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ヴェルディで起きている変革。スペインの智将・ロティーナ監督が選手に与える要求

7/11(火) 15:30配信

フットボールチャンネル

 スペインのラ・リーガで一時代を築いた智将、ミゲル・アンヘル・ロティーナ新監督のもとで変貌を遂げつつある東京ヴェルディ。組織的な堅守をベースに、リスクを排除した戦いで上位に食らいつきながら突入した後半戦は、それまでの戦いから大きな変化が生じている。キャプテンのDF井林章の言葉をもとに、10年ぶりのJ1昇格を目指す、Jリーグ黎明期の盟主の現在地を紐解いた。(取材・文:藤江直人)

●2バックに近い4バック。明確なメッセージ

 開幕へ向けた準備を進めながら、今シーズンから東京ヴェルディの指揮を執るスペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、選手たちにこんな言葉をかけていた。

「シーズンが折り返すころには、もっと強い要求をしていく」

 基本的には個人よりも組織。堅実な守備をベースに、リスクを冒さない戦い方で確実に勝ち点を積み重ねた結果として、セルタやエスパニョールといった中堅クラブをラ・リーガの上位に導いてきた。

 60歳を迎えたばかりの智将によるアプローチは、ヴェルディにおいても変わらない。短い時間で守備組織を整備し、大分トリニータとの第2節からは破竹の5連勝をすべて完封で達成している。

 だからこそ、ホームの味の素スタジアムにファジアーノ岡山を迎えた9日のJ2第22節で振るった采配は異彩を放った。くしくも指揮官が開幕から言及していた、長丁場のシーズンの後半戦初戦でもあった。

 1点を追う後半26分。2枚目の交代カードとしてDF永田充に代えてFW高木大輔を投入し、最終ラインの形をそれまでの3バックから4バックに変えた。キャプテンのDF井林章は、ロティーナ監督からの明確なメッセージを感じていた。

「4バックというよりは2バックに近い感じでした。かなりリスクはありましたけど、それでも攻勢に出るという考えのもとで、ディフェンダーを一人削ったんだと」

 それまでは左右のワイドだった安在和樹と安西幸輝が、左右を入れ替える形でサイドバックに配された。レフティーの安在が右サイドバックを務める。要は攻め上がってからクロスをあげるのではなく、中へ切れ込んでからのコンビネーションやミドルシュートが求められる。

 左の安西も然り。必然的に両サイドバックは、まるでウイングのように高い位置を取る。井林が思わず苦笑いした2バックのもとで一気にプレッシャーを強めたヴェルディは、布陣変更から4分後に獲得した左コーナーキックを、DF平智弘が豪快に頭で決めて同点とした。

●「0-1で負けるのも、0-2で負けるのも私たちにとっては同じこと」

 試合後の公式会見。ロティーナ監督は陣形を4バックに変える前から、よりリスクを冒した戦いを要求していたと明らかにしている。

「カジ(梶川諒太)もボランチとしてプレーさせていたので、かなりリスクをかけていた」

 最初の交代カードとして、後半17分にボランチの橋本英郎に代えてフォワード登録の梶川諒太を投入。164センチ、60キロの小柄なボディに豊富なスタミナを搭載したテクニシャンを中盤に配置して、攻撃を活性化させた。指揮官はさらに、高木大を投入した意図にも言及した。

「0-1で負けるのも、0-2で負けるのも私たちにとっては同じことなので。相手のペナルティーエリア近くにより人数をかけて、点を取りにいった」

 キャンプの段階から、ロティーナ監督は一貫して3バックを敷き、まずは守備を安定させる戦い方を浸透させてきた。4バックは練習でも試したことがないなかで、ロアッソ熊本に0-4で大敗した1日の前節でちょっとした“異変”が起こる。

 3点のビハインドで迎えた後半24分に、DF畠中慎之輔に代えて橋本を投入。陣形を突然4バックに代えた。このときも、最初の交代カードで梶川を投入している。開幕前から公言していた「もっと強い要求」とは、つまり組織よりも個人に比重をかける戦い方だったのだろう。

 日本のことわざで表現すれば「虎穴に入らずんば虎子を得ず」となる戦い方をぶっつけ本番で、もっと踏み込んで言えば臨機応変に求められた意図を、井林はこう受け止めている。

