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中高年もスマホで支払う中国、20年間もリニア実験中の日本 - 李小牧(り・こまき) 元・中国人、現・日本人

7/12(水) 17:44配信

ニューズウィーク日本版

<日本では政治家やエリートサラリーマンがガラケーを使っていても不思議ではないが、中国は違う。なぜ中国ではこれほど変化が早く、人々が新しい事物をどんどん受け入れているのだろうか>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

私は常に建設的な批評をするよう心がけている。日本に対しても中国に対しても、耳の痛いことを言い続ける頑固親父というポジションを守ろうと思っている。なかには両方に甘いことを言う二枚舌の輩もいるが、それではジャーナリズムは成り立たない。

というわけで、ついつい中国についても厳しい意見を書くことが多いのだが、もちろん中国にも認めるべきところは多々ある。

「批判精神は大事ですが、日本人が中国から見習うべきこともあるのではないでしょうか? 日本人は今の中国から何を学べるでしょうか?」編集者からこのようなお題をいただいたので、今回は中国の凄さ、学ぶべき点について紹介したい。

私は毎月のように中国に出張しているが、訪問するたびにその変化の早さに驚いている。高層ビルが竹の子のようなペースで伸びていき、次から次へと地下鉄がオープンする。新しいショッピングモールも増えていく。

先日、山梨県のリニア実験線近くを通りがかったのだが、1996年の開設から20年以上が過ぎた今も営業運転は実現していない。今の計画では2027年の開業を目指すという話だが、まだ10年も先である。中国ならばおそらく数年のうちに作ってしまうだろう。

建築物だけではない。日本では政治家やエリートサラリーマンがガラケーを使っていても不思議には思われないが、中国だったらどんな趣味人なのかといぶかしがられるだろう。スマートフォン普及率は日本よりもはるかに高く、しかも便利なサービスが少なくない。

例えば、スマホを使ったモバイルペイメント(決済サービス)だ。アリババのアリペイ、テンセントのウィーチャットペイという2大サービスが席巻しており、大都市ならば現金を取り出す機会はないと言っても過言ではない。コンビニでもスーパーでもスマホのアプリで簡単に支払いができる。

たんに現金の代わりになるだけではない。モバイルペイメントを使った関連サービスも発展しており、個人間でも気軽に送金できるほか、公共料金や電話料金の支払いも楽々だ。駐車場も、車のナンバーを読み取ってスマホに使用料を請求するスタイルが普及しつつある。

仕事の連絡も変わった。昔はなにかというと電話していたが、今では緊急時以外には使わない。大部分の連絡はスマホのメッセージアプリ「微信」(ウィーチャット、WeChat)を使う。みな忙しい日々を生きているのだ。急に電話がかかってきて仕事が中断されてしまっては非効率だ。

最近では私も突然電話がかかってくるとムッとするようになってしまった。日本にもLINEがあるのだが、日本人の意識が保守的すぎるのだろうか。仕事の連絡には使わないという人が大半だろう。

【参考記事】中国SNS最新事情 微信(WeChat)オフィシャルアカウントは苦労の連続!



中国人は利害得失に聡く、柔軟性がある(ただし、政治思想を除く)

なぜ、中国の変化はこれほどまでに早いのか。中国が一党独裁の政治体制であり、いまだに途上国だから――。これが最大の理由だろう。変えるべきことが無数に残っているから劇的に変化させていく、しかも政府が強い権力を持っているので強力に推進できるというわけだ。

もっとも、世界には独裁体制の途上国はいくらでもあるが、中国ほどの発展を実現した国はない。政府がどれだけ旗を振っても、人々がついていかなければどうしようもないためだ。そこで第2のポイントとなる。なぜ、中国の人々は新しい事物に適応し、受け入れられるのか。

教育レベルの高さなどさまざまな理由があるが、最大の理由は、中国の人々が利害得失に聡く、便利なものをまずは受け入れて使ってみようと考える柔軟性を持ち合わせているからではないか。

日本でもスマートフォンとそのサービスを使いこなせば生活が便利になることは明白だが、少しぐらい損しても面倒なことはしたくないという中高年がほとんどではないだろうか。社会もデジタルデバイド(情報格差)に配慮して、乗り遅れた人があまり損をしないような仕組みになっている。

それに比べ中国では、便利になるのなら、お金が節約できるのなら、難しくてもともかく使ってやろうというチャレンジ精神に満ちた人が多い。スマホ万能の社会が到来するなか、使えなければひたすら不利益を享受することになる。

例えば自動販売機。中国にはスマホ払い専用の自動販売機まで存在する。スマホを持っていなければ、そこで水を買うことすらできないわけだ。日本にそんな自販機が存在したら怒り出す人が現れそうなものだが、中国では許されている。残酷に思えるかもしれないが、時代から取り残されたならば個人の責任だという意識が共有されているように感じる。

ただし、スマホなど新しいテクノロジーを受け入れることにはこれほど柔軟な中国人だが、こと政治思想に関してはともかく保守的だ。経済は改革開放されたというのに、思想は凝り固まったままなのだ。

私は自分が日本で体験した民主主義の素晴らしさを伝えることで、彼らの頭を柔らかくしていきたい。私一人の力では不十分だろうが、私の考えを知った人が10人、100人、1000人、1万人と増えていけば、彼らも伝道師として周囲に伝えていってくれるはずだ。

そう信じて私は今日もスマートフォンで書き込みを続けている。SNSを通じて中国の若い人々に思いを伝えることができるはず。57歳の私も新しいテクノロジーの力を信じている。

【参考記事】中国のイノベーション主導型成長が始まった


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李小牧(り・こまき)

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