勢は、「人権問題に対する一種の踏み絵」だと前述のコラム「嘘だらけの劉暁波の病状に関する中共プロパガンダ」で書いたが、その結果はおのずと明らかだろう。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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