「自分たちがもうひと皮むけなきゃいけない時期なのかな、と思っています。今日みたいな試合展開になれば、最終ラインが少し無理な状況でも個人の力で何とかしなければいけない時間帯が出てくるし、そういう部分を要求されていると思うので、そこは強く意識しながらやっていきたい」

●智将の緻密なアプローチ。組織的な守備の構築

 組織的な守備を構築させるためのロティーナ監督のアプローチは、井林によれば、微に入り細という表現がぴったりと当てはまるほど緻密だったという。

「隣や前後の選手との関係を常に意識したなかで、自分が取るポジションが決まってくる。いままではいかにして1対1で負けないとか、目の前の相手を潰すかということを意識していたんですけど、いまはチームとしてどこのポジションを守り、どのタイミングでそのポジションを崩していくかを考えさせられている」

 たとえば、2月の沖縄キャンプ中には、川崎フロンターレとの練習試合を組んでいる。人もボールも絶え間なく動く独特のスタイルを相手に、ポジショニングの重要さを肌で感じさせることが狙いだった。

「川崎のように穴を突いてくるようなチームは相手をつり出して、そこにできたスペースにどんどん入ってくる。そういう攻撃をさせないためにも、それぞれのポジションをまずは守ることを徹底した。

 そのうえで、シーズンに入った後は、対戦相手の攻撃陣が裏にどんどん来るスタイルなのか、足元にどんどんもらってコンビネーションで崩してくるスタイルなのかによって、自分たちが前からプレスをかけにいくのか、まずは後ろのケアをするのかという守り方を、毎週のように繰り返してきました」

 井林の言葉を借りればチーム作りは第1段階を終えて、次なるステップへ突入しているのだろう。半年ほどの時間をかけて土台を完成させたうえに、状況や時間帯によって、個人の力や閃きで積極的にリスクを冒していく。流れを変える役割を託されている梶川は言う。

「堅いだけでは相手にも研究されますし、その意味ではリスクを冒していかないとゴールにもつながらないし、チームとしてもステップアップしない。だからと言ってむやみやたらに出ていくのではなくて、個人個人が機を見ながら考えてプレーしなければいけないと思っています」

●混戦のJ2。ここからが真の勝負に

 もちろん、リスクを冒し続けるだけでない。ファジアーノ戦では同点とした4分後に、FW高木善朗に代えてボランチの中後雅喜を投入。梶川を2列目に上げて、布陣を「4-4-2」に変更した。

 実質的な2バックになってからは幾度となくファジアーノのカウンターを食らい、冷や汗をかかされる場面もあった。2枚のセンターバックとダブルボランチで中央をしっかり固めたうえで、残り10分あまりで勝ち越し点を奪いにいった。

 最終的にはお互いに譲らず、1-1のドローで勝ち点1ずつを分け合った。それでも、4バックに変えてからさらに失点を重ねて大敗したロアッソ戦に比べれば、半歩ながら前進したと言ってもいい。

 後半戦に突入したJ2戦線は首位の湘南ベルマーレ、2位のアビスパ福岡がやや抜け出し、一方で3位の徳島ヴォルティスから14位のファジアーノまでが、勝ち点7差のなかにひしめいている。

 そのなかでヴェルディは水戸ホーリーホックと勝ち点35で並び、得失点差で上回る5位をキープ。ヴォルティスとの勝ち点差は4だが、ここからが真の勝負だと井林は表情を引き締める。

「まだまだですね。ずっと失点が続いているし、開幕当初に比べれば不安定な試合になっているので。ディフェンスとしてもこらえる時間帯はこらえて、チームとして点を取るべきところでしっかり取って、勝ち切らないといけない。ただ、昨シーズンまでと比べて手応えは間違いなくあります」

 10年ぶりとなるJ1昇格へ。スペインで一時代を築いた智将ロティーナのもとで変貌を遂げるヴェルディは、リスクを排除した組織的な戦いに、状況や時間帯によってリスクを冒す二律背反したスタイルを共存させながら、胸突き八丁の後半戦を勝ち抜いていく。

(取材・文:藤江直人)

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