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訪朝アメリカ人大学生死亡事件で見えてきた、10年で10倍強に激増した欧米人訪朝者

7/13(木) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 2016年1月から1年半にわたり北朝鮮で拘束されていた、22歳のアメリカ人大学生のオットー・ワームビア氏が釈放、帰国直後の6月19日に死去した。

 2016年1月2日に北朝鮮を出国する直前の平壌空港で拘束されたワームビア氏は、同年2月29日に開いた記者会見でホテルの従業員専用エリアにあった鉄板製のプロパガンダ掲示を盗もうとしたと罪を告白。北朝鮮当局は、ワームビア氏に労働教化刑15年という判決を下した。

 それから1年4か月後、ワームビア氏は昏睡状態で釈放されて帰国から1週間も経たずに亡くなった。北朝鮮は昏睡状態になったのは、ボツリヌス菌に感染したためと主張するも、アメリカの医療機関が検査してもボツリヌス菌の感染痕跡はなく、心停止だと推測される要因で脳に強いダメージを負っていると発表している。遺族が司法解剖を希望しなかったのでワームビア氏の死因は特定されないままになってしまった。

◆金正恩の顔写真掲載の新聞紙で靴を包んで拘束!?

 ワームビア氏が拘束された理由についても、2月の記者会見では米国政府ともつながりがあるキリスト教団体から依頼されたものだと固有名詞を出して告白しているが、これはでっち上げで、本当の理由は、北朝鮮の『労働新聞』で靴を包み、靴底が金正恩党委員長の顔写真に当たったからという韓国筋を話を2017年6月24日の『産経新聞』が報じている。

 それは十分にありえると話すのは、北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の宮塚利雄代表だ。

「北朝鮮が1985年に公開した怪獣映画『プルガサリ』に出演した日本人俳優の薩摩剣八郎氏が昼食時に金日成が載っている労働新聞を敷いて食べようとしたら、北朝鮮関係者が慌てて飛んできて“首領さまの写真を尻に敷くとは!”と大騒ぎになったことがありました。日本人であれば、新聞紙を敷くなんて珍しいことではないのですが、北朝鮮では、指導者の顔を踏みつけるような行為は重罪になります。これは今でも同じで、労働新聞の一面に最高尊厳である金正恩党委員長の写真が真ん中に掲載されることが多いので、労働新聞を海外へ発送するときには、真ん中から折らずにで三つ折りにして送るようになっています。最高尊厳である金党委員長が載る新聞を粗末に扱うことは、最高尊厳を傷つける行為と見なされ重い罪となるのです」

 確かに、筆者が北朝鮮でホテルへチェックインしたときも、ガイドから「我が国の最高指導者が載る新聞記事や写真などを破ったりして客室内に絶対に残さないように」と口が酸っぱくなるほど言われた記憶がある。

 ワームビア氏と同じタイミングで訪朝していた日本人は、「ワームビアさんたちのグループと板門店や錦繍山太陽宮殿など主要観光地で遭遇しています。北朝鮮側の旅行会社も同じだったので同じレストランで食事もしています」

 ワームビア氏が犯行を実行したという2016年1月1日については、「その日は彼らと同じ羊角島ホテルに宿泊していました。1階フロント前にカフェがあり深夜、彼らのグループ6、7人が飲んでいたのを覚えています。羊角島ホテルで夜12時ごろにビールが買えるお店がそのカフェと奥のレストランくらいしかないので安いカフェで買ったのでよく覚えています。そのグループにワームビアさんがいたかは定かではないのですが、皆、相当酔っていて楽しげに騒いでいましたね。帰国して3月1日にワームビアさんの記者会見のニュースを見て背筋が凍りました…」

 ワームビア氏死亡を受けて彼を手配したヤング・パイオニア・ツアーズ(中国・西安)は、アメリカ人の訪朝手配を停止すると発表した。

 しかし、実際のところアメリカ人を含む欧米人による訪朝は、ここ十数年で、10倍ほど増えているのだ。

 昨年、観光目的で訪朝した日本人はというと100人ほどで、2002年、最初の小泉訪朝の年である「アリラン祭」初年度の約1200人をピークに年間100人から130人とほぼ横ばい状態であった。しかし、ロイターの報道によれば、正式発表はないが旅行代理店の話からの推測として2003年は約700人だった欧米人訪朝者が10年後の2013年には、約6000人にまで増えているという。

 2012年は、北京の高麗ツアーズ1社だけでアメリカ人約500人が訪朝しているという。さらに中国の代理店へ確認したところ昨年の欧米人訪朝者は約8000人、うちアメリカ人は約300人とのことで欧米人訪朝者の増加傾向は続いているようだ。

 北朝鮮を観光で訪れる欧米人が増えた大きな要因は、北朝鮮専門の旅行会社が次々と誕生したことだ。最古参は、1993年に中国在住のイギリス人が創業した高麗ツアーズ(北京)。2008年には、ヤング・パイオニア・ツアーズ、こちらも創業者はイギリス人。2011年は、チュチェツアーズ(イギリス・ロンドン)、その他にも、ウリツアーズ(アメリカ・ニューヨークと上海)も2000年代後半に誕生している。4月に来日講演したカナダ人のマイケル・スパバ氏も欧米人向けの北朝鮮旅行の企画手配をしているので、北朝鮮が外貨獲得のために観光業へ力を入れたことと連動してビジネスチャンスと捉え北朝鮮専門旅行会社が誕生したことがわかる。

 拉致問題を抱え、安全保障上の脅威でもある隣国日本とは違い、地理的に遠い欧米には、未知なる謎の国でしかないのだろう。欧米人向けの旅行会社では、非日常や神秘体験、冒険心を掻き立てるようなキャッチコピーでPRし集客を重ねてきた。きっと「秘境探検ツアー」のような位置づけなんだろう。

 ワームビア氏死亡事件の影響で欧米人訪朝者は多少減ることが予想される。しかし、忘れてはいけないのは、もっとも北朝鮮を訪れれている中国人の存在である。中国の代理店によると、昨年、訪朝した中国人は約2万5000人だそうだが、ここには昨年から中国で正式に始まったビザなし訪朝の人数は含まれていない。ビザなし渡航者を含めるとこの人数の2、3倍に達するだろうと言われる。いくら欧米人が減ってもその10倍いる中国人旅行者が北朝鮮旅行を下支えする状況は続く。

<取材・文/中野鷹>

※参照 「宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」 7月5日通巻40号

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