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ゴーディの元気な姿にボーイズはみんなで感激――フミ斎藤のプロレス読本#041【全日本ガイジン編エピソード10】

7/10(月) 8:50配信

週刊SPA!

 199X年

 “ドク”スティーブ・ウィリアムスがにっこり笑って親指を立てると、ほんとうに「エブリシング・イズ・オーライEverything is all right」という感じがする。

 ドクは、責任をもってテリー・ゴーディを日本まで連れてきた。ゴーディは――カーニー夫人と3人の子どもたち以外では――世界でいいちばん信頼できる友だちにぴったりと付き添われてロサンゼルス発成田行きのフライトに乗り込んだ。

 太平洋を横断して日本に着けば甥っ子のリチャード・スリンガーがいるし、ほかの仲間たちともまた会える。

 1年まえ、ゴーディがこん睡状態に陥ったのも日本に向かう飛行機のなかだった。成田新国際空港に到着したときはすでに意識不明になっていて、300ポンドの巨体は担架に乗せられて機内から地上に運び出され、そのまま救急車で成田市内の病院にかつぎ込まれた。

 なんの“予告”もなくひょっこり全日本プロレスのリングに帰ってきたゴーディは、ふうわりとヒゲを伸ばしていた。丸くてくりくりの大きな瞳は少しも変わっていない。

 体のほうは、やせ細ってもいなければ太り過ぎでもない。まえよりもほんのちょっとだけ無口になったみたいだけれど、顔には静かな微笑をたたえている。生死の境をさまよったのだから、おとなしくなるのも無理はないかもしれない。

 ジャイアント馬場さんは、いつもゴーディのことを気にかけていた。体のぐあいはどうなのか。いつになったらレスリングができるようになるのか。それとも、ほんとうにもうダメなのか。

 リハビリの経過についてはリチャードがきっちりと報告してきてはいたが、それでも不安な馬場さんは、シリーズ・オフを利用してアメリカへ飛び、自分の目でゴーディの様子を確かめてこようとさえ考えた。

 ドクはドクで、兄弟分を馬場さんのところまで連れてくるのは自分の役目なのだ、というふうにとらえていた。アメリカに帰っているあいだは、毎日のようにゴーディと連絡をとった。そんなことをしているうちに約1年が過ぎた。

 ゴーディのカムバックは、ボーイズをすっかり感激させた。ドクやリチャードだけでなく、ジョニー・エースもダグ・ファーナスもダニー・クロファットも、1年じゅうオールジャパンのリングに上がっているボーイズはみんな家族のようなものだ。

 ゴーディが倒れたとき、成田空港のロビーに居合わせて、ずっしりと重いストレッチャーを救急車に乗っけるのを手伝ったクロファットは、元気になったゴーディをみて涙ぐんだ。

 試合ができるようになったといっても、やっぱり本調子にはほど遠い。あれほどリングの使い方をよく知っていたゴーディが、なんとなく手探りのプロレスをつづけている。技に入るときもロープに走っていくときも、どうしてもタイミングが少しずつズレてしまう。

 ドクは、パトーナーのコンディションをかなり冷静に分析している。

「ジャンボ(鶴田)みたいに、ゆっくり戻していけばいいんじゃないか? あれだけ動ければ大したもんだよ。まる1年も休んでいたんだからな」

 ドクは、ゴーディとのタッグがもうしばらくはおあずけなのをよく知っている。ゴーディがいないあいだ、ドクはシングルプレーヤーとしてがんばってきたし、番付ではすぐに下の位置につけているエースもドクとタッグを組んでもそれほど不自然ではないくらいのところまでグレードを上げてきた。

 兄弟分のことはやっぱり心配でしようがないけれど、これからは自分のことだって真剣に考えていかなくちゃならない。

 初めて三冠ヘビー級王座を手に入れた試合では、ゴーディとエースとリチャードがセコンドについてくれた。ドクは、スタン・ハンセンをどかすことができるのは自分しかいない、という意識を強く持っている。

 リチャードはリチャードで、これからのプランを練っている。いろいろ考えてみたけれど、やっぱりアンクル・テリーがいないところでプロレスをつづけていく気にはなれない。

 リチャードは、自分がもうちょっと背が高くて、もうちょっと髪を伸ばせば、もっともっと叔父さん似になれるかもしれないと考えていた。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:7/10(月) 8:50
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