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ラヴェルのボレロには“内周から聴くレコード”が適している理由

7/11(火) 17:10配信

サライ.jp

文・絵/牧野良幸

アナログ・レコードが好きなオーディオ小僧は、今日もレコード盤に針を落とす。

温かみのある音が流れてくる。分厚く、伸びやかでもある。この音を聴いていると、まるで温泉にでも入っているかのように脳がほぐれる。「やっぱりレコードの音は最高だわ!」と思う。

しかしである。曲が進むにつれ、気になるところが出てくるのだ。最初あった伸びやかさが、それほどでもなくなる。大きな音では歪みも出始める。レコード盤を見ると、針は真ん中あたりだ。

やがては音全体が滲むようになる。音楽も終盤にさしかかった。最後には大音量のクライマックス。しかしレコードはダイナミックな音ではなく、大きな歪み音を出して終わるのであった。

ため息をついて立ち上がるオーディオ小僧。たかだか20分ほど前は「レコードの音は最高!」と言っていたくせに、針を上げる今はその言葉を撤回したく思っている。

正直に言おう。アナログ・レコードの音がいいのは外周の部分なのである。言い方を変えれば、外周でベスト・パフォーマンスを聴けるのがアナログ・レコードだ。

レコード盤は内側にいくほど円周が小さくなり、針の読み取りが難しくなるから音が歪みがちになる。とくに中古レコードではそういう状態になりやすい。「アナログ・レコードは外周しか聴かない」と豪語する人もいるくらいだ。

もちろん現在生産されるアナログ・レコードは、カッティングをなるべく内周までいかないように考慮してある。しかしクラシックでは曲の長さが決っているからギリギリまでカッティングしなくてはならない場合も多い。当然クライマックスは音量も大きくなるから、その点でアナログ・レコードはCDに比べると不利と言わざるをえない。

しかしそんな不満に応えるレコードがある。TACET(タシェット)がリリースした『oreloB』という盤だ。ラヴェルの「ボレロ」を片面に収録しているが、なんと内周からレコードを再生するカッティングとなっている(アルバムタイトルもスペルが逆さまになっているのにお気づきだろうか?)。

ご存知のように「ボレロ」はピアニッシモから始まって大音量で終わる曲である。どうしても内周にクライマックスがくるから、アナログ・レコード泣かせの曲だった。

しかし『oreloB』はレコード針を内周から落とすので、音量が増していっても外周のために歪みが出にくい。まことに理屈にかなったレコードと言える。

オーディオ小僧も実際に聴いてみたが、確かにオーケストラの音が増大していっても歪みがおきない。最後まで音が伸びやかだ。天井が高く「どんどん音量を出しなさい」という感じ。

内周から聴くレコードは昔なら考えられなかったはずだ(実際にはいくつかあったけれども)。前回のダイレクト・カッティングのLPもそうだったが、高音質を生み出すためのユニークな作り。これも現代のアナログ・レコードならではの面白さだ。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。

最終更新:7/11(火) 17:10
サライ.jp