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藤井四段が口にした「僥倖」、かつての名人と同じフレーズ

7/11(火) 7:00配信

NEWS ポストセブン

 前人未到の連勝記録が途切れても、メディアの“藤井フィーバー”は止まらない。ただ、対局時に注文する食事メニューや通っていた幼稚園の教育法にまで注目が集まる一方、この14歳のプロ棋士について、「羽生マジック」のような、将棋の強さを表現するフレーズをほとんど目にしないのが現状だ。その「強さの正体」はどのようなものか。将棋ライター・松本博文氏がレポートする。

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「連勝記録はいつか途切れてしまうものなので、その点に関しては仕方ないかなと思っています」

 藤井聡太四段は、いつもの通り淡々と、そうコメントした。

 デビュー以来無敗のまま、前人未到の29連勝を達成。これまでずっと勝者の側に立ってきた藤井は、終局後には将棋界の伝統通り、常に謙虚なコメントを続けてきた。藤井の発言は、将棋同様、ほとんど非の打ちどころがない。それは30戦目にして、初の黒星を喫した時も変わらなかった。

 将棋ほど、負けて悔しいゲームは、そうはない。幼少時の藤井は、負けた悔しさの余り、人目もはばからずに、よく泣いていた。内面の負けず嫌いは変わらない。しかし今では、将棋界の王道を歩む者の風格すら漂わせている。

「今日の気持ちを二字熟語とか、四字熟語で表わせれば、教えてください」

 最多タイ記録となる、28連勝目の記者会見では、そんな質問もされた。苦笑しながらも、そつのない受け答えをする天才少年とは対照的に、つたない質問をする報道陣の方が、やや滑稽にも映っただろう。

 ともあれ、相撲の横綱や大関の昇進時の口上のように、藤井が使う言葉は大きく注目された。それは藤井が、とても中学生とは思われないような、豊かな語彙(ボキャブラリー)の持ち主だからだ。

◆かつて「僥倖」と言った名人

 言葉の使い方ひとつで、その人が将棋に詳しく、理解がある、とわかる時がある。たとえば将棋をプレイする時に使う表現は、一般的には「打つ」ではなく、「指す」だ。立派な肩書きのコメンテーターが「将棋を打つ」と言うことはよくあり、それだけでがっかりしてしまう将棋ファンは多い。「指す」は12世紀から使われ続けている、古い言葉である。

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