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EU・中国の連携は「便宜上の結婚」

7/11(火) 12:13配信

Wedge

 6月6日付の米フォーリン・アフェアーズ誌ウェブサイト掲載の論説で、イタリアのアジア専門家であるカザリーニが、米英がEUから離れつつある中、中国がその空白に割って入り、EUとの関係を強化する方向にある、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。 

 トランプが西側同盟国を疎外し、英国がEU離脱を進める中、中国は静かに西側諸国に手を伸ばしている。6月1-2日のEU・中国首脳会議では、地球温暖化防止のために新しい緑の同盟を締結した。世界政治における新たな中・EU関係が始まっているのかもしれない。

 その1つの分野が通貨である。中国は、外貨準備の3分の1以上をユーロで、2分の1以上をドルで保有しているが、1999年以来ドルの保有は30%減少している。ドルからユーロへの移行傾向は、今後も継続すると見られている。

 欧州は、これまでにも中国の金融に関する野心の多くを支えてきた。2015年12月には、特別引出権(SDR)の通貨バスケットに人民元を含めるIMFの決議を全会一致で支持した。今や、EUと中国の間の貿易は米中間のそれに匹敵し、中国にとって欧州は米国以上の対外投資先だ。

 他方、欧州議会やいくつかのEU加盟国からは、中国には相互主義が欠けているとの批判もある。中国では、銀行や金融の開放が限定的であり、国内市場に対する外国からの投資に制限がある。欧州委員会は、中国の鉄鋼輸出が欧州の多数の雇用を危険に晒して鉄鋼部門を傷つけている、と主張している。

 とはいえ、首脳会談ではいくつかの合意も生まれた。中国とEUは、米国なしでも、汚染を減らし、海面上昇に対処する努力を継続するとともに、化石燃料の削減や多くの環境技術の開発、アフリカを中心とする貧困国の援助を目的とした資金の調達にも合意した。

 こうした中で、EUと中国は安全保障・防衛に関する関係も強化していく可能性が高い。さらに英国のEU離脱は、EU軍事委員会と中国人民解放軍との間の構造化された対話メカニズムの確立を促進しよう。英国は、こうした動きが米国に間違ったメッセージを送り、「米英の特別な関係」を損なう恐れがあることから、このような枠組み作りに一貫して反対してきた。これは英国が常にEUを単なる貿易ブロックに留め、グローバル・パワーになるのに必要な力と能力を与えることを拒否してきたからである。だが、今日、英国はEUを離脱し、トランプは西側の同盟国を疎外している。米国の世界的優位性に挑戦する潜在的可能性を持つあらゆる問題について、EUと中国との関係深化が容易になるだろう。

 しかし、中国とEUの連携は、堅実なパートナーシップというよりも、Brexitとトランプという共通の利害関係がもたらす便宜上の結婚となろう。我々は、米英の新たな力学が、中国とEUの新たな関係を永続的なものにしていくのかどうか、注視する必要がある。

出典:Nicola Casarini ‘A New Era for EU-China Relations?’ (Foreign Affairs, June 6, 2017)

 前ページの論説は、トランプ政権と欧州の関係が疎遠となり、また英国がEUから離脱しつつある現在、中国とEUの関係が新たに強化される方向に向かいつつある、とするイタリアのアジア専門家の論評です。

 欧州から見た場合、中国の重要性は、政治・安全保障面ではなく、どうしても経済面での結びつきが中心となります。本論評が欧州と中国の関係を貿易、投資、金融、気候変動など経済面での連携を主たる対象として論じていることはやむを得ません。

 一般論として言えることは、中国は国際場裏においては、ある時は、自らをグローバル・パワーの強国として位置づけ、またある時は、開発途上国のリーダーとして位置付けていることです。それらの使い分けは、もっぱら中国の都合によって決まります。本来、欧州として中国を見るとき、安全保障を含むより多角的な観点から関係全般を捉えるべきでしょう。

 中国とEUは、6月初め、地球温暖化防止のための協定に署名しました。これは、米国がパリ協定から離脱することを踏まえて、署名されたものです。地球温暖化問題において、中国は米国にかわり、リーダーシップを発揮しているように見えますが、周知のように、中国の果たすべき義務は途上国としての優遇措置を享受したものです。実体として、中国が世界一位の二酸化炭素排出国であることに変わりはありません。

 資本の流出規制など、一党独裁体制そのものが、不透明な「保護主義」の上に成り立っているにもかかわらず、トランプの「米国第一主義」は保護主義そのものであるとして、中国が保護主義反対のリーダーのように振舞うことがあります。人民元がSDRの基軸通貨の一つとして国際的に認められていることの不透明性、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の運営方針の秘密主義なども、中国経済の実態が十分に明らかではない点です。

 EU諸国としては、トランプ政権下の米国との関係、英国のEUからの離脱を踏まえ、中国との間で新しい経済関係が生まれることを期待しているにちがいありません。しかし、やがて中国との関係の深まりとともに、中国経済の種々の厚い保護主義の現実に直面せざるを得なくなるものと思われます。

岡崎研究所

最終更新:7/11(火) 12:13
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