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トランプ大統領長男とロシアの陰にキッシンジャー氏

7/12(水) 16:00配信

ニューズウィーク日本版

トランプ大統領の長男が米大統領選中の昨年6月にロシア人弁護士と会ったことが問題になっているが、キッシンジャー元米国務長官は昨年2月3日にプーチン大統領に会い、帰国後の5月18日にトランプ氏に会っている。

ドナルド・トランプ・ジュニア氏が疑惑のメールを公開

ワシントン、7月11日のロイター電によれば、トランプ米大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏は11日、昨年の米大統領選中にロシア人弁護士と会合したとされる問題を巡り、2016年6月3日付けの電子メールを公開したとのこと。

メールは、「トランプ氏の大統領当選に向けたロシア政府による支援の一環として、対抗馬だった民主党候補クリントン元国務長官に不利な情報を保有しているとされる弁護士との会合を、トランプ・ジュニア氏が快諾していたこと」を示している。

ロシア人弁護士の名はナタリア・ベセルニツカヤ。

仲介したのは広報担当者のロブ・ゴールドストーン氏。

ゴールドストーン氏は同メールで「ロシア政府のトップ検事が公文書に加え、クリントン氏に不利となる情報および同氏のロシアとの対応に関する情報をトランプ陣営に提供することを申し出た」としているが、ロシア人弁護士ナタリア・ベセルニツカヤ氏は「ロシア政府とのつながりはない」と語っている。

ドナルド・トランプ・ジュニアとロシア人弁護士との面会に関してはニューヨーク・タイムズが最初に報道している。

トランプ家とロシアとの関係を仲介したのはキッシンジャー氏

2016年2月3日、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、ロシアのプーチン大統領の招聘を受けてロシアを訪問した。ロシアのメディア「スプートニク」が、ロシア大統領府ペスコフ報道官の発表として明らかにした。それによればプーチンは、「こうした機会を利用して、現在の国際政治問題や今後の情勢の展開に関して話し合うことは、非常に重要だ」と言ったとのこと。

帰国後の5月18日、キッシンジャーはトランプに声をかけ、自宅に招いた。

そして2016年年10月、元国家安全保障会議ロシア担当上級部長(ブッシュ政権時代の大統領補佐官)のトーマス・グレハム氏は「ロシアを封鎖することはアメリカの利益にならない」旨のスピーチをしている。

グレハムは、ほかでもない、「キッシンジャー・アソシエイツ」の常務理事なのである。



キッシンジャー・アソシエイツとは

以下に述べる内容は7月19日発売の『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第一章で詳述している。

本が発売される前にキーポイントとなる内容をネットのコラムで発表してしまうことは問題があるかもしれないので、出版社の許可を得て、このコラムで事前に公開する。

キッシンジャーは1971年7月に、いわゆる「忍者外交」という形で、最初に中国を訪問している。中国では1976年に毛沢東が他界すると、1978年12月に鄧小平の号令により改革開放が始まった。その翌年の1979年、鄧小平はキッシンジャーに「中国に協力してくれるアメリカのハイテク企業を紹介してくれ」と頼んだ。

というのは、中国は1966年から1976年まで展開された文化大革命によってすべての高等教育機関が閉鎖され、武器以外の科学技術に関する研究はストップし、経済は壊滅的打撃を受けていたからだ。ハイテク産業における西側諸国とのギャップは埋めようもないほどに立ち遅れていた。

そのときキッシンジャーが紹介したのがヒューレット・パッカード(HP)だ。ヒューレット・パッカードの中国における電子産業参入は熱烈に歓迎された。そのことを知った他のアメリカ企業もキッシンジャーを通して鄧小平の承諾を得ながら中国に進出し始めた。

そこでキッシンジャーは1982年に「キッシンジャー・アソシエイツ」というコンサルティング会社を設立。

やがて中国に進出したいアメリカ企業だけでなく、アメリカに進出したい中国企業もキッシンジャーに相談するようになり、その「仲介料」として莫大な資産をキッシンジャーは手にするようになる。もちろん対象国は中国だけではない。

数十カ国の中の大口のお得意さんとして「ロシア」があることは、言うまでもない。

(旧)ソ連が崩壊を迎え始める少し前の1989年4月30日、ニューヨーク・タイムズはキッシンジャーが(旧)ソ連とアメリカの高官から金をもらってロビー活動を行なっていることに関して、これはロビイング法に反しており、顧客情報を開示していない問題点を大きく報じた。

しかしこのときキッシンジャーは「コンサルティング会社」なので情報公開できないと弁明して逃げ切っている。

キッシンジャーは後にロシア科学アカデミー外国人会員としてロシア政府による厚遇を受けるようになった。



トランプの新政権移行期間中にも

以下はすでに公開されている情報だ。

トランプが大統領に当選したあとの11月14日、プーチンはトランプに電話をして会談を行なった。そしてトランプは盛んに「プーチンはいい奴だ」と言い、中国では「トランプとプーチンが口づけしているイラスト」がネットに溢れたほどだ。しかし、「二人の仲」は「ロシアゲート」疑惑により裂かれ、二人が「親密でない証拠」を見せるかのように、ロシアが後ろ盾になっているシリアを攻撃して見せている(今年4月6日)。

キッシンジャーは大統領選挙期間中だけでなく、当選後の新政権移行期間中である昨年11月17日にもトランプタワーを訪れ、トランプに会っている。そのとき娘婿のクシュナー氏やフリン氏も同席しており、キッシンジャーはトランプにフリンを大統領補佐官・国家安全保障担当に推薦した。フリンはすでにロシアゲートの疑いにより辞任。クシュナーはロシアゲートの捜査対象としてFBIにより指名されている。

今般のトランプの長男、ドナルド・トランプ・ジュニアは別行動でロシア関係者と接触したようだが、「2016年2月:キッシンジャー&プーチン会談、同年5月:キッシンジャー&トランプ会合、同年6月:ジュニア&ロシア人弁護士会合」という流れから見て、陰にキッシンジャーがいなかったと解釈する方が、むしろ困難だろう。
キッシンジャーにとって、外交経験のないトランプは格好の「利用対象」だったにちがいない。その闇は、まだまだ深い。

今後も、少しずつ、明らかにしていきたい。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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