ここから本文です

【著者に訊け】小説すばる新人賞・中村理聖氏 『若葉の宿』

7/14(金) 16:00配信

NEWS ポストセブン

【著者に訊け】中村理聖氏/『若葉の宿』/集英社/1600円+税

 福井出身で東京の大学に学び、京都の出版社に就職。中村理聖氏は7年半の古都暮らしを、「京都に住ませてもらっている」と表現する。

「地元のあるおじいさんが教えてくれたんです。特に私はよそ者なので、『京都はそれくらいの心持ちで住むとちょうどよろしい』って。今はその京都を、書かせてもらってもいますけど」

 小説すばる新人賞受賞から3年。受賞第一作『若葉の宿』は、手作りの朝食ともてなしが自慢の町家旅館〈山吹屋〉の〈夏目若葉〉の心の揺れを丁寧に描いた青春小説だ。父を知らず、就職もままならなかった若葉は、祖父の紹介で京随一の老舗旅館〈紺田屋〉で仲居を始めたものの、いつも失敗ばかり。山吹屋では祖父母を手伝う一方、自分を捨てた母〈亜希子〉に未練を残し、将来の夢も特にない、気弱な21歳だ。

 そんな彼女のじれったい成長を見守る間にも、古都には四季が移ろい、様々な決め事が粛々と守られていく。人と町、伝統と革新のコントラストも鮮やかな、京都ならではの物語である。

 観光でゆく京都と、住む京都。その落差を住民かつ非京都人として肌身に知る中村氏は、本書を祇園祭で賑わう7月から始めている。

〈五条大橋を模した小さな橋は、夏の日差しを浴びて、町家の一階で黒々と輝いていた。格子戸が外された二階から、片足立ちの美しい牛若丸と、大きな目を見開いた逞しい弁慶が町内を見下ろしている〉〈ハレの舞台に現れた橋弁慶山を見上げると、夏目若葉の心は重たくなった〉〈祭りのざわめきが遠く感じられ、違う世界の出来事のように思った〉

「この山吹屋にはモデルがあって、四条を少し下った南に私の友達のお祖父さんが始めた家族経営の宿があるんです。祇園祭の山鉾で“カマキリの山”ってわかります? あれを操るからくり人形師さんが宵山の日は泊まるらしいです。

 祇園祭の頃は〈ヒオウギ〉という扇を開いた形の花を活け、家の中のしつらえや着物の柄、日々の献立にも四季が細やかに巡る。それを私は書きたかったのかもしれない。例えば祇園祭そのものより、祇園祭の時の生活に興味があるというか。特に京都は季節ごとの行事には事欠かない町で、本当にこんな生活をしている人達がいるんだなって感じ入ります」

1/3ページ